御名神亭の業務日誌
≫『鬼哭麺』シリーズ
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SS 『鬼哭麺』最終話 外伝 「祭りの後…」
人々は去り、初めての役目を終えた『キッチンスタジアム』に三人だけが残って居た。
「さぁて、如何でしたかな、オーナー殿?」
恭しく、ツェ・イーターが礼をする。
「ふ、余興としては十分楽しめた。…しかし、貴公も人が悪い…いや、“人”ではなかったか。」
「…マスター?」
エセルドレーダは、目の前に居る只の初老の男に自分の主人が何を言っているのか分からなかった。
「ほぉ…、エセルドレーダにも分からぬとは上手く化けたものだな、ナイア。」
「!?」
テリオンに言われたツェの身体から漆黒の闇が、ジワリと漂う。
「いやいや、実を言えば今回は操り人形なんだよ。」
闇は別の方向から染み出した闇と混ざり、女の姿になった。
「何せ、相手は“気”を視認するだろう?必要最小限の介入で最大の効果を上げる実験さね。お陰で、人形の生命まで取らずに操れたよ。」
「貴公にしては珍しい気遣いだな。」
「まぁ、“結果として”、だけどね。」
人間一人の命などどうでも良い事のようにケラケラと笑うナイア。
「ともかく、美味しい料理に辿り着いた訳だから道化としては満足さ。次は愛しの九郎君が“神々の調理器具『輝くトラペゾヘド炉ン』”に至れば言う事はない。」
「…まぁよい。余もそろそろ帰るとしよう。今日の事でアウグストゥスでも弄って暇つぶしでもしたいしな。では行こうか、エセルドレーダ。」
「イエス、マスター。」
「君だって人が悪い。…いや、君も“人”じゃないか。くっくっくっ…。」
笑いながら、闇に消えていくナイア。最後に残ったのはツェ・イーターただ一人。
「…ん?…あぁ、そうか、タオロー君の店の事だったな、いやいや、ボーっとするとは私も歳を取ったのかな?さぁて、美味いラーメンは食えるし、商売は成立したし、今回は良い事尽くめではないか、はっはっはっ。」
どうやらこちらも、勝手に記憶をつなげているようで、笑いながら会場を出て行く。
そう、この街で食にかかわっていて、立ち止まる暇のある者は居ないのだから…。
……そして『機神厨房レモンパイン』に続く…わけが無い(笑
「さぁて、如何でしたかな、オーナー殿?」
恭しく、ツェ・イーターが礼をする。
「ふ、余興としては十分楽しめた。…しかし、貴公も人が悪い…いや、“人”ではなかったか。」
「…マスター?」
エセルドレーダは、目の前に居る只の初老の男に自分の主人が何を言っているのか分からなかった。
「ほぉ…、エセルドレーダにも分からぬとは上手く化けたものだな、ナイア。」
「!?」
テリオンに言われたツェの身体から漆黒の闇が、ジワリと漂う。
「いやいや、実を言えば今回は操り人形なんだよ。」
闇は別の方向から染み出した闇と混ざり、女の姿になった。
「何せ、相手は“気”を視認するだろう?必要最小限の介入で最大の効果を上げる実験さね。お陰で、人形の生命まで取らずに操れたよ。」
「貴公にしては珍しい気遣いだな。」
「まぁ、“結果として”、だけどね。」
人間一人の命などどうでも良い事のようにケラケラと笑うナイア。
「ともかく、美味しい料理に辿り着いた訳だから道化としては満足さ。次は愛しの九郎君が“神々の調理器具『輝くトラペゾヘド炉ン』”に至れば言う事はない。」
「…まぁよい。余もそろそろ帰るとしよう。今日の事でアウグストゥスでも弄って暇つぶしでもしたいしな。では行こうか、エセルドレーダ。」
「イエス、マスター。」
「君だって人が悪い。…いや、君も“人”じゃないか。くっくっくっ…。」
笑いながら、闇に消えていくナイア。最後に残ったのはツェ・イーターただ一人。
「…ん?…あぁ、そうか、タオロー君の店の事だったな、いやいや、ボーっとするとは私も歳を取ったのかな?さぁて、美味いラーメンは食えるし、商売は成立したし、今回は良い事尽くめではないか、はっはっはっ。」
どうやらこちらも、勝手に記憶をつなげているようで、笑いながら会場を出て行く。
そう、この街で食にかかわっていて、立ち止まる暇のある者は居ないのだから…。
……そして『機神厨房レモンパイン』に続く…わけが無い(笑
SS 『鬼哭麺』最終話 「鬼哭屋」
広い『キッチンスタジアム』の中は、タオローが調理を続けている音と、審査員のラーメンを啜る音だけが響いていた。
ギュゥ~ウゥン!ギュギュ ギュオオォォ~ン!!
最初に…そして場違いなほどの大音量で鳴り響いたもの…何処からか取り出した、ウェストのエレキギターであった。
「美味いのであ~る!伊勢海老やフカヒレの乗ったラーメンなど初めての快感であり、伝説の樹の下で大告白なので順番待ちなのであ~る!!」
「五月蝿いロボ!」
ごすっ!
客席から、ウェスト自身が作り上げたコックロイドエルザが現れ、肉叩きトンファー一閃。
「まったく!博士のせいで店の評判が落ちたらどうするロボ!」
そのままウェストを担ぐと出口に向かってしまう…審査員、一人脱落…。
その様子を見ていたアウグストゥスは、
「まったく、だからあの程度の男に審査など荷が重いと言うのだ。ここは僭越ながら、この私が料理の審査におけるリアクションという物を見せてやる!」
おもむろに、会場中央にまで進むアウグストゥス。ラーメンを一口啜ると…。
「う~ま~い~ぞ~!!」
叫ぶと同時に、背後からスープの津波が現れ、スーツを脱ぎ去り飛び上がるアウグストゥスは…金粉でも塗ったくった様に全身金色で…何処から出たのかサーフボードに乗っていた…
「コクのあるスープは六種の素材を極限まで引き出し、スープの絡む細打ち縮れ麺の喉越しが心地良い…あぁ…このままラーメンの海に溺れてしまいたい…ぬぐぉ!」
つるっ、とスープの油でテカるサーフボードから落ち
「がぁ~ぶらぁ~~!!」
そのまま、出口まで流されていった…審査員、二人目脱落…。
「はっはっはっ!流石はアウグストゥス、愉快ではないか。なぁ、エセルドレーダよ。」
「はい、マスターの仰せの通りです…。」
…いつものどうりの二人であった…。
そんなやり取りに、まったく気付かなかったようにリァノーンが一言。
「まぁ、美味しい。スープに雑味が無いのに深いコク。素晴らしいですね。」
「…いや、あなたも少しは気が付きなさいよ…。」
「そうおっしゃる諸井女史も検電計の端子を箸にするのも如何なものかと思いますが?」
「うるさいわよ、サイス氏。私の勝手でしょう?この針の動きを見なさい、確かに微量に蓄電されている…この麺を再現出来ればわが社の利益になるのよ。」
「そうよ!このスープのサンプルを持ち帰ってレシピを再現して、どっかの企業にでも売り込めば…いい小遣い稼ぎになるじゃない。」
「Dr.都もですか。…研究熱心な事で…しかし、時には至福の味わいを楽しむのもよい物ですよ?」
「はん!おっさんのたわ言に付き合ってられねぇなあ。…確かに美味いが、後に残ったのがくたばりぞこないじゃぁ面白くねぇ、暇つぶしになるかと思ったが、やっぱり俺は降りるぜ、じゃあな。」
さっさと出口に向かうジェイ…審査員、三人目自ら降板。
「…本当にこのメンバーで大丈夫なのでしょうか?ツェ・イーターさん?」
心底、呆れた様に瑠璃が隣のツェに問いかける。
「…まぁ、リアクション担当は致し方ありませんが…少なくとも、味にうるさい方達は残りましたので、このまま続行で問題無いと思いますが?」
「…本当でしょうねぇ、もしこの企画が潰れたら…あなたにもそれなりの覚悟というものをしていただきますよ?」
「は、はい、それは勿論…。」
少女とは言え、覇道財閥総帥の迫力に、ツェは言葉を濁すしかなかった。
「お待ち…。熱いうちに食ってくれ…。」
次にタオローのラーメンの試食なのだが…残った審査員達は、既にホージュンのラーメンを完食していた。
「…これ以上は…太るわよねぇ…。」
「ええ…ちょっと胸焼けが…。」
ホージュンは勝ちを確信していた。何故なら、審査員に女性がいるのならば最初の一杯でもう二杯目を食べる余裕は無い。
その為に、タオローより先にラーメンを出す必要があったのだ。勿論、その為にスープの配合を重めにしてもいた。
(ふっ、勝ったな…。)
だが、タオローはそんなホージュンに気付きもせず
「ともかく、一口だけでも食ってくれ。それで分かる。」
「では、頂きます。」
最初に口を付けたのはリァノーン。『給食鬼』たる彼女にはこの程度は何でもなかったのである。
「…まぁ、美味しい…。」
まさに、至福の笑顔。それに釣られて、他の審査員も口を付ける。
…麺を啜る音だけ響く中、ある者は至福の笑顔で、そしてある者は感動の涙を浮かべていた。
結局、誰一人スープ一滴すら残さず完食。
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
そして、いよいよ審査発表。審査員長の覇道瑠璃が勝者の名を名乗る。
「勝者、コン・タオロー!」
ワアアアアアアアアアアアァァァ…
割れんばかりの拍手の中、ホージュンだけが異論を唱えた。
「馬鹿な!何故この俺が負けねばならん!」
「…見苦しいぞホージュン君。では、君も食ってみたまえ。」
「ふん!ならば食ってやるさ!」
ひったくるようにドンブリを奪うと一口…
ホージュンの目から涙が溢れていた…。
「くっ!完敗だタオローよ…。」
「分かった様だな。君のように“勝つ”料理では、人は感動出来ない。何より“人を喜ばせよう”という料理こそが真に感動出来る料理なのだよ。
…で、君には罰ゲームを兼ねて、『トシマ』に新店舗の立ち上げに行って貰う。『男の料理 ヴィスキオ』を壊滅させるまでは帰って来れないのでそのつもりで…。」
「ま、待て!俺はあんな男だらけの場所になど行きたく無いぞ!止めっ!うわっ…」
ホージュンはツェの隠し持っていたスタンガンで気絶し、そのまま連れて行かれた…。
「おい…。」
「まぁ、あれしきで死ぬ男じゃ無いよ。さて、君への副賞だが…『青雲飯店アーカム二号店』を改装…。」
「俺は何も要らない、ルイリーと共にこの街を出て行く…。」
会場を立ち去ろうとするタオローをツェは呼び止める。
「あ~、ルイリー君なら…ホレ、あそこに…。」
「なっ!!」
見れば会場の端から、ルイリーと…ルイリーの魂の欠片が入っていたガイノイド達が、此方に向かって一緒に歩いてきた。
「兄様。」 「あにさま。」 「兄貴。」 「兄さん。」 「お兄ちゃん。」 「兄君。」
「な、な、な!」
「いや~、『魂の量子化』で分割され、再び統一して復元したルイリー君だがな…。再統合した時に君が壊したガイノイド達を回収、修復して『精神の電子化』でそれぞれにコピーしたら…少々ノイズが乗ってしまってなぁ…まぁ、オマケとして君にプレゼントしよう。それで、これだ!」
えらく軽い口調でとんでもない事をサラっと言うツェが、更に垂れ幕を引っ張ると…
『鬼哭屋』
と、書かれた看板であった。
「なぁ、タオロー君、せっかくの腕が勿体無いでは無いかね?で、話の続きだが、二号店を改装して、人員もルイリー君のコピーがこれだけ要れば大丈夫だろう?一週間も有れば新装開店出来るぞ。良かったなぁ。あぁ、そうそう、改装費もこちらで負担するから、後、家賃は…。」
そう言いつつ、電卓をはじくツェ。
「兄様、頑張りましょうね。」 「がんばろー!」 「やろうぜ!」 「うれしいです。」 「わは~い!」 「楽しみぃ~!」
“ルイリー達”は楽しそうだった。ワナワナと震えながら少しずつ理解していくタオロー…。
この街の名はアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』こうして、新たなる名店が誕生した。
その名は『鬼哭屋』食の鬼達すら慟哭すると言う、美味いラーメンを出す店。
「そんなの有りか~~~~!!」 (鬼哭麺 了。)
ギュゥ~ウゥン!ギュギュ ギュオオォォ~ン!!
最初に…そして場違いなほどの大音量で鳴り響いたもの…何処からか取り出した、ウェストのエレキギターであった。
「美味いのであ~る!伊勢海老やフカヒレの乗ったラーメンなど初めての快感であり、伝説の樹の下で大告白なので順番待ちなのであ~る!!」
「五月蝿いロボ!」
ごすっ!
客席から、ウェスト自身が作り上げたコックロイドエルザが現れ、肉叩きトンファー一閃。
「まったく!博士のせいで店の評判が落ちたらどうするロボ!」
そのままウェストを担ぐと出口に向かってしまう…審査員、一人脱落…。
その様子を見ていたアウグストゥスは、
「まったく、だからあの程度の男に審査など荷が重いと言うのだ。ここは僭越ながら、この私が料理の審査におけるリアクションという物を見せてやる!」
おもむろに、会場中央にまで進むアウグストゥス。ラーメンを一口啜ると…。
「う~ま~い~ぞ~!!」
叫ぶと同時に、背後からスープの津波が現れ、スーツを脱ぎ去り飛び上がるアウグストゥスは…金粉でも塗ったくった様に全身金色で…何処から出たのかサーフボードに乗っていた…
「コクのあるスープは六種の素材を極限まで引き出し、スープの絡む細打ち縮れ麺の喉越しが心地良い…あぁ…このままラーメンの海に溺れてしまいたい…ぬぐぉ!」
つるっ、とスープの油でテカるサーフボードから落ち
「がぁ~ぶらぁ~~!!」
そのまま、出口まで流されていった…審査員、二人目脱落…。
「はっはっはっ!流石はアウグストゥス、愉快ではないか。なぁ、エセルドレーダよ。」
「はい、マスターの仰せの通りです…。」
…いつものどうりの二人であった…。
そんなやり取りに、まったく気付かなかったようにリァノーンが一言。
「まぁ、美味しい。スープに雑味が無いのに深いコク。素晴らしいですね。」
「…いや、あなたも少しは気が付きなさいよ…。」
「そうおっしゃる諸井女史も検電計の端子を箸にするのも如何なものかと思いますが?」
「うるさいわよ、サイス氏。私の勝手でしょう?この針の動きを見なさい、確かに微量に蓄電されている…この麺を再現出来ればわが社の利益になるのよ。」
「そうよ!このスープのサンプルを持ち帰ってレシピを再現して、どっかの企業にでも売り込めば…いい小遣い稼ぎになるじゃない。」
「Dr.都もですか。…研究熱心な事で…しかし、時には至福の味わいを楽しむのもよい物ですよ?」
「はん!おっさんのたわ言に付き合ってられねぇなあ。…確かに美味いが、後に残ったのがくたばりぞこないじゃぁ面白くねぇ、暇つぶしになるかと思ったが、やっぱり俺は降りるぜ、じゃあな。」
さっさと出口に向かうジェイ…審査員、三人目自ら降板。
「…本当にこのメンバーで大丈夫なのでしょうか?ツェ・イーターさん?」
心底、呆れた様に瑠璃が隣のツェに問いかける。
「…まぁ、リアクション担当は致し方ありませんが…少なくとも、味にうるさい方達は残りましたので、このまま続行で問題無いと思いますが?」
「…本当でしょうねぇ、もしこの企画が潰れたら…あなたにもそれなりの覚悟というものをしていただきますよ?」
「は、はい、それは勿論…。」
少女とは言え、覇道財閥総帥の迫力に、ツェは言葉を濁すしかなかった。
「お待ち…。熱いうちに食ってくれ…。」
次にタオローのラーメンの試食なのだが…残った審査員達は、既にホージュンのラーメンを完食していた。
「…これ以上は…太るわよねぇ…。」
「ええ…ちょっと胸焼けが…。」
ホージュンは勝ちを確信していた。何故なら、審査員に女性がいるのならば最初の一杯でもう二杯目を食べる余裕は無い。
その為に、タオローより先にラーメンを出す必要があったのだ。勿論、その為にスープの配合を重めにしてもいた。
(ふっ、勝ったな…。)
だが、タオローはそんなホージュンに気付きもせず
「ともかく、一口だけでも食ってくれ。それで分かる。」
「では、頂きます。」
最初に口を付けたのはリァノーン。『給食鬼』たる彼女にはこの程度は何でもなかったのである。
「…まぁ、美味しい…。」
まさに、至福の笑顔。それに釣られて、他の審査員も口を付ける。
…麺を啜る音だけ響く中、ある者は至福の笑顔で、そしてある者は感動の涙を浮かべていた。
結局、誰一人スープ一滴すら残さず完食。
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
そして、いよいよ審査発表。審査員長の覇道瑠璃が勝者の名を名乗る。
「勝者、コン・タオロー!」
ワアアアアアアアアアアアァァァ…
割れんばかりの拍手の中、ホージュンだけが異論を唱えた。
「馬鹿な!何故この俺が負けねばならん!」
「…見苦しいぞホージュン君。では、君も食ってみたまえ。」
「ふん!ならば食ってやるさ!」
ひったくるようにドンブリを奪うと一口…
ホージュンの目から涙が溢れていた…。
「くっ!完敗だタオローよ…。」
「分かった様だな。君のように“勝つ”料理では、人は感動出来ない。何より“人を喜ばせよう”という料理こそが真に感動出来る料理なのだよ。
…で、君には罰ゲームを兼ねて、『トシマ』に新店舗の立ち上げに行って貰う。『男の料理 ヴィスキオ』を壊滅させるまでは帰って来れないのでそのつもりで…。」
「ま、待て!俺はあんな男だらけの場所になど行きたく無いぞ!止めっ!うわっ…」
ホージュンはツェの隠し持っていたスタンガンで気絶し、そのまま連れて行かれた…。
「おい…。」
「まぁ、あれしきで死ぬ男じゃ無いよ。さて、君への副賞だが…『青雲飯店アーカム二号店』を改装…。」
「俺は何も要らない、ルイリーと共にこの街を出て行く…。」
会場を立ち去ろうとするタオローをツェは呼び止める。
「あ~、ルイリー君なら…ホレ、あそこに…。」
「なっ!!」
見れば会場の端から、ルイリーと…ルイリーの魂の欠片が入っていたガイノイド達が、此方に向かって一緒に歩いてきた。
「兄様。」 「あにさま。」 「兄貴。」 「兄さん。」 「お兄ちゃん。」 「兄君。」
「な、な、な!」
「いや~、『魂の量子化』で分割され、再び統一して復元したルイリー君だがな…。再統合した時に君が壊したガイノイド達を回収、修復して『精神の電子化』でそれぞれにコピーしたら…少々ノイズが乗ってしまってなぁ…まぁ、オマケとして君にプレゼントしよう。それで、これだ!」
えらく軽い口調でとんでもない事をサラっと言うツェが、更に垂れ幕を引っ張ると…
『鬼哭屋』
と、書かれた看板であった。
「なぁ、タオロー君、せっかくの腕が勿体無いでは無いかね?で、話の続きだが、二号店を改装して、人員もルイリー君のコピーがこれだけ要れば大丈夫だろう?一週間も有れば新装開店出来るぞ。良かったなぁ。あぁ、そうそう、改装費もこちらで負担するから、後、家賃は…。」
そう言いつつ、電卓をはじくツェ。
「兄様、頑張りましょうね。」 「がんばろー!」 「やろうぜ!」 「うれしいです。」 「わは~い!」 「楽しみぃ~!」
“ルイリー達”は楽しそうだった。ワナワナと震えながら少しずつ理解していくタオロー…。
この街の名はアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』こうして、新たなる名店が誕生した。
その名は『鬼哭屋』食の鬼達すら慟哭すると言う、美味いラーメンを出す店。
「そんなの有りか~~~~!!」 (鬼哭麺 了。)
SS 『鬼哭麺』第七話 「鬼眼冷麺」後編
「アレ・キュイジーヌ!」
調理開始の掛け声とともに一斉に動き出すホージュンとタオロー。
最初に違和感を覚えたのは麺打ちの時だった。
「おや?『戴天流調理法』の『紫電麺』は通常と打ち方が違うと聞いた事があるのだが…双方とも同じ動きだな…。」
サイスが疑問を口にして一番驚いたのは他でもないタオローであった。
「何!?馬鹿な!紫電麺は内家の技。内家を捨てた貴様に作れる訳が無い!」
「ふん、お前も内家だ外家だとくだらぬな。ならば教えてやろう、俺のサイバネボディは人の器官のそれとまったく同じ構造をしている…分かるか?つまり俺は世界初の“気”を使えるサイバネ料理人なのだ!」
「馬鹿な!…信じられん…。」
「信じないのは勝手だが、現実に俺は存在している。しかも、生身と違って疲れ知らずだ。」
余裕の表情で麺を寝かし、スープに手をつけるホージュン。タオローも遅れてスープに入るが…
「ちぃ…やはり『六塵散魂無宝湯』か…。」
「俺とて戴天流調理法を学んだのだ、当然だろう?…もっともルイリーからは聞きだせなかったのでな、独自の研究の賜物だ。」
「貴様…それだけで、ルイリーにあの仕打ちか…許せん!」
「ふん、貴様とて料理に没頭するあまりルイリーの思いに気が付かん馬鹿が!」
「な…に!?」
「…喋りすぎたな。さあ、俺のスープはもうすぐ仕上がるぞ?貴様も急ぐがいい。」
「くっ!」
実の所、タオローのスープは未だ最後の素材が入っていない。
前日まで試行錯誤をしていたのだが決め手に欠ける。
「くぅ…ルイリー…。」
ルイリーが何を思っていたのか、麺鬼と成り果てた今となっては分からない。
(そうだ、俺は唯一杯に賭けた麺鬼だ。ならば、足りない物は自ずとスープが語るだろう。)
無意識に作りかけのスープを一口、だがタオローの内から溢れるはルイリーへの思いだった。
「はっ!そうか!昔ルイリーが気に入っていた物がある! すまんがある材料を頼みたい!」
「むっ!なにやら動きがある様である。…なにぃ?あれはなんであるか?」
タオローがスタッフに言って取り寄せた物の正体が分からないウェストに、マスターテリオンは答える。
「…あれは、鯨の脂身を乾燥させた物だな。日本では“おでん”の出汁として使うと美味いとか。中々楽しみな勝負になってきたとは思わぬか?」
「イエス、マスター。全ての料理はマスターの為に。」
二人の世界に入ったテリオンとエセルドレーダはさておき、調理も佳境に入り麺茹で、そして盛り付け、ホージュンが先に仕上げる。
「さあ、麺が伸びないうちに食べるがいい!」
いよいよ、審査が始まる。会場内は水を打ったように静まっている。勝負の行方はどうなるのか?
…それは、次回最終話へ続く!
調理開始の掛け声とともに一斉に動き出すホージュンとタオロー。
最初に違和感を覚えたのは麺打ちの時だった。
「おや?『戴天流調理法』の『紫電麺』は通常と打ち方が違うと聞いた事があるのだが…双方とも同じ動きだな…。」
サイスが疑問を口にして一番驚いたのは他でもないタオローであった。
「何!?馬鹿な!紫電麺は内家の技。内家を捨てた貴様に作れる訳が無い!」
「ふん、お前も内家だ外家だとくだらぬな。ならば教えてやろう、俺のサイバネボディは人の器官のそれとまったく同じ構造をしている…分かるか?つまり俺は世界初の“気”を使えるサイバネ料理人なのだ!」
「馬鹿な!…信じられん…。」
「信じないのは勝手だが、現実に俺は存在している。しかも、生身と違って疲れ知らずだ。」
余裕の表情で麺を寝かし、スープに手をつけるホージュン。タオローも遅れてスープに入るが…
「ちぃ…やはり『六塵散魂無宝湯』か…。」
「俺とて戴天流調理法を学んだのだ、当然だろう?…もっともルイリーからは聞きだせなかったのでな、独自の研究の賜物だ。」
「貴様…それだけで、ルイリーにあの仕打ちか…許せん!」
「ふん、貴様とて料理に没頭するあまりルイリーの思いに気が付かん馬鹿が!」
「な…に!?」
「…喋りすぎたな。さあ、俺のスープはもうすぐ仕上がるぞ?貴様も急ぐがいい。」
「くっ!」
実の所、タオローのスープは未だ最後の素材が入っていない。
前日まで試行錯誤をしていたのだが決め手に欠ける。
「くぅ…ルイリー…。」
ルイリーが何を思っていたのか、麺鬼と成り果てた今となっては分からない。
(そうだ、俺は唯一杯に賭けた麺鬼だ。ならば、足りない物は自ずとスープが語るだろう。)
無意識に作りかけのスープを一口、だがタオローの内から溢れるはルイリーへの思いだった。
「はっ!そうか!昔ルイリーが気に入っていた物がある! すまんがある材料を頼みたい!」
「むっ!なにやら動きがある様である。…なにぃ?あれはなんであるか?」
タオローがスタッフに言って取り寄せた物の正体が分からないウェストに、マスターテリオンは答える。
「…あれは、鯨の脂身を乾燥させた物だな。日本では“おでん”の出汁として使うと美味いとか。中々楽しみな勝負になってきたとは思わぬか?」
「イエス、マスター。全ての料理はマスターの為に。」
二人の世界に入ったテリオンとエセルドレーダはさておき、調理も佳境に入り麺茹で、そして盛り付け、ホージュンが先に仕上げる。
「さあ、麺が伸びないうちに食べるがいい!」
いよいよ、審査が始まる。会場内は水を打ったように静まっている。勝負の行方はどうなるのか?
…それは、次回最終話へ続く!
SS 『鬼哭麺』第七話 「鬼眼冷麺」前編
『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』のアーカムシティーに今宵、新しい名所が登場する。
覇道財閥が技術の粋を集めて建造した料理人達の殿堂、その名も『キッチンスタジアム』。外見は屋根のある古代ローマのコロシアムに似て、内部は左右対称に高級レストランにも負けない最新の厨房機器が並び、和洋中あらゆる調理がおこなえる様に設えてある。
そして、中央のキッチンをぐるりと囲むように客席が配置、更にはTV、ネット等の中継設備も整っている。
既に客席は満席。会場内は熱気に包まれていた。
「皆さん!『キッチンスタジアム』へようこそ!私がこのキッチンスタジアムの主宰、『ナハツェーラー』と申します!」
古風で豪奢な衣装を着たナハツェーラーと名乗る老齢の男が、会場の中央でマイク片手に大仰な手振りで朗々と喋っている。
「さあ!今宵、キッチンスタジアムにて、初めて執り行われる対戦は…皆様も一度はお聞きになられたであろう!中華料理の名店『青雲飯店』を相手に屋台一つで立ち向かう男の噂を!今宵はその全てに決着を付ける為に二人の料理人を召喚した!」
「先ずは、『青雲飯店アーカム一号店』店長にして中華料理会にその人ありと言われた、若き鬼才!『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュン!」
ナハツェーラーが会場東側の扉を指すと盛大なスモークと共に扉が開き、ホージュンが登場する。
「では、続いて!屋台一つで青雲飯店に挑む男!その正体は、一度は死亡したと噂された元青雲飯店の料理人!中華料理の中でも神秘の『内家』の技を揮う男!『紫電麺』コン・タオロー!」
同じように、西側の扉からはタオローが登場する。
「そして、今宵の審査員もアーカムで名を轟かす者達ばかり、御紹介しよう!
『ファントムバーガー』より、店長のサイス・マスター氏
『燦月食品』より、開発部長の諸井女史
我らが『美食クラブ イノヴェルチ』より、麗しの姫君『美食の女王』リァノーン様
『皇路料理専門学園』より、講師にして調味料の権威、Dr.都
『ブラックリッチ』グループの全てを支配する男、マスターテリオン氏と『料理指南(レシピ)書』の精霊にして秘書のエセルドレーダ
ブラックリッチの中でも選りすぐりの七店『アンナクロース』より、金箔料理のアウグストゥス氏
同じくブラックリッチの突撃店と噂に名高い『メタルバー デストロイ』より、店長のDr.ウェスト
『寿司 安藤』より、安藤親分…は本日急用との事で、若頭の安藤ジェイ氏
審査員長には『覇道財閥』の若き総帥、覇道瑠璃様
そして、今回の勝負の後見人として、『茶道甘史』ツェ・イーター氏
以上の素晴らしい審査員の公正な判断にて勝負を付けたいと思います!」
確かに、あらゆる意味で有名人が揃っていた。しかし、二人の料理人は審査員にさほど意に介せず、相手を見るのみ。
後見人を自称するツェ・イーターが解説を始める。
「……と、言う訳で、この勝負の勝者には多大な報酬と副賞が用意される。勝負方法はラーメンならば種類は問わない。最高の一杯を作り上げて欲しい。 ホージュン君の得意とする冷麺では無いがそれで良いかな?」
「かまわんよ、むしろ相手の得意料理で潰してこそ意味が有る。死ぬ気で係って来いタオロー!」
余裕を見せるホージュン。
「ちぃ…、内家の技を捨てた貴様になど負けはせん!」
タオローはまさに怒り心頭であった。その様子を見ていたナハツェーラーは試合開始の合図をする。
「アレ・キュイジーヌ!」
双方、調理を開始する。
ついに、決戦の火蓋は切って落とされたのである。 (第七話後編へ続く。)
覇道財閥が技術の粋を集めて建造した料理人達の殿堂、その名も『キッチンスタジアム』。外見は屋根のある古代ローマのコロシアムに似て、内部は左右対称に高級レストランにも負けない最新の厨房機器が並び、和洋中あらゆる調理がおこなえる様に設えてある。
そして、中央のキッチンをぐるりと囲むように客席が配置、更にはTV、ネット等の中継設備も整っている。
既に客席は満席。会場内は熱気に包まれていた。
「皆さん!『キッチンスタジアム』へようこそ!私がこのキッチンスタジアムの主宰、『ナハツェーラー』と申します!」
古風で豪奢な衣装を着たナハツェーラーと名乗る老齢の男が、会場の中央でマイク片手に大仰な手振りで朗々と喋っている。
「さあ!今宵、キッチンスタジアムにて、初めて執り行われる対戦は…皆様も一度はお聞きになられたであろう!中華料理の名店『青雲飯店』を相手に屋台一つで立ち向かう男の噂を!今宵はその全てに決着を付ける為に二人の料理人を召喚した!」
「先ずは、『青雲飯店アーカム一号店』店長にして中華料理会にその人ありと言われた、若き鬼才!『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュン!」
ナハツェーラーが会場東側の扉を指すと盛大なスモークと共に扉が開き、ホージュンが登場する。
「では、続いて!屋台一つで青雲飯店に挑む男!その正体は、一度は死亡したと噂された元青雲飯店の料理人!中華料理の中でも神秘の『内家』の技を揮う男!『紫電麺』コン・タオロー!」
同じように、西側の扉からはタオローが登場する。
「そして、今宵の審査員もアーカムで名を轟かす者達ばかり、御紹介しよう!
『ファントムバーガー』より、店長のサイス・マスター氏
『燦月食品』より、開発部長の諸井女史
我らが『美食クラブ イノヴェルチ』より、麗しの姫君『美食の女王』リァノーン様
『皇路料理専門学園』より、講師にして調味料の権威、Dr.都
『ブラックリッチ』グループの全てを支配する男、マスターテリオン氏と『料理指南(レシピ)書』の精霊にして秘書のエセルドレーダ
ブラックリッチの中でも選りすぐりの七店『アンナクロース』より、金箔料理のアウグストゥス氏
同じくブラックリッチの突撃店と噂に名高い『メタルバー デストロイ』より、店長のDr.ウェスト
『寿司 安藤』より、安藤親分…は本日急用との事で、若頭の安藤ジェイ氏
審査員長には『覇道財閥』の若き総帥、覇道瑠璃様
そして、今回の勝負の後見人として、『茶道甘史』ツェ・イーター氏
以上の素晴らしい審査員の公正な判断にて勝負を付けたいと思います!」
確かに、あらゆる意味で有名人が揃っていた。しかし、二人の料理人は審査員にさほど意に介せず、相手を見るのみ。
後見人を自称するツェ・イーターが解説を始める。
「……と、言う訳で、この勝負の勝者には多大な報酬と副賞が用意される。勝負方法はラーメンならば種類は問わない。最高の一杯を作り上げて欲しい。 ホージュン君の得意とする冷麺では無いがそれで良いかな?」
「かまわんよ、むしろ相手の得意料理で潰してこそ意味が有る。死ぬ気で係って来いタオロー!」
余裕を見せるホージュン。
「ちぃ…、内家の技を捨てた貴様になど負けはせん!」
タオローはまさに怒り心頭であった。その様子を見ていたナハツェーラーは試合開始の合図をする。
「アレ・キュイジーヌ!」
双方、調理を開始する。
ついに、決戦の火蓋は切って落とされたのである。 (第七話後編へ続く。)
SS 『鬼哭麺』第六話 「百麺手」後編
「やぁ、いらっしゃい。こんな時間に何の用だ?」
アーカムシティーの高級住宅街の一画に『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュンの私邸がある。
深夜の来客、それは『百麺手』ビン・ワイソンであった。
ホージュンは茹で上がった麺にスープのみを張ったドンブリを傍らのガイノイドに持たせたままビン・ワイソンを邸内に招き入れる。
「すまない。今、新しいスープの試作中でな。ルイリー、ここは良い。下がっていてくれ。」
主人の命に素直に従い、ドンブリをホージュンに渡し隣室へ異動するルイリーと呼ばれるガイノイド。
「…それは邪魔をしたな。」
「それは良いが…お前が人形を連れ歩くとは珍しい。何事だ?」
「うむ…、実はな、うちの店で半額フェアをやろうと思うのだが…知っての通り元兄弟が店を辞めてしまって人手が足らん。」
「その事は聞いている…それで?」
「俺とお前のガイノイドをン・ウィンシンのデーターにあったロボコックに改造し、足りない人手を補いたい。」
の言葉を聞いていたホージュンだが
「断る。」
答えは即答だった。
「なに!?何故だ!」
「…確かに、我等が『青雲飯店』は“基本メニュー”と“季節のフェア”以外は、店長の裁量でオリジナルメニューや価格等を独自に設定が出来る。…だが、いくら何でも屋台一つ如きで客足の遠退いた店で半額フェアとは…しかもロボコックだと?やはりお前に預けた人形も返して貰わねばな…。」
「貴様…今は店の為に人形などに構っている場合では無いだろう!第一、貴様のガイノイドは店での給仕にも使って無いでは無いか!」
「それがどうした?貴様の無能を補う為に人形はあるのではない。」
「…き、貴様ぁ…黙って聞いていれば…無能かどうか貴様自身で試してみろ!」
怒りの表情もあらわに、ビン・ワイソンは怒声を放つと同時に腕を展開。必殺の緊縛麺でホージュンを捕らえにかかる。
勝算はあった、何故なら以前にホージュンのサイバネボディの仕様書を見たことがある。其処には軍用パーツ等では無く、生身の臓器より少々強化されている程度のパーツばかり。
自分の音速を超える攻撃をかわせる道理は無い! …が、しかし、僅かに揺らいだだけで全ての麺糸をかわしていた。
「な!…」
「ふっ、これだから外家の料理人はくだらぬ。力がどうの、早さがどうのとばかり。それでは、レシピさえあれば人形でも作れるぞ。」
「く、くうっ…!ならばこれならどうだ!!」
ビン・ワイソンは今度こそ殺す気で、鉄串、包丁等を死角の無いぐらいに四方八方に投げる。
「まだ分からないのか?」
あり得ない動きで全てを避けきって、懐に入るホージュン。手にはドンブリ…一瞬のうちに麺を口に捻りこむ。
バチィッッ!!
「こ、これは、紫デn…。」
そのまま、倒れ動かなくなるビン・ワイソン。ホージュンは冷淡に、
「最後の晩餐は満足してくれたかな?」
と、つぶやくと、隣室の“人物”に声をかける
「さて、こちらも準備は整った。早速、初めて貰おうかツェ殿。」
翌日の夜、『青雲飯店アーカム二号店』の前に屋台を引いてきたタオローは躊躇する。何故なら店の入り口に一枚の張り紙。そこには
『誠に勝手ながら、当店は閉店致します。店主』
と。
「何もせずに閉店だと?馬鹿な!」
確かに今まででも、最終的には力に訴えてきた連中がこのようにアッサリ手を引くとは考えられない。どうしたものかと逡巡するタオローに近づいてくる人物。
「誰だ!」
「おいおい、脅かさんでくれたまえ。私はただのメッセンジャーだよ。リュウ・ホージュンからのな。」
「なっ!…貴様、何故…。」
「まぁ、ともかく、『決着が付けたくば二日後にこの地図の場所に来い』とな。」
「…良いだろう、奴にはルイリーの味わった苦痛をキッチリ返す。と伝えろ。」
「分かった。では、二日後に『キッチンスタジアム』で会おう。」
そのまま街の雑踏に消えていくツェ・イーター。タオローは複雑な思いのままそれを見送っていた。
今、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』のアーカムシティーに嵐が巻き起こる!勝利の一杯はどちらに傾くのであろうか! (第六話 了。)
何とか、ここまで来ました。残すは最終話のみ…のはずですが…(汗
ともかく、今しばらくお付き合い下さいマセm(_ _)m
アーカムシティーの高級住宅街の一画に『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュンの私邸がある。
深夜の来客、それは『百麺手』ビン・ワイソンであった。
ホージュンは茹で上がった麺にスープのみを張ったドンブリを傍らのガイノイドに持たせたままビン・ワイソンを邸内に招き入れる。
「すまない。今、新しいスープの試作中でな。ルイリー、ここは良い。下がっていてくれ。」
主人の命に素直に従い、ドンブリをホージュンに渡し隣室へ異動するルイリーと呼ばれるガイノイド。
「…それは邪魔をしたな。」
「それは良いが…お前が人形を連れ歩くとは珍しい。何事だ?」
「うむ…、実はな、うちの店で半額フェアをやろうと思うのだが…知っての通り元兄弟が店を辞めてしまって人手が足らん。」
「その事は聞いている…それで?」
「俺とお前のガイノイドをン・ウィンシンのデーターにあったロボコックに改造し、足りない人手を補いたい。」
の言葉を聞いていたホージュンだが
「断る。」
答えは即答だった。
「なに!?何故だ!」
「…確かに、我等が『青雲飯店』は“基本メニュー”と“季節のフェア”以外は、店長の裁量でオリジナルメニューや価格等を独自に設定が出来る。…だが、いくら何でも屋台一つ如きで客足の遠退いた店で半額フェアとは…しかもロボコックだと?やはりお前に預けた人形も返して貰わねばな…。」
「貴様…今は店の為に人形などに構っている場合では無いだろう!第一、貴様のガイノイドは店での給仕にも使って無いでは無いか!」
「それがどうした?貴様の無能を補う為に人形はあるのではない。」
「…き、貴様ぁ…黙って聞いていれば…無能かどうか貴様自身で試してみろ!」
怒りの表情もあらわに、ビン・ワイソンは怒声を放つと同時に腕を展開。必殺の緊縛麺でホージュンを捕らえにかかる。
勝算はあった、何故なら以前にホージュンのサイバネボディの仕様書を見たことがある。其処には軍用パーツ等では無く、生身の臓器より少々強化されている程度のパーツばかり。
自分の音速を超える攻撃をかわせる道理は無い! …が、しかし、僅かに揺らいだだけで全ての麺糸をかわしていた。
「な!…」
「ふっ、これだから外家の料理人はくだらぬ。力がどうの、早さがどうのとばかり。それでは、レシピさえあれば人形でも作れるぞ。」
「く、くうっ…!ならばこれならどうだ!!」
ビン・ワイソンは今度こそ殺す気で、鉄串、包丁等を死角の無いぐらいに四方八方に投げる。
「まだ分からないのか?」
あり得ない動きで全てを避けきって、懐に入るホージュン。手にはドンブリ…一瞬のうちに麺を口に捻りこむ。
バチィッッ!!
「こ、これは、紫デn…。」
そのまま、倒れ動かなくなるビン・ワイソン。ホージュンは冷淡に、
「最後の晩餐は満足してくれたかな?」
と、つぶやくと、隣室の“人物”に声をかける
「さて、こちらも準備は整った。早速、初めて貰おうかツェ殿。」
翌日の夜、『青雲飯店アーカム二号店』の前に屋台を引いてきたタオローは躊躇する。何故なら店の入り口に一枚の張り紙。そこには
『誠に勝手ながら、当店は閉店致します。店主』
と。
「何もせずに閉店だと?馬鹿な!」
確かに今まででも、最終的には力に訴えてきた連中がこのようにアッサリ手を引くとは考えられない。どうしたものかと逡巡するタオローに近づいてくる人物。
「誰だ!」
「おいおい、脅かさんでくれたまえ。私はただのメッセンジャーだよ。リュウ・ホージュンからのな。」
「なっ!…貴様、何故…。」
「まぁ、ともかく、『決着が付けたくば二日後にこの地図の場所に来い』とな。」
「…良いだろう、奴にはルイリーの味わった苦痛をキッチリ返す。と伝えろ。」
「分かった。では、二日後に『キッチンスタジアム』で会おう。」
そのまま街の雑踏に消えていくツェ・イーター。タオローは複雑な思いのままそれを見送っていた。
今、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』のアーカムシティーに嵐が巻き起こる!勝利の一杯はどちらに傾くのであろうか! (第六話 了。)
何とか、ここまで来ました。残すは最終話のみ…のはずですが…(汗
ともかく、今しばらくお付き合い下さいマセm(_ _)m
SS 『鬼哭麺』第六話 「百麺手」前編
「ちぃ…今日も来たか…。」
苦虫を噛み潰したような顔で『青雲飯店アーカム二号店』店長ビン・ワイソンは店の外の一台の屋台を見ながら呟く。
この一週間ですでに店の売り上げは半減している。本来ならこの時間、満席も当たり前なのに今では空席が目立つ。その上、『元氏双包丁』が店を辞めたと言うのでは客寄せも儘ならない。
「コンの奴め…、むっ!そうだ、あの手を使ってみるか。…だが、そうなると、我がラースヤだけでは足りぬな…今夜にでも奴の所にでも行ってみるしかないか…。」
そう呟きながらビン・ワイソンは厨房へと戻ってゆく。
一方、アーカムシティーの中枢、覇道邸では若き総帥『覇道瑠璃』が執務室にて書類に目を通していた。
コンコン
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
執事のウィンフィールドがドアをノックする音に、瑠璃は書類から目を離さずに返事をする。
「ええ、お入りなさいウィンフィールド。」
恭しく礼をして執務室に入るウィンフィールド。手には新たなファイルを持っている。
「失礼致します。…早速ですが、お嬢様。ツェ・イーター様のお持ちになられました計画が予定通りに完成する、との報告が入りました。」
「そうですか、ご苦労様です。それで、ゲストの方々はどうなっています?」
「はい、そちらも各店舗、快くご理解頂けているようですので問題は御座いません。」
「よろしい。では、後は料理人次第…となりますね。」
「そちらも…ツェ・イーター様より、『近日中に日時を指定出来るだろう』と…。」
「…近日中?」
「はい、…これは、私の推測ではありますが…最近、何者かが屋台一つで中華料理の大手『青雲飯店』を潰して回っていると聞いております。恐らくその者ではないか…と。」
「そうでしたね。では、そのつもりで食材の準備を怠りなくしておきなさい。」
「心得ております、お嬢様。では、私はこれで失礼致します。」
一礼をしてウィンフィールドが執務室を出て行く。瑠璃はボソリと
「これで悩み事は大十字さんだけになれば良いのだけれど…、それが一番の問題ですわね…。」
と、ため息と共に吐き出した。
深夜。アーカムシティーの一画、コン・タオローが使用している厨房にはいまだ明かりが灯っていた。
「むぅ、これも違うな…。では、次は…。」
「あにさま…まだ寝ないの?」
「ルイリーか、俺はもう少しだけ試したい事があるから先に休んでいなさい。」
「…はーい、でもでも、あにさまも、ちゃんとねないと駄目だからね。」
「あぁ、分かっているさ…。」
少し疲れた顔でルイリーを見送ると、タオローはまたスープを試作する。
“上湯”“白湯”等の中華スープがある中『戴天流調理法』の中でも“極意”とされる『六塵散魂無宝湯』
それは、六種類の素材の究極の配合によって生まれるスープなのだが…。レシピがルイリーが吹く“チャルメラ”の音階に隠されている事は分かった、しかし、六種類の素材の内、ただ一つ分からないのだ。
「くそっ!これも違う…奴との勝負の前に何とか仕上げたいのだが…。」
時間ばかりが無常に過ぎてゆく…。
同じ頃、『百麺手』ビン・ワイソンは『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュンの私邸の前に居た。
「やはり、これは必要な事なのだ。いざとなったら力ずくでも納得させるまでだ…。」
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』様々な思いが交錯しながら料理人達は凌ぎ合う…。 (第六話後編に続く。)
苦虫を噛み潰したような顔で『青雲飯店アーカム二号店』店長ビン・ワイソンは店の外の一台の屋台を見ながら呟く。
この一週間ですでに店の売り上げは半減している。本来ならこの時間、満席も当たり前なのに今では空席が目立つ。その上、『元氏双包丁』が店を辞めたと言うのでは客寄せも儘ならない。
「コンの奴め…、むっ!そうだ、あの手を使ってみるか。…だが、そうなると、我がラースヤだけでは足りぬな…今夜にでも奴の所にでも行ってみるしかないか…。」
そう呟きながらビン・ワイソンは厨房へと戻ってゆく。
一方、アーカムシティーの中枢、覇道邸では若き総帥『覇道瑠璃』が執務室にて書類に目を通していた。
コンコン
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
執事のウィンフィールドがドアをノックする音に、瑠璃は書類から目を離さずに返事をする。
「ええ、お入りなさいウィンフィールド。」
恭しく礼をして執務室に入るウィンフィールド。手には新たなファイルを持っている。
「失礼致します。…早速ですが、お嬢様。ツェ・イーター様のお持ちになられました計画が予定通りに完成する、との報告が入りました。」
「そうですか、ご苦労様です。それで、ゲストの方々はどうなっています?」
「はい、そちらも各店舗、快くご理解頂けているようですので問題は御座いません。」
「よろしい。では、後は料理人次第…となりますね。」
「そちらも…ツェ・イーター様より、『近日中に日時を指定出来るだろう』と…。」
「…近日中?」
「はい、…これは、私の推測ではありますが…最近、何者かが屋台一つで中華料理の大手『青雲飯店』を潰して回っていると聞いております。恐らくその者ではないか…と。」
「そうでしたね。では、そのつもりで食材の準備を怠りなくしておきなさい。」
「心得ております、お嬢様。では、私はこれで失礼致します。」
一礼をしてウィンフィールドが執務室を出て行く。瑠璃はボソリと
「これで悩み事は大十字さんだけになれば良いのだけれど…、それが一番の問題ですわね…。」
と、ため息と共に吐き出した。
深夜。アーカムシティーの一画、コン・タオローが使用している厨房にはいまだ明かりが灯っていた。
「むぅ、これも違うな…。では、次は…。」
「あにさま…まだ寝ないの?」
「ルイリーか、俺はもう少しだけ試したい事があるから先に休んでいなさい。」
「…はーい、でもでも、あにさまも、ちゃんとねないと駄目だからね。」
「あぁ、分かっているさ…。」
少し疲れた顔でルイリーを見送ると、タオローはまたスープを試作する。
“上湯”“白湯”等の中華スープがある中『戴天流調理法』の中でも“極意”とされる『六塵散魂無宝湯』
それは、六種類の素材の究極の配合によって生まれるスープなのだが…。レシピがルイリーが吹く“チャルメラ”の音階に隠されている事は分かった、しかし、六種類の素材の内、ただ一つ分からないのだ。
「くそっ!これも違う…奴との勝負の前に何とか仕上げたいのだが…。」
時間ばかりが無常に過ぎてゆく…。
同じ頃、『百麺手』ビン・ワイソンは『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュンの私邸の前に居た。
「やはり、これは必要な事なのだ。いざとなったら力ずくでも納得させるまでだ…。」
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』様々な思いが交錯しながら料理人達は凌ぎ合う…。 (第六話後編に続く。)
SS 『鬼哭麺』第五話 「元氏双包丁」後編
アーカムシティーの一画、通称「屋台街」では、今まさに『紫電麺』コン・タオローと青雲飯店の『元氏双包丁』元兄弟の勝負が始まろうとしており、周りの屋台も客も一瞬たりとも見逃さないように集中する。
「ゆくぞ!」
「「おうよ!」」
双方、見事な手際で調理が進む。タオローの名声は勿論、元兄弟も青雲飯店で名の知れた料理人であり、また二人のコンビネーションももはや芸術の域に達していた。
『天魔輻射熱!』
見事な腕前で弟がチャーシューを直火で炙り、投げた…、そのまま宙を舞うチャーシューを兄がスライスしてゆく。
『麺 碼 覆滅陣!!』
兄が湯切りをしてスープを注ぐ、弟はメンマをはじめ、ネギ、煮玉子等の具材をドンブリに美しく並べる。
「ふん!」
ジャッッ!
タオローもまた麺かごを一閃、淀みなく舞うように具を盛り付ける。
今までのような妨害は一切無い。観客は双方の妙技に魅せられる。
「「お待ち!」」
双方同時に出来上がり、いよいよ互いの一杯に箸をつける。全ての観客が審査をしたいと思ったが、審査の大役を買えばその重圧たるや想像もつかない。結局、料理人同士の様子を見守るのが精一杯だった。
「……。」
「……。」
双方、長い沈黙を破ったのは元兄弟の弟、元尚英だった。
「クウゥっ!美味い、美味すぎるぞ兄者!」
「…そうだな尚英、これは…完敗だ。」
「だが何故だ?我等とて技術に自信がある。何故ここまで心に響く味なのだ?」
「…む!…分からん…。」
悩む兄弟にタオローが言う。
「確かにスープ、具材はお前達の方が美味いと思う。だが…お前達はこの一杯誰の為に作った?…俺はな…、正々堂々と勝負をし、今、二人で一杯のラーメンを分け合うお前達兄弟の為に作った。」
「…な、何!?我等の為だと?」
「あぁ、料理人は食ってくれる者の為に腕を振るう。俺も青雲飯店にいた頃、厨房の中では気付かなかったがな…。今、屋台を引き、お客の顔を見ながら作っていて思い出したのだ、腕を振るう目的をな。」
そう言いながら、タオローが傍らの幼年型のガイノイドをちらりと見るのを二人は見逃さない。
「…そうか、ならば我等も認めよう。そして、コン・タオローの“とある噂”も真実のようだしな…。尚英!此れより、我等兄弟は青雲飯店に別れを告げ野に下る。良いな?」
「ああ、俺も同じ事を思っていた所だ兄者。」
「では、サラバだ『紫電麺』よ。また会う事もあろうが…そうだ今一つ。現在の青雲飯店を甘く見るなよ。残りの店長は料理人の枠を超えている…バケモノだ…。」
「うむ、心得ている。お前達も達者でやるが良い。」
屋台を引く元兄弟に観客から盛大な拍手が送られる。その中を進みながら
「なぁ、兄者、こういう物も悪くないな…。」
「そうだな尚英。」
ガラにもなく照れる兄弟とは反対方向に進むタオロー。隣について来るルイリーがチャルメラを鳴らす。
「…は!まさか…。」
タオローは何かに気付きながら、夜のアーカムシティーに消えていく。
ここはアーカムシティー『食の大黄金時代にして、代暗黒時代にして、大混乱時代。』食に賭けた熱き漢達の集う街。 (第五話 了。)
「ゆくぞ!」
「「おうよ!」」
双方、見事な手際で調理が進む。タオローの名声は勿論、元兄弟も青雲飯店で名の知れた料理人であり、また二人のコンビネーションももはや芸術の域に達していた。
『天魔輻射熱!』
見事な腕前で弟がチャーシューを直火で炙り、投げた…、そのまま宙を舞うチャーシューを兄がスライスしてゆく。
『麺 碼 覆滅陣!!』
兄が湯切りをしてスープを注ぐ、弟はメンマをはじめ、ネギ、煮玉子等の具材をドンブリに美しく並べる。
「ふん!」
ジャッッ!
タオローもまた麺かごを一閃、淀みなく舞うように具を盛り付ける。
今までのような妨害は一切無い。観客は双方の妙技に魅せられる。
「「お待ち!」」
双方同時に出来上がり、いよいよ互いの一杯に箸をつける。全ての観客が審査をしたいと思ったが、審査の大役を買えばその重圧たるや想像もつかない。結局、料理人同士の様子を見守るのが精一杯だった。
「……。」
「……。」
双方、長い沈黙を破ったのは元兄弟の弟、元尚英だった。
「クウゥっ!美味い、美味すぎるぞ兄者!」
「…そうだな尚英、これは…完敗だ。」
「だが何故だ?我等とて技術に自信がある。何故ここまで心に響く味なのだ?」
「…む!…分からん…。」
悩む兄弟にタオローが言う。
「確かにスープ、具材はお前達の方が美味いと思う。だが…お前達はこの一杯誰の為に作った?…俺はな…、正々堂々と勝負をし、今、二人で一杯のラーメンを分け合うお前達兄弟の為に作った。」
「…な、何!?我等の為だと?」
「あぁ、料理人は食ってくれる者の為に腕を振るう。俺も青雲飯店にいた頃、厨房の中では気付かなかったがな…。今、屋台を引き、お客の顔を見ながら作っていて思い出したのだ、腕を振るう目的をな。」
そう言いながら、タオローが傍らの幼年型のガイノイドをちらりと見るのを二人は見逃さない。
「…そうか、ならば我等も認めよう。そして、コン・タオローの“とある噂”も真実のようだしな…。尚英!此れより、我等兄弟は青雲飯店に別れを告げ野に下る。良いな?」
「ああ、俺も同じ事を思っていた所だ兄者。」
「では、サラバだ『紫電麺』よ。また会う事もあろうが…そうだ今一つ。現在の青雲飯店を甘く見るなよ。残りの店長は料理人の枠を超えている…バケモノだ…。」
「うむ、心得ている。お前達も達者でやるが良い。」
屋台を引く元兄弟に観客から盛大な拍手が送られる。その中を進みながら
「なぁ、兄者、こういう物も悪くないな…。」
「そうだな尚英。」
ガラにもなく照れる兄弟とは反対方向に進むタオロー。隣について来るルイリーがチャルメラを鳴らす。
「…は!まさか…。」
タオローは何かに気付きながら、夜のアーカムシティーに消えていく。
ここはアーカムシティー『食の大黄金時代にして、代暗黒時代にして、大混乱時代。』食に賭けた熱き漢達の集う街。 (第五話 了。)
SS 『鬼哭麺』第五話 「元氏双包丁」前編
「いらっしゃい。ハイ、ラーメン1、チャーシュー2、お待ち。」
「ラーメン大盛り2、ニンニク1、ネギ1はいりま~す。」
「はいよ!ルイリー、次ラーメン3出るぞ。」
アーカムシティーの一画、夜は屋台街になる場所で、タオローの『紫電ラーメン』の屋台は盛況だった。何故ならここ数日、名うての屋台が挙ってタオローに挑戦してくるからだ。
その光景を遠目で車中から覗く冷ややかな目をした男の名はビン・ワイソン。『青雲飯店アーカム二号店』の店長にして、今回の騒ぎの張本人。彼はこう宣言したのである。
『腕に覚えのある料理人に告ぐ。コン・タオローの屋台を倒した者には賞金と我が店の料理長の役職を与える』
…と。
結果、屋台街は挑戦者と、その勝負につられた客でごった返していた。
「…ふふっ、如何に常人離れした奴とて、多数のサイバネ料理人の挑戦と客の前に生身の身体では疲れは必至。そのうち味にも落ちよう。…それに、此方には“切り札”もあるしな…。」
不敵な笑みで車を出すよう指示するビン・ワイソン。彼の店もこれから忙しくなるのだ。」
「にいさま、次入るよ~。チャーシュー1大盛り1。」
「はいよ!次、お待ち。」
「は~い!お会計ですね~。」
タオローは驚異的な速度でラーメンを出し、更にルイリーが手伝っている今でも客が途絶える事は無い。だが、周りのサイバネ料理人どもも疲れ知らずのように料理を作り続けている。勝敗そのものは覇道の食品警察が出てきて仕切っているので問題は無いが、自身の疲労は半端な物では無い。徐々に削られる集中力と食材。売り切れはもうすぐだった…。
「さて…ストーン君、結果はどんな状態だい?」
「は!現在、コン・タオローの紫電ラーメンが一歩リードでありますが、売り切れが近く…あの…、ネス警部、何故に我々はこの様な事をしているのでありましょうか?」
「しょうがないじゃないか、屋台街に人が溢れこのままじゃあ大事故が起こりかねんし、この前の『上海食品公司』の事もある。不正を取り締まるのは立派な仕事だよ?」
「それはそうでありますが…しかし…。」
「しかしもカカシも無いよ。んじゃぁココはよろしく。俺は食べ…いやいや、見回りに行って来る。」
「逃げないで下さい、ネス警部~。」
悲壮な声を出すストーンを尻目にネスは人ごみに消えていく。その時、また一台の屋台が進入してくる。
「あー、そこの屋台。待ちなさい。登録は此方で受け付ける。」
ストーンが止めようとすると…。
「邪魔だな…兄者どうする?」
「知れた事だ尚英…『元氏双包丁』の名において…押して参る。ゆくぞ!」
「!」
二人が同時に動き、神速で一杯のラーメンがストーンに差し出され、一口。
「う、美味い!!と、登録許可ー!」
一言叫んでひっくり返るストーンに既に目をくれることなく、二人は奥へと進んで行く。
「さて…最後の一杯になるか…。」
タオローが少なくなったスープを見ながらつぶやくと、突然声がかかる。
「「その一杯、我等兄弟が試そう!正々堂々と『喰わせもん』で勝負だ!コン・タオロー!!」」
「何!?お前達は青雲飯店の『元氏双包丁』!」
「久しいな『紫電麺』…いや、今は仁義を忘れ、青雲飯店に楯突く麺鬼よ!」
「我等兄弟が貴様に引導を渡してやろう!」
「…今更言い逃れはせん…良かろう、我が麺をとくと味わえっ!」
「良い度胸だ、行くぞ兄者!」
「何時でも良いぞ尚英!」
今、アーカムシティーに一杯に賭ける料理人の熱き鼓動が響き渡る。 (第五話後編に続く。)
「ラーメン大盛り2、ニンニク1、ネギ1はいりま~す。」
「はいよ!ルイリー、次ラーメン3出るぞ。」
アーカムシティーの一画、夜は屋台街になる場所で、タオローの『紫電ラーメン』の屋台は盛況だった。何故ならここ数日、名うての屋台が挙ってタオローに挑戦してくるからだ。
その光景を遠目で車中から覗く冷ややかな目をした男の名はビン・ワイソン。『青雲飯店アーカム二号店』の店長にして、今回の騒ぎの張本人。彼はこう宣言したのである。
『腕に覚えのある料理人に告ぐ。コン・タオローの屋台を倒した者には賞金と我が店の料理長の役職を与える』
…と。
結果、屋台街は挑戦者と、その勝負につられた客でごった返していた。
「…ふふっ、如何に常人離れした奴とて、多数のサイバネ料理人の挑戦と客の前に生身の身体では疲れは必至。そのうち味にも落ちよう。…それに、此方には“切り札”もあるしな…。」
不敵な笑みで車を出すよう指示するビン・ワイソン。彼の店もこれから忙しくなるのだ。」
「にいさま、次入るよ~。チャーシュー1大盛り1。」
「はいよ!次、お待ち。」
「は~い!お会計ですね~。」
タオローは驚異的な速度でラーメンを出し、更にルイリーが手伝っている今でも客が途絶える事は無い。だが、周りのサイバネ料理人どもも疲れ知らずのように料理を作り続けている。勝敗そのものは覇道の食品警察が出てきて仕切っているので問題は無いが、自身の疲労は半端な物では無い。徐々に削られる集中力と食材。売り切れはもうすぐだった…。
「さて…ストーン君、結果はどんな状態だい?」
「は!現在、コン・タオローの紫電ラーメンが一歩リードでありますが、売り切れが近く…あの…、ネス警部、何故に我々はこの様な事をしているのでありましょうか?」
「しょうがないじゃないか、屋台街に人が溢れこのままじゃあ大事故が起こりかねんし、この前の『上海食品公司』の事もある。不正を取り締まるのは立派な仕事だよ?」
「それはそうでありますが…しかし…。」
「しかしもカカシも無いよ。んじゃぁココはよろしく。俺は食べ…いやいや、見回りに行って来る。」
「逃げないで下さい、ネス警部~。」
悲壮な声を出すストーンを尻目にネスは人ごみに消えていく。その時、また一台の屋台が進入してくる。
「あー、そこの屋台。待ちなさい。登録は此方で受け付ける。」
ストーンが止めようとすると…。
「邪魔だな…兄者どうする?」
「知れた事だ尚英…『元氏双包丁』の名において…押して参る。ゆくぞ!」
「!」
二人が同時に動き、神速で一杯のラーメンがストーンに差し出され、一口。
「う、美味い!!と、登録許可ー!」
一言叫んでひっくり返るストーンに既に目をくれることなく、二人は奥へと進んで行く。
「さて…最後の一杯になるか…。」
タオローが少なくなったスープを見ながらつぶやくと、突然声がかかる。
「「その一杯、我等兄弟が試そう!正々堂々と『喰わせもん』で勝負だ!コン・タオロー!!」」
「何!?お前達は青雲飯店の『元氏双包丁』!」
「久しいな『紫電麺』…いや、今は仁義を忘れ、青雲飯店に楯突く麺鬼よ!」
「我等兄弟が貴様に引導を渡してやろう!」
「…今更言い逃れはせん…良かろう、我が麺をとくと味わえっ!」
「良い度胸だ、行くぞ兄者!」
「何時でも良いぞ尚英!」
今、アーカムシティーに一杯に賭ける料理人の熱き鼓動が響き渡る。 (第五話後編に続く。)
SS 『鬼哭麺 外伝』第三話 「沙耶の店」
その怪異は深夜、営業を終えた屋台を保管場所に戻す為、裏路地に進入した時に起こった。…いや、ルイリーが連れて来た…。
「あにさまぁ~!お客さん連れて来たよ~!」
ビチビチッ
「いyぉpあ~、はpkネシtれェェ!」
其れは…形容し難い“肉の塊”だった。ブヨブヨと蠢き、もがいている様に見えるが、ルイリーがしっかり掴んで逃げられないでいるようだった…。
「ああん、逃げたらダメェ。あにさまのラーメン美味しいよぉ~。」
「ぼndンドグぉ?」
「うん!本当だよ。食べたらビックリしちゃうから。」
どうやら、ルイリーにはこの物体の言葉が分かるらしい…。ともかく、ルイリーを通じて、話してみる事にしたタオロー。
「つまり…、お前は沙耶と言う名前で…どこから来たかは分からない…。それはともかく、住み難くなった場所から逃げてきて、今現在一緒に住んでいる“匂坂郁紀”とか言う男の認識では、お前が美少女に見える…。人間の食事が食べられず…お前の嗜好に近い様で人肉を好むと…くくっ、面白い。俺も料理人としてあらゆる物を食い、作り、挙句今では外道へと堕ちたと思っていたが、本物のバケモ…いや…すまんな、人以外の者に料理を作ってみたくなった…。」
タオローは笑みすら浮かべて、肉の塊に話しかける。
「沙耶、と言ったな。明日の夜、俺の営業が終わってからで良ければ、この紙に書いた場所へ来い。貴様の言う郁紀とか言う男も連れてな。」
「『うん、分かった。でも、本当に大丈夫?』って言ってる。」
「まぁ…、結果は分からん。だが、俺には心当たりがある。」
ずるずる…と、裏路地の闇に消える沙耶。そして、タオローは明日の料理に想いを馳せていた。
翌日の深夜、タオローはルイリーと共に、仕込み用に使う厨房に着くと、一人の青年が立っていた。
「貴様が郁紀か?」
「うわ!な、何なんだ!?さ、沙耶、こんなバケモノだとは聞いてない!」
タオローを見て取り乱す青年、沙耶とか言う肉塊が出てきて一応の落ち着きは見せるがこのままでは話しにならない。
「やれやれ…話にならんな…。 …そうだ、ルイリー。沙耶とか言うやつの真似をして喋れるか?」
「…?…、うん!あにさま、ルイリー出来るよ!」
「では、通訳してくれ。今からお前達に料理を作ってやる。とな。」
「は~い!」
そうして、しばらくの時間が流れ、タオローは二杯のラーメンを作りあげる。
「…お待ち。さぁ、食ってみろ。沙耶、お前さんにも用意した。」
恐る恐る、箸を取る郁紀。沙耶の方を見ると触手を伸ばし、ちゃんと箸を使っていた。…ただし、口らしき物は意外な位置にあったが…見なかった事にする。
「…う、美味い…ラーメンらしいがよく分からないな…けど美味い。」
「『うん、ほんとだぁ。何だか肉の味がする。』って。」
「う…あぁ…くう…?」
どくんっ!と、食べ終わった郁紀に変化が起こる。
「悪いが沙耶、一度、郁紀の視界から隠れろ。」
「『何で?』って」
「ともかくだ。貴様の正体をばらしたいか?」
何かに気付いた沙耶が厨房の物陰に隠れる。そして…、
「あ…れ?ここは…え!?貴方は?」
「うむ、上手くいったようだな。説明すると、今、お前が食ったラーメンは俺が作った紫電麺だ。そして、その電流により、一時的にお前さんの脳神経の狂いを修正している。更に、麺に“コレ”を練りこんでみた。」
「…これは…『ざくろ』…。」
「そうだ、俺の国の古い文献に人肉を喰らう鬼女がいてな、釈迦だか、坊主だかの慈悲で助かり、人肉を喰らいたくなった時にはざくろを食え…とな。何でも人肉に近い味がするそうだ…くくっ。」
「そうなのか…って、沙耶は?」
「今は姿を見ない方がいいぞ?まぁ、お前さんは先に戻っていろ。俺は、沙耶とやらともう少し話す事がある。…そうだ、残ったざくろはお前さんにやろう。帰って食ってみろ。」
「あ!…ああ、そうする…うわっ…また視界が…。」
「残念だが、時間切れのようだな…。ならばルイリーが通訳すれば問題は無いか…。」
厨房に留まる郁紀の様子を見て沙耶が這い出てくる。
「さて、もう一つ提案なんだが…、お前さん前に普通の人間を郁紀と同じ状態に出来た…と言ったな。つまり、こいつは元に戻れる。と?」
「『うん』って。」
「ならば、お前が人間になる。とは考えなかったのか?」
「びっくりしてる。『気がつかなかった!』って『でも自信は無い』だって。」
少々呆れながら、タオローは言う。
「少しは思いつけ。…まあ良い。何、せめて見てくれだけでも良い。他人から見ても人間に見れれば…な。上手く行けば、俺の料理でサポート出来るかもしれん。なにせ、俺の国に『医食同源』と言う言葉がある位だ。」
タオローは珍しく笑顔だった。それは自信を持った笑顔であった。
そして、一ヵ月程たったある日、タオローの厨房に明るい声が届く。
「まいどー。『沙耶の肉屋』でーす。配達に来ましたー。」
そこには、一人の少女がチャーシュー用の豚肉を抱えていた。
「おう、すまないな沙耶、わざわざ配達させて。それでどうだ、今の体は?」
「うん!誰も気付いて無いみたい。郁紀も元に戻って少し混乱したけど、もうなれたって言ってるし、後は…二人でちょっと商品をつまみ食いしちゃうのが問題かな?」
明るい笑顔で沙耶が笑う。この一週間で『沙耶の肉屋』は上質の肉を仕入れると評判になった。
「まぁ、お前さん達は肉のエキスパートだからな。だが、つまみ食いは程々にしておけよ。…それと、髪の毛の間から触手が出ているぞ。」
ちょうど、髪の毛が跳ねている辺りからピコピコと触手が揺れていた。
「あ…あははっ!は~い、気をつけまーす。あっ!郁紀を待たしているの。それじゃぁ…またの御贔屓をお待ちしていまーす。」
少女らしい笑顔をふりまき厨房を出て行く。沙耶と郁紀は次の配達に向かう。幸せに溢れているようだった。
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食にかかわる者には、人間であろうが無かろうが、分け隔てなく受け入れる街。 (外伝第三話 了。)
はい、今まで出てこなかった『沙耶』の自分なりの回答です。ぶっちゃけ、本編には無いハッピーエンドを目指してみたり…本当か?(ぉ
皆様に喜んで頂ければ幸いですが…m(_ _)m
「あにさまぁ~!お客さん連れて来たよ~!」
ビチビチッ
「いyぉpあ~、はpkネシtれェェ!」
其れは…形容し難い“肉の塊”だった。ブヨブヨと蠢き、もがいている様に見えるが、ルイリーがしっかり掴んで逃げられないでいるようだった…。
「ああん、逃げたらダメェ。あにさまのラーメン美味しいよぉ~。」
「ぼndンドグぉ?」
「うん!本当だよ。食べたらビックリしちゃうから。」
どうやら、ルイリーにはこの物体の言葉が分かるらしい…。ともかく、ルイリーを通じて、話してみる事にしたタオロー。
「つまり…、お前は沙耶と言う名前で…どこから来たかは分からない…。それはともかく、住み難くなった場所から逃げてきて、今現在一緒に住んでいる“匂坂郁紀”とか言う男の認識では、お前が美少女に見える…。人間の食事が食べられず…お前の嗜好に近い様で人肉を好むと…くくっ、面白い。俺も料理人としてあらゆる物を食い、作り、挙句今では外道へと堕ちたと思っていたが、本物のバケモ…いや…すまんな、人以外の者に料理を作ってみたくなった…。」
タオローは笑みすら浮かべて、肉の塊に話しかける。
「沙耶、と言ったな。明日の夜、俺の営業が終わってからで良ければ、この紙に書いた場所へ来い。貴様の言う郁紀とか言う男も連れてな。」
「『うん、分かった。でも、本当に大丈夫?』って言ってる。」
「まぁ…、結果は分からん。だが、俺には心当たりがある。」
ずるずる…と、裏路地の闇に消える沙耶。そして、タオローは明日の料理に想いを馳せていた。
翌日の深夜、タオローはルイリーと共に、仕込み用に使う厨房に着くと、一人の青年が立っていた。
「貴様が郁紀か?」
「うわ!な、何なんだ!?さ、沙耶、こんなバケモノだとは聞いてない!」
タオローを見て取り乱す青年、沙耶とか言う肉塊が出てきて一応の落ち着きは見せるがこのままでは話しにならない。
「やれやれ…話にならんな…。 …そうだ、ルイリー。沙耶とか言うやつの真似をして喋れるか?」
「…?…、うん!あにさま、ルイリー出来るよ!」
「では、通訳してくれ。今からお前達に料理を作ってやる。とな。」
「は~い!」
そうして、しばらくの時間が流れ、タオローは二杯のラーメンを作りあげる。
「…お待ち。さぁ、食ってみろ。沙耶、お前さんにも用意した。」
恐る恐る、箸を取る郁紀。沙耶の方を見ると触手を伸ばし、ちゃんと箸を使っていた。…ただし、口らしき物は意外な位置にあったが…見なかった事にする。
「…う、美味い…ラーメンらしいがよく分からないな…けど美味い。」
「『うん、ほんとだぁ。何だか肉の味がする。』って。」
「う…あぁ…くう…?」
どくんっ!と、食べ終わった郁紀に変化が起こる。
「悪いが沙耶、一度、郁紀の視界から隠れろ。」
「『何で?』って」
「ともかくだ。貴様の正体をばらしたいか?」
何かに気付いた沙耶が厨房の物陰に隠れる。そして…、
「あ…れ?ここは…え!?貴方は?」
「うむ、上手くいったようだな。説明すると、今、お前が食ったラーメンは俺が作った紫電麺だ。そして、その電流により、一時的にお前さんの脳神経の狂いを修正している。更に、麺に“コレ”を練りこんでみた。」
「…これは…『ざくろ』…。」
「そうだ、俺の国の古い文献に人肉を喰らう鬼女がいてな、釈迦だか、坊主だかの慈悲で助かり、人肉を喰らいたくなった時にはざくろを食え…とな。何でも人肉に近い味がするそうだ…くくっ。」
「そうなのか…って、沙耶は?」
「今は姿を見ない方がいいぞ?まぁ、お前さんは先に戻っていろ。俺は、沙耶とやらともう少し話す事がある。…そうだ、残ったざくろはお前さんにやろう。帰って食ってみろ。」
「あ!…ああ、そうする…うわっ…また視界が…。」
「残念だが、時間切れのようだな…。ならばルイリーが通訳すれば問題は無いか…。」
厨房に留まる郁紀の様子を見て沙耶が這い出てくる。
「さて、もう一つ提案なんだが…、お前さん前に普通の人間を郁紀と同じ状態に出来た…と言ったな。つまり、こいつは元に戻れる。と?」
「『うん』って。」
「ならば、お前が人間になる。とは考えなかったのか?」
「びっくりしてる。『気がつかなかった!』って『でも自信は無い』だって。」
少々呆れながら、タオローは言う。
「少しは思いつけ。…まあ良い。何、せめて見てくれだけでも良い。他人から見ても人間に見れれば…な。上手く行けば、俺の料理でサポート出来るかもしれん。なにせ、俺の国に『医食同源』と言う言葉がある位だ。」
タオローは珍しく笑顔だった。それは自信を持った笑顔であった。
そして、一ヵ月程たったある日、タオローの厨房に明るい声が届く。
「まいどー。『沙耶の肉屋』でーす。配達に来ましたー。」
そこには、一人の少女がチャーシュー用の豚肉を抱えていた。
「おう、すまないな沙耶、わざわざ配達させて。それでどうだ、今の体は?」
「うん!誰も気付いて無いみたい。郁紀も元に戻って少し混乱したけど、もうなれたって言ってるし、後は…二人でちょっと商品をつまみ食いしちゃうのが問題かな?」
明るい笑顔で沙耶が笑う。この一週間で『沙耶の肉屋』は上質の肉を仕入れると評判になった。
「まぁ、お前さん達は肉のエキスパートだからな。だが、つまみ食いは程々にしておけよ。…それと、髪の毛の間から触手が出ているぞ。」
ちょうど、髪の毛が跳ねている辺りからピコピコと触手が揺れていた。
「あ…あははっ!は~い、気をつけまーす。あっ!郁紀を待たしているの。それじゃぁ…またの御贔屓をお待ちしていまーす。」
少女らしい笑顔をふりまき厨房を出て行く。沙耶と郁紀は次の配達に向かう。幸せに溢れているようだった。
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食にかかわる者には、人間であろうが無かろうが、分け隔てなく受け入れる街。 (外伝第三話 了。)
はい、今まで出てこなかった『沙耶』の自分なりの回答です。ぶっちゃけ、本編には無いハッピーエンドを目指してみたり…本当か?(ぉ
皆様に喜んで頂ければ幸いですが…m(_ _)m
SS 『鬼哭麺』第四話 「網絡調理」後編
『上海食品公司アーカム支社』はトラック事故で騒然としていた。遅まきながら、覇道の食品警察も動いていた。
「あ~あ、ひでぇ事になってるなぁ…で、ストーン君、状況はどうよ?」
「ネス警部!シャンとして下さい。…ともかく、トラックは『燦月食品』の食肉用の家畜を乗せていたとの事で、事故により『上海食品公司』社屋に侵入。暴れたそうですが、かけつけた燦月食品社員によって別のトラックに回収されたそうです。事故を起こしたトラック乗務員は消えた…と、いうか運輸会社に登録されていない人物だそうです。」
「や~れやれ、結局シッポをつかめずな訳ね。んで、こっちはえらいモンが見つかった訳だ…。」
「はっ!家畜が暴れた際、破壊した区画から登記に無い、違法サイバネアームや代替食品が見つかりました。」
ネスとストーンが見守る玄関前に、一台の車が止まり、中から一人のスーツを着た女性が出てきた。
「ご苦労様です。私は特捜科の麻生純子です。現状は?」
「これはこれは、ご苦労様です。それでは…」
説明を受け端末を操作していた純子はビルから出てくる一行に目が留まる。
「やっと出られたよ~。大変な特別授業になっちゃたねぇ、和樹君。」
「奈都美さんも無事でよかった。」
「まったく、奈都美がドジらなきゃ、もう少し早く出れたんだけどね。」
「んもう、薫ちゃんひどい~。」
「あら、あなた達、こんな所で…。」
「「純子さん!?」」
双方は状況説明をすると、純子は思い出したように、
「悪いんだけど、和樹君を貸して欲しいのよ。どうもビル内に社長が残っているみたいなんだけど、システムがロックしてて、私だけだと時間がかかるの。」
「わかりました。じゃあ、行ってくるからみんなは戻っていて。」
「でも、それなら私だけでも残ります…。」
「大丈夫よ若佳菜先生、終わったら私がちゃんと送り届けるから。さぁ、和樹君行きましょう。」
「はい。」
ビル内に入っていく二人。内部はすでに静まり返っていた。
「早速で悪いけど、社長のン・ウィンシンはネットワークの天才と言われていてね、私のディティクターじゃ通用しないのよ。」
「わかりました、やってみます。」
和樹が電覚でビル内のネットワークに進入、隔壁の突破を試みていたその時、最上階の社長室では余裕の表情のン・ウィンシンと各部から調理機器を振りかざし、なお、苦悶の表情で迫るペトルーシュカにタオローは追い詰められていた。
「くっ!ここでは食材が無い…どうする…。」
「さあ、食材はコン・タオローだ、ペトルーシュカ。なますにしてや…何?」
突然、脳に直接アラームが届く、このビルは先ほど支配権を取り戻したン・ウィンシンがタオローの逃げ場が無いようにロックをかけたはずだった。
「俺のネットワークは完璧だ、なぜ破れるんだ!?」
驚くンの前で、社長室の扉は開き、現われたのは、『食品警察特捜科』の麻生純子だった。
「世の中、絶対って物は無いのよ、ン・ウィンシン社長。あなたには食品取り扱い法、および表記義務違反の容疑があります。おとなしく、お縄につきなさい。」
「まぁ、待ちな。たとえ警察であろうが、俺達は勝負中だぜ。料理人同士の勝負には警察も口を出せない。だろう?刑事さんよぉ。そして、コン・タオロー。」
ンはタオローに近づき、小声で、
「ここで逃げれば、メモリーは吹っ飛ぶぜ。もちろんお前さんが勝ってもなぁ。」
「く、卑怯な…。勝負は勝負だ…。」
仕方ないといった表情の純子は、
「では、私ともう一人が立会人になります。…それと、もう少しまともに調理出来るところで…そうそう、もう一つ!妨害工作は禁止するわね。」
「ふん、まぁいい。それなら俺の店を使え。そして、俺が勝ったら逮捕も無しだ。コイツが勝てばペトルーシュカはくれてやる。」
そのまま、『青雲飯店アーカム三号店』へ向かう一向。純子の車に同乗するタオローは和樹に向かって話しかける。
「お前…人間ではないな?それで審査など出来るのか?」
「!!って、なんで和樹君の事がバレるのよ!?」
焦る純子にタオローはこともなげに、
「俺達、内家の料理人は“気”を見る。こいつはそれが無い。」
「そう、僕はロボットです。だから味はまだ良くわかりませんが、社長室の中で起こった事は見ていました。あのガイノイドのプログラムに僕が作ったディティクターを進入させたので、今頃は表面上は変わりなくても爆破の危険は無いはずです。」
「…そうか…、恩にきるぞ、…和樹。」
「いえ。」
こうなっては、勝負はついたも同然だった。何より、純子の機転により、店にいた客までも審査員として、ンの不正を監視したからである。
「バカな…何故爆発しない!?糞!」
何度も、爆破スイッチを押すが何の反応も無いペトルーシュカ。タオローはそのままペトルーシュカを連れて行く。うなだれるンに手錠をかける純子。
「それと…他の青雲飯店の店長は『代替食品』について、なにも知らないと言っているらしいわ。…あなた、見捨てられたわね。」
「糞っ!くそっ!チクショウー!!」
ン・ウィンシンの叫びだけが空しく響いていた…。
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』悪の料理人は跋扈しているものの、正義の剣もまた、折れてはいなかったのである。 (第四話 了)
な、何とか、終わった…いや、この話うまくまとまらなくて、まいった…。次は…どうなるやら(汗
「あ~あ、ひでぇ事になってるなぁ…で、ストーン君、状況はどうよ?」
「ネス警部!シャンとして下さい。…ともかく、トラックは『燦月食品』の食肉用の家畜を乗せていたとの事で、事故により『上海食品公司』社屋に侵入。暴れたそうですが、かけつけた燦月食品社員によって別のトラックに回収されたそうです。事故を起こしたトラック乗務員は消えた…と、いうか運輸会社に登録されていない人物だそうです。」
「や~れやれ、結局シッポをつかめずな訳ね。んで、こっちはえらいモンが見つかった訳だ…。」
「はっ!家畜が暴れた際、破壊した区画から登記に無い、違法サイバネアームや代替食品が見つかりました。」
ネスとストーンが見守る玄関前に、一台の車が止まり、中から一人のスーツを着た女性が出てきた。
「ご苦労様です。私は特捜科の麻生純子です。現状は?」
「これはこれは、ご苦労様です。それでは…」
説明を受け端末を操作していた純子はビルから出てくる一行に目が留まる。
「やっと出られたよ~。大変な特別授業になっちゃたねぇ、和樹君。」
「奈都美さんも無事でよかった。」
「まったく、奈都美がドジらなきゃ、もう少し早く出れたんだけどね。」
「んもう、薫ちゃんひどい~。」
「あら、あなた達、こんな所で…。」
「「純子さん!?」」
双方は状況説明をすると、純子は思い出したように、
「悪いんだけど、和樹君を貸して欲しいのよ。どうもビル内に社長が残っているみたいなんだけど、システムがロックしてて、私だけだと時間がかかるの。」
「わかりました。じゃあ、行ってくるからみんなは戻っていて。」
「でも、それなら私だけでも残ります…。」
「大丈夫よ若佳菜先生、終わったら私がちゃんと送り届けるから。さぁ、和樹君行きましょう。」
「はい。」
ビル内に入っていく二人。内部はすでに静まり返っていた。
「早速で悪いけど、社長のン・ウィンシンはネットワークの天才と言われていてね、私のディティクターじゃ通用しないのよ。」
「わかりました、やってみます。」
和樹が電覚でビル内のネットワークに進入、隔壁の突破を試みていたその時、最上階の社長室では余裕の表情のン・ウィンシンと各部から調理機器を振りかざし、なお、苦悶の表情で迫るペトルーシュカにタオローは追い詰められていた。
「くっ!ここでは食材が無い…どうする…。」
「さあ、食材はコン・タオローだ、ペトルーシュカ。なますにしてや…何?」
突然、脳に直接アラームが届く、このビルは先ほど支配権を取り戻したン・ウィンシンがタオローの逃げ場が無いようにロックをかけたはずだった。
「俺のネットワークは完璧だ、なぜ破れるんだ!?」
驚くンの前で、社長室の扉は開き、現われたのは、『食品警察特捜科』の麻生純子だった。
「世の中、絶対って物は無いのよ、ン・ウィンシン社長。あなたには食品取り扱い法、および表記義務違反の容疑があります。おとなしく、お縄につきなさい。」
「まぁ、待ちな。たとえ警察であろうが、俺達は勝負中だぜ。料理人同士の勝負には警察も口を出せない。だろう?刑事さんよぉ。そして、コン・タオロー。」
ンはタオローに近づき、小声で、
「ここで逃げれば、メモリーは吹っ飛ぶぜ。もちろんお前さんが勝ってもなぁ。」
「く、卑怯な…。勝負は勝負だ…。」
仕方ないといった表情の純子は、
「では、私ともう一人が立会人になります。…それと、もう少しまともに調理出来るところで…そうそう、もう一つ!妨害工作は禁止するわね。」
「ふん、まぁいい。それなら俺の店を使え。そして、俺が勝ったら逮捕も無しだ。コイツが勝てばペトルーシュカはくれてやる。」
そのまま、『青雲飯店アーカム三号店』へ向かう一向。純子の車に同乗するタオローは和樹に向かって話しかける。
「お前…人間ではないな?それで審査など出来るのか?」
「!!って、なんで和樹君の事がバレるのよ!?」
焦る純子にタオローはこともなげに、
「俺達、内家の料理人は“気”を見る。こいつはそれが無い。」
「そう、僕はロボットです。だから味はまだ良くわかりませんが、社長室の中で起こった事は見ていました。あのガイノイドのプログラムに僕が作ったディティクターを進入させたので、今頃は表面上は変わりなくても爆破の危険は無いはずです。」
「…そうか…、恩にきるぞ、…和樹。」
「いえ。」
こうなっては、勝負はついたも同然だった。何より、純子の機転により、店にいた客までも審査員として、ンの不正を監視したからである。
「バカな…何故爆発しない!?糞!」
何度も、爆破スイッチを押すが何の反応も無いペトルーシュカ。タオローはそのままペトルーシュカを連れて行く。うなだれるンに手錠をかける純子。
「それと…他の青雲飯店の店長は『代替食品』について、なにも知らないと言っているらしいわ。…あなた、見捨てられたわね。」
「糞っ!くそっ!チクショウー!!」
ン・ウィンシンの叫びだけが空しく響いていた…。
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』悪の料理人は跋扈しているものの、正義の剣もまた、折れてはいなかったのである。 (第四話 了)
な、何とか、終わった…いや、この話うまくまとまらなくて、まいった…。次は…どうなるやら(汗