御名神亭の業務日誌
≫2005年03月23日
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SS 『鬼哭麺』第五話 「元氏双包丁」後編
アーカムシティーの一画、通称「屋台街」では、今まさに『紫電麺』コン・タオローと青雲飯店の『元氏双包丁』元兄弟の勝負が始まろうとしており、周りの屋台も客も一瞬たりとも見逃さないように集中する。
「ゆくぞ!」
「「おうよ!」」
双方、見事な手際で調理が進む。タオローの名声は勿論、元兄弟も青雲飯店で名の知れた料理人であり、また二人のコンビネーションももはや芸術の域に達していた。
『天魔輻射熱!』
見事な腕前で弟がチャーシューを直火で炙り、投げた…、そのまま宙を舞うチャーシューを兄がスライスしてゆく。
『麺 碼 覆滅陣!!』
兄が湯切りをしてスープを注ぐ、弟はメンマをはじめ、ネギ、煮玉子等の具材をドンブリに美しく並べる。
「ふん!」
ジャッッ!
タオローもまた麺かごを一閃、淀みなく舞うように具を盛り付ける。
今までのような妨害は一切無い。観客は双方の妙技に魅せられる。
「「お待ち!」」
双方同時に出来上がり、いよいよ互いの一杯に箸をつける。全ての観客が審査をしたいと思ったが、審査の大役を買えばその重圧たるや想像もつかない。結局、料理人同士の様子を見守るのが精一杯だった。
「……。」
「……。」
双方、長い沈黙を破ったのは元兄弟の弟、元尚英だった。
「クウゥっ!美味い、美味すぎるぞ兄者!」
「…そうだな尚英、これは…完敗だ。」
「だが何故だ?我等とて技術に自信がある。何故ここまで心に響く味なのだ?」
「…む!…分からん…。」
悩む兄弟にタオローが言う。
「確かにスープ、具材はお前達の方が美味いと思う。だが…お前達はこの一杯誰の為に作った?…俺はな…、正々堂々と勝負をし、今、二人で一杯のラーメンを分け合うお前達兄弟の為に作った。」
「…な、何!?我等の為だと?」
「あぁ、料理人は食ってくれる者の為に腕を振るう。俺も青雲飯店にいた頃、厨房の中では気付かなかったがな…。今、屋台を引き、お客の顔を見ながら作っていて思い出したのだ、腕を振るう目的をな。」
そう言いながら、タオローが傍らの幼年型のガイノイドをちらりと見るのを二人は見逃さない。
「…そうか、ならば我等も認めよう。そして、コン・タオローの“とある噂”も真実のようだしな…。尚英!此れより、我等兄弟は青雲飯店に別れを告げ野に下る。良いな?」
「ああ、俺も同じ事を思っていた所だ兄者。」
「では、サラバだ『紫電麺』よ。また会う事もあろうが…そうだ今一つ。現在の青雲飯店を甘く見るなよ。残りの店長は料理人の枠を超えている…バケモノだ…。」
「うむ、心得ている。お前達も達者でやるが良い。」
屋台を引く元兄弟に観客から盛大な拍手が送られる。その中を進みながら
「なぁ、兄者、こういう物も悪くないな…。」
「そうだな尚英。」
ガラにもなく照れる兄弟とは反対方向に進むタオロー。隣について来るルイリーがチャルメラを鳴らす。
「…は!まさか…。」
タオローは何かに気付きながら、夜のアーカムシティーに消えていく。
ここはアーカムシティー『食の大黄金時代にして、代暗黒時代にして、大混乱時代。』食に賭けた熱き漢達の集う街。 (第五話 了。)
「ゆくぞ!」
「「おうよ!」」
双方、見事な手際で調理が進む。タオローの名声は勿論、元兄弟も青雲飯店で名の知れた料理人であり、また二人のコンビネーションももはや芸術の域に達していた。
『天魔輻射熱!』
見事な腕前で弟がチャーシューを直火で炙り、投げた…、そのまま宙を舞うチャーシューを兄がスライスしてゆく。
『麺 碼 覆滅陣!!』
兄が湯切りをしてスープを注ぐ、弟はメンマをはじめ、ネギ、煮玉子等の具材をドンブリに美しく並べる。
「ふん!」
ジャッッ!
タオローもまた麺かごを一閃、淀みなく舞うように具を盛り付ける。
今までのような妨害は一切無い。観客は双方の妙技に魅せられる。
「「お待ち!」」
双方同時に出来上がり、いよいよ互いの一杯に箸をつける。全ての観客が審査をしたいと思ったが、審査の大役を買えばその重圧たるや想像もつかない。結局、料理人同士の様子を見守るのが精一杯だった。
「……。」
「……。」
双方、長い沈黙を破ったのは元兄弟の弟、元尚英だった。
「クウゥっ!美味い、美味すぎるぞ兄者!」
「…そうだな尚英、これは…完敗だ。」
「だが何故だ?我等とて技術に自信がある。何故ここまで心に響く味なのだ?」
「…む!…分からん…。」
悩む兄弟にタオローが言う。
「確かにスープ、具材はお前達の方が美味いと思う。だが…お前達はこの一杯誰の為に作った?…俺はな…、正々堂々と勝負をし、今、二人で一杯のラーメンを分け合うお前達兄弟の為に作った。」
「…な、何!?我等の為だと?」
「あぁ、料理人は食ってくれる者の為に腕を振るう。俺も青雲飯店にいた頃、厨房の中では気付かなかったがな…。今、屋台を引き、お客の顔を見ながら作っていて思い出したのだ、腕を振るう目的をな。」
そう言いながら、タオローが傍らの幼年型のガイノイドをちらりと見るのを二人は見逃さない。
「…そうか、ならば我等も認めよう。そして、コン・タオローの“とある噂”も真実のようだしな…。尚英!此れより、我等兄弟は青雲飯店に別れを告げ野に下る。良いな?」
「ああ、俺も同じ事を思っていた所だ兄者。」
「では、サラバだ『紫電麺』よ。また会う事もあろうが…そうだ今一つ。現在の青雲飯店を甘く見るなよ。残りの店長は料理人の枠を超えている…バケモノだ…。」
「うむ、心得ている。お前達も達者でやるが良い。」
屋台を引く元兄弟に観客から盛大な拍手が送られる。その中を進みながら
「なぁ、兄者、こういう物も悪くないな…。」
「そうだな尚英。」
ガラにもなく照れる兄弟とは反対方向に進むタオロー。隣について来るルイリーがチャルメラを鳴らす。
「…は!まさか…。」
タオローは何かに気付きながら、夜のアーカムシティーに消えていく。
ここはアーカムシティー『食の大黄金時代にして、代暗黒時代にして、大混乱時代。』食に賭けた熱き漢達の集う街。 (第五話 了。)