SS 『鬼哭麺 外伝』第三話 「沙耶の店」
御名神亭の業務日誌
その怪異は深夜、営業を終えた屋台を保管場所に戻す為、裏路地に進入した時に起こった。…いや、ルイリーが連れて来た…。
「あにさまぁ~!お客さん連れて来たよ~!」
ビチビチッ
「いyぉpあ~、はpkネシtれェェ!」
其れは…形容し難い“肉の塊”だった。ブヨブヨと蠢き、もがいている様に見えるが、ルイリーがしっかり掴んで逃げられないでいるようだった…。
「ああん、逃げたらダメェ。あにさまのラーメン美味しいよぉ~。」
「ぼndンドグぉ?」
「うん!本当だよ。食べたらビックリしちゃうから。」
どうやら、ルイリーにはこの物体の言葉が分かるらしい…。ともかく、ルイリーを通じて、話してみる事にしたタオロー。
「つまり…、お前は沙耶と言う名前で…どこから来たかは分からない…。それはともかく、住み難くなった場所から逃げてきて、今現在一緒に住んでいる“匂坂郁紀”とか言う男の認識では、お前が美少女に見える…。人間の食事が食べられず…お前の嗜好に近い様で人肉を好むと…くくっ、面白い。俺も料理人としてあらゆる物を食い、作り、挙句今では外道へと堕ちたと思っていたが、本物のバケモ…いや…すまんな、人以外の者に料理を作ってみたくなった…。」
タオローは笑みすら浮かべて、肉の塊に話しかける。
「沙耶、と言ったな。明日の夜、俺の営業が終わってからで良ければ、この紙に書いた場所へ来い。貴様の言う郁紀とか言う男も連れてな。」
「『うん、分かった。でも、本当に大丈夫?』って言ってる。」
「まぁ…、結果は分からん。だが、俺には心当たりがある。」
ずるずる…と、裏路地の闇に消える沙耶。そして、タオローは明日の料理に想いを馳せていた。
翌日の深夜、タオローはルイリーと共に、仕込み用に使う厨房に着くと、一人の青年が立っていた。
「貴様が郁紀か?」
「うわ!な、何なんだ!?さ、沙耶、こんなバケモノだとは聞いてない!」
タオローを見て取り乱す青年、沙耶とか言う肉塊が出てきて一応の落ち着きは見せるがこのままでは話しにならない。
「やれやれ…話にならんな…。 …そうだ、ルイリー。沙耶とか言うやつの真似をして喋れるか?」
「…?…、うん!あにさま、ルイリー出来るよ!」
「では、通訳してくれ。今からお前達に料理を作ってやる。とな。」
「は~い!」
そうして、しばらくの時間が流れ、タオローは二杯のラーメンを作りあげる。
「…お待ち。さぁ、食ってみろ。沙耶、お前さんにも用意した。」
恐る恐る、箸を取る郁紀。沙耶の方を見ると触手を伸ばし、ちゃんと箸を使っていた。…ただし、口らしき物は意外な位置にあったが…見なかった事にする。
「…う、美味い…ラーメンらしいがよく分からないな…けど美味い。」
「『うん、ほんとだぁ。何だか肉の味がする。』って。」
「う…あぁ…くう…?」
どくんっ!と、食べ終わった郁紀に変化が起こる。
「悪いが沙耶、一度、郁紀の視界から隠れろ。」
「『何で?』って」
「ともかくだ。貴様の正体をばらしたいか?」
何かに気付いた沙耶が厨房の物陰に隠れる。そして…、
「あ…れ?ここは…え!?貴方は?」
「うむ、上手くいったようだな。説明すると、今、お前が食ったラーメンは俺が作った紫電麺だ。そして、その電流により、一時的にお前さんの脳神経の狂いを修正している。更に、麺に“コレ”を練りこんでみた。」
「…これは…『ざくろ』…。」
「そうだ、俺の国の古い文献に人肉を喰らう鬼女がいてな、釈迦だか、坊主だかの慈悲で助かり、人肉を喰らいたくなった時にはざくろを食え…とな。何でも人肉に近い味がするそうだ…くくっ。」
「そうなのか…って、沙耶は?」
「今は姿を見ない方がいいぞ?まぁ、お前さんは先に戻っていろ。俺は、沙耶とやらともう少し話す事がある。…そうだ、残ったざくろはお前さんにやろう。帰って食ってみろ。」
「あ!…ああ、そうする…うわっ…また視界が…。」
「残念だが、時間切れのようだな…。ならばルイリーが通訳すれば問題は無いか…。」
厨房に留まる郁紀の様子を見て沙耶が這い出てくる。
「さて、もう一つ提案なんだが…、お前さん前に普通の人間を郁紀と同じ状態に出来た…と言ったな。つまり、こいつは元に戻れる。と?」
「『うん』って。」
「ならば、お前が人間になる。とは考えなかったのか?」
「びっくりしてる。『気がつかなかった!』って『でも自信は無い』だって。」
少々呆れながら、タオローは言う。
「少しは思いつけ。…まあ良い。何、せめて見てくれだけでも良い。他人から見ても人間に見れれば…な。上手く行けば、俺の料理でサポート出来るかもしれん。なにせ、俺の国に『医食同源』と言う言葉がある位だ。」
タオローは珍しく笑顔だった。それは自信を持った笑顔であった。
そして、一ヵ月程たったある日、タオローの厨房に明るい声が届く。
「まいどー。『沙耶の肉屋』でーす。配達に来ましたー。」
そこには、一人の少女がチャーシュー用の豚肉を抱えていた。
「おう、すまないな沙耶、わざわざ配達させて。それでどうだ、今の体は?」
「うん!誰も気付いて無いみたい。郁紀も元に戻って少し混乱したけど、もうなれたって言ってるし、後は…二人でちょっと商品をつまみ食いしちゃうのが問題かな?」
明るい笑顔で沙耶が笑う。この一週間で『沙耶の肉屋』は上質の肉を仕入れると評判になった。
「まぁ、お前さん達は肉のエキスパートだからな。だが、つまみ食いは程々にしておけよ。…それと、髪の毛の間から触手が出ているぞ。」
ちょうど、髪の毛が跳ねている辺りからピコピコと触手が揺れていた。
「あ…あははっ!は~い、気をつけまーす。あっ!郁紀を待たしているの。それじゃぁ…またの御贔屓をお待ちしていまーす。」
少女らしい笑顔をふりまき厨房を出て行く。沙耶と郁紀は次の配達に向かう。幸せに溢れているようだった。
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食にかかわる者には、人間であろうが無かろうが、分け隔てなく受け入れる街。 (外伝第三話 了。)
はい、今まで出てこなかった『沙耶』の自分なりの回答です。ぶっちゃけ、本編には無いハッピーエンドを目指してみたり…本当か?(ぉ
皆様に喜んで頂ければ幸いですが…m(_ _)m
「あにさまぁ~!お客さん連れて来たよ~!」
ビチビチッ
「いyぉpあ~、はpkネシtれェェ!」
其れは…形容し難い“肉の塊”だった。ブヨブヨと蠢き、もがいている様に見えるが、ルイリーがしっかり掴んで逃げられないでいるようだった…。
「ああん、逃げたらダメェ。あにさまのラーメン美味しいよぉ~。」
「ぼndンドグぉ?」
「うん!本当だよ。食べたらビックリしちゃうから。」
どうやら、ルイリーにはこの物体の言葉が分かるらしい…。ともかく、ルイリーを通じて、話してみる事にしたタオロー。
「つまり…、お前は沙耶と言う名前で…どこから来たかは分からない…。それはともかく、住み難くなった場所から逃げてきて、今現在一緒に住んでいる“匂坂郁紀”とか言う男の認識では、お前が美少女に見える…。人間の食事が食べられず…お前の嗜好に近い様で人肉を好むと…くくっ、面白い。俺も料理人としてあらゆる物を食い、作り、挙句今では外道へと堕ちたと思っていたが、本物のバケモ…いや…すまんな、人以外の者に料理を作ってみたくなった…。」
タオローは笑みすら浮かべて、肉の塊に話しかける。
「沙耶、と言ったな。明日の夜、俺の営業が終わってからで良ければ、この紙に書いた場所へ来い。貴様の言う郁紀とか言う男も連れてな。」
「『うん、分かった。でも、本当に大丈夫?』って言ってる。」
「まぁ…、結果は分からん。だが、俺には心当たりがある。」
ずるずる…と、裏路地の闇に消える沙耶。そして、タオローは明日の料理に想いを馳せていた。
翌日の深夜、タオローはルイリーと共に、仕込み用に使う厨房に着くと、一人の青年が立っていた。
「貴様が郁紀か?」
「うわ!な、何なんだ!?さ、沙耶、こんなバケモノだとは聞いてない!」
タオローを見て取り乱す青年、沙耶とか言う肉塊が出てきて一応の落ち着きは見せるがこのままでは話しにならない。
「やれやれ…話にならんな…。 …そうだ、ルイリー。沙耶とか言うやつの真似をして喋れるか?」
「…?…、うん!あにさま、ルイリー出来るよ!」
「では、通訳してくれ。今からお前達に料理を作ってやる。とな。」
「は~い!」
そうして、しばらくの時間が流れ、タオローは二杯のラーメンを作りあげる。
「…お待ち。さぁ、食ってみろ。沙耶、お前さんにも用意した。」
恐る恐る、箸を取る郁紀。沙耶の方を見ると触手を伸ばし、ちゃんと箸を使っていた。…ただし、口らしき物は意外な位置にあったが…見なかった事にする。
「…う、美味い…ラーメンらしいがよく分からないな…けど美味い。」
「『うん、ほんとだぁ。何だか肉の味がする。』って。」
「う…あぁ…くう…?」
どくんっ!と、食べ終わった郁紀に変化が起こる。
「悪いが沙耶、一度、郁紀の視界から隠れろ。」
「『何で?』って」
「ともかくだ。貴様の正体をばらしたいか?」
何かに気付いた沙耶が厨房の物陰に隠れる。そして…、
「あ…れ?ここは…え!?貴方は?」
「うむ、上手くいったようだな。説明すると、今、お前が食ったラーメンは俺が作った紫電麺だ。そして、その電流により、一時的にお前さんの脳神経の狂いを修正している。更に、麺に“コレ”を練りこんでみた。」
「…これは…『ざくろ』…。」
「そうだ、俺の国の古い文献に人肉を喰らう鬼女がいてな、釈迦だか、坊主だかの慈悲で助かり、人肉を喰らいたくなった時にはざくろを食え…とな。何でも人肉に近い味がするそうだ…くくっ。」
「そうなのか…って、沙耶は?」
「今は姿を見ない方がいいぞ?まぁ、お前さんは先に戻っていろ。俺は、沙耶とやらともう少し話す事がある。…そうだ、残ったざくろはお前さんにやろう。帰って食ってみろ。」
「あ!…ああ、そうする…うわっ…また視界が…。」
「残念だが、時間切れのようだな…。ならばルイリーが通訳すれば問題は無いか…。」
厨房に留まる郁紀の様子を見て沙耶が這い出てくる。
「さて、もう一つ提案なんだが…、お前さん前に普通の人間を郁紀と同じ状態に出来た…と言ったな。つまり、こいつは元に戻れる。と?」
「『うん』って。」
「ならば、お前が人間になる。とは考えなかったのか?」
「びっくりしてる。『気がつかなかった!』って『でも自信は無い』だって。」
少々呆れながら、タオローは言う。
「少しは思いつけ。…まあ良い。何、せめて見てくれだけでも良い。他人から見ても人間に見れれば…な。上手く行けば、俺の料理でサポート出来るかもしれん。なにせ、俺の国に『医食同源』と言う言葉がある位だ。」
タオローは珍しく笑顔だった。それは自信を持った笑顔であった。
そして、一ヵ月程たったある日、タオローの厨房に明るい声が届く。
「まいどー。『沙耶の肉屋』でーす。配達に来ましたー。」
そこには、一人の少女がチャーシュー用の豚肉を抱えていた。
「おう、すまないな沙耶、わざわざ配達させて。それでどうだ、今の体は?」
「うん!誰も気付いて無いみたい。郁紀も元に戻って少し混乱したけど、もうなれたって言ってるし、後は…二人でちょっと商品をつまみ食いしちゃうのが問題かな?」
明るい笑顔で沙耶が笑う。この一週間で『沙耶の肉屋』は上質の肉を仕入れると評判になった。
「まぁ、お前さん達は肉のエキスパートだからな。だが、つまみ食いは程々にしておけよ。…それと、髪の毛の間から触手が出ているぞ。」
ちょうど、髪の毛が跳ねている辺りからピコピコと触手が揺れていた。
「あ…あははっ!は~い、気をつけまーす。あっ!郁紀を待たしているの。それじゃぁ…またの御贔屓をお待ちしていまーす。」
少女らしい笑顔をふりまき厨房を出て行く。沙耶と郁紀は次の配達に向かう。幸せに溢れているようだった。
ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食にかかわる者には、人間であろうが無かろうが、分け隔てなく受け入れる街。 (外伝第三話 了。)
はい、今まで出てこなかった『沙耶』の自分なりの回答です。ぶっちゃけ、本編には無いハッピーエンドを目指してみたり…本当か?(ぉ
皆様に喜んで頂ければ幸いですが…m(_ _)m
Comment
[40] いいとおもいますよ
沙耶やってないのですが、人づてに
エンディングを聞いて知っていたので、
こういうハッピーな感じも良いかと。
エンディングを聞いて知っていたので、
こういうハッピーな感じも良いかと。
[41] それは、脳髄を侵すラーメン。
そっか、確かに銀の鍵の門を抜けて来た人智の及ばぬ存在なんですから人間になるくらい問題なさそうです。
だとすればYの眷属なんでしょうか、沙耶は。うむ、アルと九郎には会わせないほうがよさそうです。よく分かってなくて逃げまわる沙耶と追っかけまわしながら大魔術を使いまくるアルのせいであたり一面廃墟になりそう。
というかショゴスのような…?でもショゴスは薬でラリッたやつの頭の中にしかいないって書かれてるしな、アルに。
ぬう、まずいぞ、このままだと忌むべき混血がそこらじゅうに!ウェイトリイ兄弟、増田照夫に続くヤバいやつらが大量発生!
つーかそのうち完全に人間になりますよね、沙耶は。ほんでマコトさんに拉致られて。
生態が違うだけで害意はないんですから、本編でもロリコンでシスコンの料理人と出会えばこうなってたかもしれませんね。
隠しルートねえかなー?沙耶と鬼哭街を同じフォルダに入れると突然変異したりしないかなー?
だとすればYの眷属なんでしょうか、沙耶は。うむ、アルと九郎には会わせないほうがよさそうです。よく分かってなくて逃げまわる沙耶と追っかけまわしながら大魔術を使いまくるアルのせいであたり一面廃墟になりそう。
というかショゴスのような…?でもショゴスは薬でラリッたやつの頭の中にしかいないって書かれてるしな、アルに。
ぬう、まずいぞ、このままだと忌むべき混血がそこらじゅうに!ウェイトリイ兄弟、増田照夫に続くヤバいやつらが大量発生!
つーかそのうち完全に人間になりますよね、沙耶は。ほんでマコトさんに拉致られて。
生態が違うだけで害意はないんですから、本編でもロリコンでシスコンの料理人と出会えばこうなってたかもしれませんね。
隠しルートねえかなー?沙耶と鬼哭街を同じフォルダに入れると突然変異したりしないかなー?
[42] よかった…。
感想がちょっと怖かったのですが…、結果オーライって事で(笑
ちなみに、沙耶が変体してゆく描写はカットしまつた。メンドイから(笑
ちなみに、沙耶が変体してゆく描写はカットしまつた。メンドイから(笑