御名神亭の業務日誌
≫『鬼哭麺』シリーズ
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SS 『鬼哭麺』第四話 「網絡調理」中編
僕の名は『友永和樹』。『HIKARI』によって、“人間の食”を調べる為に造られたロボットだ。
僕は『皇路料理専門学園』に転入して調査をしていた。そこで、奈都美さん達と出会い、食文化と料理の素晴らしさを知った。
だが、食は効率を求めれば良いと食文化破壊の結論を出した『HIKARI』を僕は、出会った人達との大切な時間や僕の想いをHIKARIに送る事で説得し、皇路学園での日常を手に入れた。
「ねぇねぇ和樹君、今日の特別見学、楽しみだよねぇ。」
「うん、そうだね。」
「そう言えば、今日は何処に行くんだって?」
「ったく、薫ってば、そんな事も知らずにドコ行くつもりなんだよ。いい、今日は『上海食品公司』に最新調理機器なんかを見るんだろう。」
「ちょりっと見に行くですわ。」
「…千絵梨も行くのかよ。」
「はい、絵の気分転換に、それに和樹さんも行かれるようでしたから。」
「あんたは何しに来てるんだよ…。」
こうして四人と話していると、若佳菜先生がやって来た。
「ずいぶん、盛り上がってるじゃない。でも、あちらでは静かにね。」
「「は~い。」」
「よろしい、ではバスにのって行きましょう。」
僕達はまだこの後起こる事を知らなかった…。
一方、皇路学園の一行が向かっている『上海食品公司』では…。
『青雲飯店 アーカム三号店』の店長、ン・ウィンシンではあったが、料理人ではない彼が店に出るのは一日の売り上げを集計する時か、店員が解決出来ないトラブルが起こった時だけであり、普段は『上海食品公司アーカム支社』最上階の社長室にいた。
後は、数名の店員と自動調理器、それに多数のアルバイトによって成り立っていたのである。
ピピッ
社長室のインターホンが鳴り、秘書の声が聞こえる。
「社長、『皇路料理専門学園』の生徒がこちらに向かっているそうです。」
「ああ社会見学とか言うやつだな。ではいつも通り“表”の見学ルートで頼む。」
指示だけ済ますと早々にインターホンを切る。だがまたもインターフォンが鳴る、しかも通常回線ではない、青雲飯店の店長のみの回線だ。
「お久しぶりですン・ウィンシン殿、ビン・ワイソン殿からこちらの支援にと、元兄弟馳せ参じました。」
「なんだと?聞いてはいねえが…まぁ、良いだろう、社内を自由に歩けるようにはしておく。…だが、セキュリティーは万全だ。お前らの出番はねぇぜ。」
「…十分です。では。」
インターホンが切れる。そのまま、ン・ウィンシンは社長室の隣の部屋、彼の趣味の為の部屋へと入っていく。
「くく、いよいよ出番だぜ、ペトルーシュカ…。」
一方こちらは…何と言うか、緊張感の無い一行ではあるが…
「うっわ~。凄いなぁ…うちでもここまで大規模な配送システムは無いんじゃないかなぁ。」
「深佳、なんて事言ってるのよ、まったく。比べる物でもないでしょう?」
「まぁ、そうなんだけどさー。親父に聞かせたらきっと悔しがるよ。」
「まったく、あたしには縁が無い話だねぇ…。」
「薫ちゃんは、体力で勝負じゃない。ねぇ。」
「まあねぇ…って、あたしをバカにする気か奈都美ぃ~。」
「イタイイタイ、薫ちゃん本気でつねらないでぇ~。」
「二人とも仲がよろしいですわねぇ。」
ともかく、見学ルートに沿って社内を歩いていたのだが、その時。
キキキキキッ!!ドカーーン!!
正面玄関にトラックが横転したまま突撃、コンテナから出てきたそれは…見たことの無い姿の獣…『燦月食品』の『複合(キメラ)家畜』であった。
そのまま、上海食品公司の中で暴れる家畜達。その混乱に乗じて、長身痩躯の男もビル内に侵入する。
「いったい何が起こっている!!」
「そ、それが、正体不明の獣が暴れて…手が付けられませんっ。」
「セキュリティーもダウンしています!」
「ちぃ…、まさか…あの野郎の仕業か!とにかく、部外者はとっとと外に出せ!奥に侵入する奴らは始末しろ!」
社内の喧騒は激しくなる。一方で、
「なになに?何が起こってるの、和樹くん。」
「…わからない、ともかく非常口に行こう。」
「それじゃあこっちね。みんなはぐれないで。」
逃げる途中、奈都美が遅れ、転んだ先には…うなぎの化け物だった。
「か、和樹君!!」
「しまった!間に合わない!」
「天魔輻射熱!!」
間一髪現われたのは、元兄弟。見事なコンビネーションでうなぎを捌き、蒲焼にしていた。
「娘。大事無いか?ここから早々に立ち去られよ。」
「お、同じ顔!?じゃなくて、あ、あの、ありがとうございました。」
「奈都美さん、さぁ、こっちだよ。」
「う、うん、和樹君。それじゃぁ。」
挨拶もそこそこに立ち去る一同、元兄弟も次の獲物へと向かって行った。
丁度その頃、最上階の社長室では、
「ふ、やはり、ここまで来たかコン・タオロー!」
「さあ、覚悟は出来たか?ン・ウィンシン!!」
「まさか!自慢じゃないが俺は料理も戦いも得意じゃ無い。お前の相手はコイツだ!」
「な、なに!?」
現われたのは…ガイノイドのペトルーシュカ。
「さぁて、コイツは俺の技術を詰め込んだ最高傑作だ。因みに、料理に負けたり、頭と胴体が離れたりすると、メモリーが吹っ飛ぶ仕掛けがしてある。」
「…外道が…。」
「勝てばいいのさ、行け!ロボコック、ペトルーシュカ!」
…名前のセンスは無いようだ…
兎も角、手の出せないタオローはどうなってしまうのか?第四話後編に続く!
僕は『皇路料理専門学園』に転入して調査をしていた。そこで、奈都美さん達と出会い、食文化と料理の素晴らしさを知った。
だが、食は効率を求めれば良いと食文化破壊の結論を出した『HIKARI』を僕は、出会った人達との大切な時間や僕の想いをHIKARIに送る事で説得し、皇路学園での日常を手に入れた。
「ねぇねぇ和樹君、今日の特別見学、楽しみだよねぇ。」
「うん、そうだね。」
「そう言えば、今日は何処に行くんだって?」
「ったく、薫ってば、そんな事も知らずにドコ行くつもりなんだよ。いい、今日は『上海食品公司』に最新調理機器なんかを見るんだろう。」
「ちょりっと見に行くですわ。」
「…千絵梨も行くのかよ。」
「はい、絵の気分転換に、それに和樹さんも行かれるようでしたから。」
「あんたは何しに来てるんだよ…。」
こうして四人と話していると、若佳菜先生がやって来た。
「ずいぶん、盛り上がってるじゃない。でも、あちらでは静かにね。」
「「は~い。」」
「よろしい、ではバスにのって行きましょう。」
僕達はまだこの後起こる事を知らなかった…。
一方、皇路学園の一行が向かっている『上海食品公司』では…。
『青雲飯店 アーカム三号店』の店長、ン・ウィンシンではあったが、料理人ではない彼が店に出るのは一日の売り上げを集計する時か、店員が解決出来ないトラブルが起こった時だけであり、普段は『上海食品公司アーカム支社』最上階の社長室にいた。
後は、数名の店員と自動調理器、それに多数のアルバイトによって成り立っていたのである。
ピピッ
社長室のインターホンが鳴り、秘書の声が聞こえる。
「社長、『皇路料理専門学園』の生徒がこちらに向かっているそうです。」
「ああ社会見学とか言うやつだな。ではいつも通り“表”の見学ルートで頼む。」
指示だけ済ますと早々にインターホンを切る。だがまたもインターフォンが鳴る、しかも通常回線ではない、青雲飯店の店長のみの回線だ。
「お久しぶりですン・ウィンシン殿、ビン・ワイソン殿からこちらの支援にと、元兄弟馳せ参じました。」
「なんだと?聞いてはいねえが…まぁ、良いだろう、社内を自由に歩けるようにはしておく。…だが、セキュリティーは万全だ。お前らの出番はねぇぜ。」
「…十分です。では。」
インターホンが切れる。そのまま、ン・ウィンシンは社長室の隣の部屋、彼の趣味の為の部屋へと入っていく。
「くく、いよいよ出番だぜ、ペトルーシュカ…。」
一方こちらは…何と言うか、緊張感の無い一行ではあるが…
「うっわ~。凄いなぁ…うちでもここまで大規模な配送システムは無いんじゃないかなぁ。」
「深佳、なんて事言ってるのよ、まったく。比べる物でもないでしょう?」
「まぁ、そうなんだけどさー。親父に聞かせたらきっと悔しがるよ。」
「まったく、あたしには縁が無い話だねぇ…。」
「薫ちゃんは、体力で勝負じゃない。ねぇ。」
「まあねぇ…って、あたしをバカにする気か奈都美ぃ~。」
「イタイイタイ、薫ちゃん本気でつねらないでぇ~。」
「二人とも仲がよろしいですわねぇ。」
ともかく、見学ルートに沿って社内を歩いていたのだが、その時。
キキキキキッ!!ドカーーン!!
正面玄関にトラックが横転したまま突撃、コンテナから出てきたそれは…見たことの無い姿の獣…『燦月食品』の『複合(キメラ)家畜』であった。
そのまま、上海食品公司の中で暴れる家畜達。その混乱に乗じて、長身痩躯の男もビル内に侵入する。
「いったい何が起こっている!!」
「そ、それが、正体不明の獣が暴れて…手が付けられませんっ。」
「セキュリティーもダウンしています!」
「ちぃ…、まさか…あの野郎の仕業か!とにかく、部外者はとっとと外に出せ!奥に侵入する奴らは始末しろ!」
社内の喧騒は激しくなる。一方で、
「なになに?何が起こってるの、和樹くん。」
「…わからない、ともかく非常口に行こう。」
「それじゃあこっちね。みんなはぐれないで。」
逃げる途中、奈都美が遅れ、転んだ先には…うなぎの化け物だった。
「か、和樹君!!」
「しまった!間に合わない!」
「天魔輻射熱!!」
間一髪現われたのは、元兄弟。見事なコンビネーションでうなぎを捌き、蒲焼にしていた。
「娘。大事無いか?ここから早々に立ち去られよ。」
「お、同じ顔!?じゃなくて、あ、あの、ありがとうございました。」
「奈都美さん、さぁ、こっちだよ。」
「う、うん、和樹君。それじゃぁ。」
挨拶もそこそこに立ち去る一同、元兄弟も次の獲物へと向かって行った。
丁度その頃、最上階の社長室では、
「ふ、やはり、ここまで来たかコン・タオロー!」
「さあ、覚悟は出来たか?ン・ウィンシン!!」
「まさか!自慢じゃないが俺は料理も戦いも得意じゃ無い。お前の相手はコイツだ!」
「な、なに!?」
現われたのは…ガイノイドのペトルーシュカ。
「さぁて、コイツは俺の技術を詰め込んだ最高傑作だ。因みに、料理に負けたり、頭と胴体が離れたりすると、メモリーが吹っ飛ぶ仕掛けがしてある。」
「…外道が…。」
「勝てばいいのさ、行け!ロボコック、ペトルーシュカ!」
…名前のセンスは無いようだ…
兎も角、手の出せないタオローはどうなってしまうのか?第四話後編に続く!
SS 『鬼哭麺』第四話 「網絡調理」前編
アーカムシティーから一番近い海岸、インスマウスの港からも離れた人の寄り付かない場所に一人の長身痩躯の男と幼い少女…と見紛うばかりのガイノイドがいた。
「あにさま~、聴いててねぇ~。」
チャララ~ララ♪チャラララララ~~♪
「ね、ルイリー上手いでしょぉ。」
胸を張るルイリー、タオローは顔を緩ませながら、そういえば昔、自分が父から料理修業の手始めとしてラーメン修行を始めた時、ルイリーは必死にチャルメラの練習をしていた。何でも『あにさまが屋台を引いて、ルイリーがお客さんを呼び込むの。』とか言っていた気がする。
「もぉう、あにさまちゃんと聴いてないぃ~!」
「ああ、済まない。…ルイリー、少しだけあっちの方で遊んでいてくれるか?」
「ええ~!ルイリーつまんないよぉ~。…でも、あにさまが言うなら分かった…でもでも、あとでちゃんと遊んでよ。」
「ああ、分かっている。ほら、行っておいで。」
タオローの真剣な目に気付いたのか、ルイリーは渋々波打ち際まで歩いて行く。
その直後、後方の道路から車が停車する音がして、一人の女性が近づいてくる。
「まったく、わざわざこんな所まで呼び出して何の用なのかしら、青雲飯店のコン・タオローさん。」
「それは昔の事だ。済まないな『燦月(さんげつ)食品』の諸井開発主任。何、ここなら話を聞かれる心配がないからな。」
実のところタオローはここでなくても良かった。ただ、ルイリーが海を見たいとせがんだからだ。当然そんな素振りは微塵も見せずに本題に入る。
「あんたの所でも、『上海食品公司』の存在は目障りだろう。いくら、双方とも、『青雲飯店』と『美食倶楽部 イノヴェルチ』と言う主になる卸先はあるが、販路拡大は難しい状況だ。」
「それで?何が言いたいのかしら…。」
「『上海食品公司』の食材はかなりの量が本物の食材では無く、安い代替食品に変わっている。そんな事が発覚すればどうだ?」
「…それは…本当の事なの?…で、具体的には…。」
「何、あんたの所の“食肉用の家畜”…随分、“生きが良い”らしいじゃないか。そして、家畜の輸送中に上海食品公司の前で“事故”が起こり、家畜が社内に侵入…。後は当局…特に覇道の食品警察が動く…。」
「…ばっ!こちらのリスクが高すぎるわ!」
「当局が動く前に撤収すれば良い。トラックの運転手は、金を積めば何でもやる連中を知っている。何、上手く逃げるし足は付かない。」
「…分かったわよ、まったく、復讐だか仇討ちだか知らないけど、何がそこまでさせるのか…。ともかく、準備が出来次第、連絡をするわ。では失礼。」
車に戻っていく諸井。そして、話が終わったと見るや駆けて戻ってくるルイリー。
「あにさま、あのおばさんとのお話終わった?」
「私をおばさんと呼ぶな!!!」
「ひゃぁっ。」
車に乗り込もうとしていた諸井が怒声を上げる。…以外に気にしているようであった…。
しかし、気にしていないルイリーは、
「あ~、びっくりしたねぇ、あにさま。」
「ああ、そうだな…。」
「そう言えばね、ルイリー何か大切な事を忘れているの。チャルメラがスープなのって、とうさまが言っていたんだけど、何のことか分かんないねぇ…。」
「大丈夫だよルイリー、すぐに、すぐに全て思い出すからね…。」
タオローはルイリーを抱きしめながら、誓いを新たにルイリーの為なら鬼に、麺鬼になる覚悟をしていた。 (第四話中編に続く)
「あにさま~、聴いててねぇ~。」
チャララ~ララ♪チャラララララ~~♪
「ね、ルイリー上手いでしょぉ。」
胸を張るルイリー、タオローは顔を緩ませながら、そういえば昔、自分が父から料理修業の手始めとしてラーメン修行を始めた時、ルイリーは必死にチャルメラの練習をしていた。何でも『あにさまが屋台を引いて、ルイリーがお客さんを呼び込むの。』とか言っていた気がする。
「もぉう、あにさまちゃんと聴いてないぃ~!」
「ああ、済まない。…ルイリー、少しだけあっちの方で遊んでいてくれるか?」
「ええ~!ルイリーつまんないよぉ~。…でも、あにさまが言うなら分かった…でもでも、あとでちゃんと遊んでよ。」
「ああ、分かっている。ほら、行っておいで。」
タオローの真剣な目に気付いたのか、ルイリーは渋々波打ち際まで歩いて行く。
その直後、後方の道路から車が停車する音がして、一人の女性が近づいてくる。
「まったく、わざわざこんな所まで呼び出して何の用なのかしら、青雲飯店のコン・タオローさん。」
「それは昔の事だ。済まないな『燦月(さんげつ)食品』の諸井開発主任。何、ここなら話を聞かれる心配がないからな。」
実のところタオローはここでなくても良かった。ただ、ルイリーが海を見たいとせがんだからだ。当然そんな素振りは微塵も見せずに本題に入る。
「あんたの所でも、『上海食品公司』の存在は目障りだろう。いくら、双方とも、『青雲飯店』と『美食倶楽部 イノヴェルチ』と言う主になる卸先はあるが、販路拡大は難しい状況だ。」
「それで?何が言いたいのかしら…。」
「『上海食品公司』の食材はかなりの量が本物の食材では無く、安い代替食品に変わっている。そんな事が発覚すればどうだ?」
「…それは…本当の事なの?…で、具体的には…。」
「何、あんたの所の“食肉用の家畜”…随分、“生きが良い”らしいじゃないか。そして、家畜の輸送中に上海食品公司の前で“事故”が起こり、家畜が社内に侵入…。後は当局…特に覇道の食品警察が動く…。」
「…ばっ!こちらのリスクが高すぎるわ!」
「当局が動く前に撤収すれば良い。トラックの運転手は、金を積めば何でもやる連中を知っている。何、上手く逃げるし足は付かない。」
「…分かったわよ、まったく、復讐だか仇討ちだか知らないけど、何がそこまでさせるのか…。ともかく、準備が出来次第、連絡をするわ。では失礼。」
車に戻っていく諸井。そして、話が終わったと見るや駆けて戻ってくるルイリー。
「あにさま、あのおばさんとのお話終わった?」
「私をおばさんと呼ぶな!!!」
「ひゃぁっ。」
車に乗り込もうとしていた諸井が怒声を上げる。…以外に気にしているようであった…。
しかし、気にしていないルイリーは、
「あ~、びっくりしたねぇ、あにさま。」
「ああ、そうだな…。」
「そう言えばね、ルイリー何か大切な事を忘れているの。チャルメラがスープなのって、とうさまが言っていたんだけど、何のことか分かんないねぇ…。」
「大丈夫だよルイリー、すぐに、すぐに全て思い出すからね…。」
タオローはルイリーを抱きしめながら、誓いを新たにルイリーの為なら鬼に、麺鬼になる覚悟をしていた。 (第四話中編に続く)
SS 『鬼哭麺 外伝』第二話 「漢の包丁」
俺の名は大十字九郎。アーカムシティーで何の因果かファミリーレストラン『レモンパイン』の店長をしている。そう、あの日、姫さんこと覇道瑠璃が現れ
「『料理指南(レシピ)書』を探して欲しいのです。それは、調理士探偵の貴方にしか出来ない事です。」
などと、言われてから。
まぁ、何とか俺は『料理指南(レシピ)書』の精霊『アル・味フ』を見つけ出し…たのは良いが、聞いて無いぞ、レシピ書がこんなのだったとは…。
「こら、九郎!今日は覇道の小娘に呼ばれておるのだろう。汝はこの最強のレシピ書、『ネクロノ味魂』のオリジナル『アル・味フ』のマスターぞ。シャッキとせい!」
「へいへい…、んじゃまぁ、行きますか。しかし、急な呼び出しだよなぁ…。昨日いきなり執事さんに『明日の大十字様の休日。我が覇道邸へお越し下さい。』だもんなぁ…俺、また何かやったか?」
「さあな、色々有り過ぎて検討もつかん。」
「…だよなぁ…、つって、行かないわけにもいかないし、しゃあねぇ腹括って行くぜ、アル。」
「うむ、ではまいろうか。」
そして、覇道邸で待っていたのは…鬼だった…。
「…と、言う訳で、大十字さんの料理の腕を鍛える為に、お呼びしたコン・タオローさんです。」
「…はい?なんでまた今更…。」
ギロッ!
「ふん、見れば、才能だけはあるようだが、基本がなって無いな…。誰かに師事した事は?」
「いや、無い…。(怖えぇ~。)」
「だろうな、よし、とりあえず基本を見る。キャベツの千切りからやって貰おう。」
「よし、アル。『魔調理士(コック)スタイル』だ!」
「応!」
「渇ッ!!」
いきなりの怒声に変身出来なかった。
「貴様の事は聞いている。これから俺の言うまで、魔調理士スタイルとか言うのは禁止だ。自分の実力も無いのに百年早い!」
「むう…誰かは知らぬが、迫力だけならマスターテリオン並みだのう…。」
「はい、アル・味フ様。彼は、以前、このアーカムシティーの中華料理で一番と謳われた、青雲飯店で一、二の実力の持ち主と言われておりましたから。」
「なるほどのう、では今回は我の出番はなさそうだな。九郎、しっかりやるが良い。我は上で茶でも飲んでおる。」
そう言うと、薄情にもアルの奴は地下の調理室を出て行きやがった。
「くうぅ…、やってやろうじゃないか!」
意気込んだものの…。
「なんだ!この不揃いな太さは!そんな物で客に出せるか!ええい!一度だけ手本を見せてやる!」
そう言ったコン・タオローの腕は凄まじかった。
「腕の動きが見えねぇ…。本当に生身なのか?」
「お前は考えてから動かすからブレる。意よりも早く包丁を動かせ!身体に覚えこませるんだ。『ブラックリッチ』とやらのオーナーシェフ、マスター照り温とやらを倒すのならば、これぐらいは生身でこなせ!」
「いや、照り温じゃねぇよ…。」
「口を動かす前に手を動かせ!」
「はい!」
「煮物の煮崩れを防ぐには、面取りをキッチリしろ!」
「はい!」
「肉を焼く時は、両面を強火で焼いてから、弱火でじっくり焼くんだ、レアなら…。」
「はい!師匠!」
「蒸し物は必ず湯が沸騰してから入れろ!手間を惜しんだ奴は客に逃げられるぞ!」
「はい!師匠!」
こうして、一週間の時間が過ぎ…
「よし、それでは、これで最後だ。魔調理士スタイルになってオペレーションを想定、バーグ定食3、ケチャップオムライス、ミックスサンド2。これをこなせ!最低でも20分以内だ!それを過ぎれば客が逃げるぞ!」
「よし、九郎!準備は出来ておる。変身じゃ。」
「応!」
…18分後
「オーダー出ます!…師匠…。」
「…ふむ、盛り付けも良し。時間も良し。…味は…うむ、合格だ。よくやったな九郎。」
「ははっ…。やったぜ、アル。」
「うむ、見事なオペレーションであったぞ九郎。これで『アンナクロース』の店長どもにも遅れはとるまい。」
「ふふっ、俺も久しぶりに清清しい気分だ。ならば、お前にこれをやろう。俺が師事した職人に…性格は少々問題はあるが、腕は一流の師匠でな『俺の国では、師匠から貰える包丁は卒業の証だ、半年だけだったが、お前さんにもこれをやろう』と和包丁を貰った。お前はファミレスの店長だからな、牛刀が良かろう。刀匠バルザイ氏の逸品だ、これからも精進しろよ。」
「師匠!ありがとうございます!」
俺は、コン師匠と固い握手を交わした。漢同士の絆だった。
俺は今日も、違法な出店をする『アンナクロース』の『デウスマキナ(機械仕掛けの移動式店舗)』に戦いを挑む。俺の相棒、『アル・味フ』と『レモンパイン』とそして…『バルザイの牛刀』を振るって…。
ここは、アーカムシティー、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』野望と希望を抱く料理人達の大舞台。 (鬼哭麺外伝 第三話了。)
「『料理指南(レシピ)書』を探して欲しいのです。それは、調理士探偵の貴方にしか出来ない事です。」
などと、言われてから。
まぁ、何とか俺は『料理指南(レシピ)書』の精霊『アル・味フ』を見つけ出し…たのは良いが、聞いて無いぞ、レシピ書がこんなのだったとは…。
「こら、九郎!今日は覇道の小娘に呼ばれておるのだろう。汝はこの最強のレシピ書、『ネクロノ味魂』のオリジナル『アル・味フ』のマスターぞ。シャッキとせい!」
「へいへい…、んじゃまぁ、行きますか。しかし、急な呼び出しだよなぁ…。昨日いきなり執事さんに『明日の大十字様の休日。我が覇道邸へお越し下さい。』だもんなぁ…俺、また何かやったか?」
「さあな、色々有り過ぎて検討もつかん。」
「…だよなぁ…、つって、行かないわけにもいかないし、しゃあねぇ腹括って行くぜ、アル。」
「うむ、ではまいろうか。」
そして、覇道邸で待っていたのは…鬼だった…。
「…と、言う訳で、大十字さんの料理の腕を鍛える為に、お呼びしたコン・タオローさんです。」
「…はい?なんでまた今更…。」
ギロッ!
「ふん、見れば、才能だけはあるようだが、基本がなって無いな…。誰かに師事した事は?」
「いや、無い…。(怖えぇ~。)」
「だろうな、よし、とりあえず基本を見る。キャベツの千切りからやって貰おう。」
「よし、アル。『魔調理士(コック)スタイル』だ!」
「応!」
「渇ッ!!」
いきなりの怒声に変身出来なかった。
「貴様の事は聞いている。これから俺の言うまで、魔調理士スタイルとか言うのは禁止だ。自分の実力も無いのに百年早い!」
「むう…誰かは知らぬが、迫力だけならマスターテリオン並みだのう…。」
「はい、アル・味フ様。彼は、以前、このアーカムシティーの中華料理で一番と謳われた、青雲飯店で一、二の実力の持ち主と言われておりましたから。」
「なるほどのう、では今回は我の出番はなさそうだな。九郎、しっかりやるが良い。我は上で茶でも飲んでおる。」
そう言うと、薄情にもアルの奴は地下の調理室を出て行きやがった。
「くうぅ…、やってやろうじゃないか!」
意気込んだものの…。
「なんだ!この不揃いな太さは!そんな物で客に出せるか!ええい!一度だけ手本を見せてやる!」
そう言ったコン・タオローの腕は凄まじかった。
「腕の動きが見えねぇ…。本当に生身なのか?」
「お前は考えてから動かすからブレる。意よりも早く包丁を動かせ!身体に覚えこませるんだ。『ブラックリッチ』とやらのオーナーシェフ、マスター照り温とやらを倒すのならば、これぐらいは生身でこなせ!」
「いや、照り温じゃねぇよ…。」
「口を動かす前に手を動かせ!」
「はい!」
「煮物の煮崩れを防ぐには、面取りをキッチリしろ!」
「はい!」
「肉を焼く時は、両面を強火で焼いてから、弱火でじっくり焼くんだ、レアなら…。」
「はい!師匠!」
「蒸し物は必ず湯が沸騰してから入れろ!手間を惜しんだ奴は客に逃げられるぞ!」
「はい!師匠!」
こうして、一週間の時間が過ぎ…
「よし、それでは、これで最後だ。魔調理士スタイルになってオペレーションを想定、バーグ定食3、ケチャップオムライス、ミックスサンド2。これをこなせ!最低でも20分以内だ!それを過ぎれば客が逃げるぞ!」
「よし、九郎!準備は出来ておる。変身じゃ。」
「応!」
…18分後
「オーダー出ます!…師匠…。」
「…ふむ、盛り付けも良し。時間も良し。…味は…うむ、合格だ。よくやったな九郎。」
「ははっ…。やったぜ、アル。」
「うむ、見事なオペレーションであったぞ九郎。これで『アンナクロース』の店長どもにも遅れはとるまい。」
「ふふっ、俺も久しぶりに清清しい気分だ。ならば、お前にこれをやろう。俺が師事した職人に…性格は少々問題はあるが、腕は一流の師匠でな『俺の国では、師匠から貰える包丁は卒業の証だ、半年だけだったが、お前さんにもこれをやろう』と和包丁を貰った。お前はファミレスの店長だからな、牛刀が良かろう。刀匠バルザイ氏の逸品だ、これからも精進しろよ。」
「師匠!ありがとうございます!」
俺は、コン師匠と固い握手を交わした。漢同士の絆だった。
俺は今日も、違法な出店をする『アンナクロース』の『デウスマキナ(機械仕掛けの移動式店舗)』に戦いを挑む。俺の相棒、『アル・味フ』と『レモンパイン』とそして…『バルザイの牛刀』を振るって…。
ここは、アーカムシティー、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』野望と希望を抱く料理人達の大舞台。 (鬼哭麺外伝 第三話了。)
SS 『鬼哭麺』第三話 「老麺太后」後編
アーカムシティーの一画、『青雲飯店 アーカム四号店』の前は異様な興奮に包まれていた。
『老麺太后』チュウ・シャオヤンと『紫電麺』コン・タオローが直接、味勝負をしているのだ。しかも、双方妨害ありのまさにデスマッチである。
「…五手までは待ってやる。来るがいい…。」
「舐めるなぁー!」
早速、チュウの手から弾丸のような速度で菜箸が飛ぶ。
が、しかし、タオローは苦も無くこちらも菜箸で摘み取る。
「ふん、遅いな。」
「くぅぅっ!」
歯軋りするチュウは、今打っていた麺に凝固剤を混入して、引き伸ばし…伸ばした麺を捩ると、まるで鞭のように振り回し、タオローに襲いかかる。
タオローは上体だけでかわすが、その先の湯のたっぷり入った寸胴鍋を吹っ飛ばした。
「あぶねぇ!」
あわや周囲の観客に熱湯が浴びせかけられる寸前、飛び出したフリッツががっちりキャッチ。しっかり手には鍋つかみをはめて。
「ふぅ、あぶねぇなぁ、まったく青雲飯店ってのは物騒だねぇ。おい!観客はこっちでキッチリ守ってやるから調理に専念していいぜ。」
やっている事とはうらはらにフリッツは軽い口調で言う。
「それは、ありがたい。」
タオローは続けざまに来る三、四撃目をかわしながら口元を緩める。
「チッ、余計な真似を…まぁいいさ、これでどうだ!!」
チュウの麺鞭に先ほどの攻撃で包丁、鉄串などが纏わり付いている、そしてついに鞭の先端が音速を超えた。
「死ねぇ!!」
「ふん!これで五手!今度はこちらから行くぞ!」
タオローに向かって飛んでくる鞭を地面を蹴ってよけると手にした包丁で麺鞭を切断、切った先をそのまま掴むとチュウに向け投げ返す。チュウは手元に残った麺鞭で飛んできた先の部分を受け止めるとそのままゴミ箱に捨て、今度こそ普通に麺を打つ。
「ちい、小癪な!なら、直接殺してやるよ!」
チュウは麺をゆで始め、その空いた僅かな時間にタオローに迫る。手に調理器具や包丁が展開したままで。
しかし、タオローも菜箸、包丁で受け止め、反撃で浅い傷をつけながら、調理は進む。
「ならこれで、貴様を刀削麺にしてやる!」
チュウのふくらはぎから中華包丁が展開し、タオローに迫る。チュウ必殺の刀削脚である。これで、刀削麺は勿論、邪魔をする幾多の料理人を血の海に沈めてきたのだ。
だが、タオローは目を見開くと、
「料理人が足を使うとは何事だぁーーーー!!」
「ぐはぁっ!」
タオローが裂帛の気合と共に繰り出した拳がチュウの鳩尾にめり込み、そのまま自分の調理スペースまで吹っ飛ぶ。
「ぐううぅぅ…。」
よろめきながら立ち上がり反撃を考えるも、麺上げの時間でもあるのでそのまま調理を再開する。
「…時間よ、できた方から提出しなさい。」
先に出したのはコン・タオロー。三人は一言も喋らずに熱いうちに平らげる。
「見事な麺だ。風味、喉越し申し分無い。」
「スープも、コクがありながらすっきりしているわね。」
「うん、チャーシューもとろけるようで、メンマはシャキシャキと心地いい。」
「「ごちそうさまでした!」」
「…まいど。」
高評価に面白くないチュウ・シャオヤンがドン!とドンブリを出す。
「さあ、食って見やがれ、この『老麺太后』と呼ばれたアタシのラーメンを!」
白湯仕立てのスープにチャーシュー、メンマ、煮玉子、ネギ等を色鮮やかに乗せた一杯。…だが、二人は口を付けず、只一人、葱太のみが一気に食べる。
「な!何故アタシのを食べない!?」
「…あなたのラーメンは食べるに値しない。」
「最初に俺は言ったよな?毒は無駄だと。ホレ、見るがいい。」
指差す方向には葱太が…筋肉が盛り上がり、口は裂け牙が生えそろう。『ヘルゴニア』へ変身していた。
「ば、馬鹿な!アタシは何も…。」
「あなたの腕に滴る液体は何かしら?即効性のシビレ薬って所かしらね。」
「そ、そんな!エマージェンシーは出ていな…はっ!お前か!」
驚きのチュウを涼しい顔で見ながらタオローは言う。
「お前が仕掛けて来たときに、回路の幾つか…特にセキュリティー廻りは潰しておいた。その上で、常套手段のシビレ薬を少量ずつ液モレをおこすようにしておいたのさ。」
「くそ!卑怯者が!」
どっちが…と観客がツッコミを入れたくなるその時、獣の咆哮が轟いた。
「グウウ…餓ァァァァ!!」
「や、止めろ、ギャアァァァァ!」
チュウに飛び掛るヘルゴニアはサイバーアームすらものともせず引き千切り、噛み付き、砕く。
「あ~あ、だから言ったのによ。この公衆の面前だ、あいつの料理人生命は終わったな。…さて、どうするモーラ?」
「どうすると言ったって、ああなったら、とにかく腹一杯食べるか、満足できる料理を食べるしかないけど…。」
「では、少々手荒にやってもいいか?」
タオローが新たなドンブリを持って横に立っていた。
「ああ、良いぜ。多少の事じゃ死にはしない。」
「ちょっとフリッツ、葱太が聞いたら怒るわよ。でも、どうするの?」
「こうする!」
ヘルゴニアに向かってタオローが跳ぶ、スープを一滴もこぼさずに。
「さぁ、少々きついが俺の『紫電麺』を喰らえ!」
ヘルゴニアが振り向いた時、ドンブリは眼前にあり…そのまま顔を突っ込んだ。
そして、電撃を喰らった様に一瞬、ビクッと痙攣するとそのまま倒れこむ。
「手加減はしておいた。そのうちに気がつくだろう…。」
そのままタオローは店に入り、一体のガイノイドの首を持って、裏口から闇夜の街に消えていった。
「なんつーか、美味かったのか、単なる電撃かわからんな…。」
「まぁ、被害が無くて良かったわ。さあフリッツ、葱太を運んで、撤収しましょう。」
まばらになってゆく人ごみの中、ボロボロのチュウ・シャオヤンは忘れられたままだった…合掌。
さて、一方、タオローは廃墟の中、ルイリーの魂魄を統合していた。やがてPDAが終了のダイアログを表示する。
「…ルイリー…分かるか?俺だコン・タオローだ…。」
タオローは祈るようにガイノイドの、ルイリーの顔を見る。やがてたどたどしく口を開き
「あ…に…さ…ま?…あー、あにさまだぁ。」
満面の笑顔を見せる。タオローは手に力が入り
「痛いよ、あにさま。あー、あにさまへんなお顔してるー。」
ルイリーがまた笑う。タオローは思った
(か、かわええ…。やっぱりルイリーはこのぐらいがいいなぁ…)
普段のタオローがけして見せないぐらい惚けて鼻の下が伸びていた…真性の『シスコン』で『ロリコン』であった。
ここはアーカムシティー、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』どんな性癖の料理人であろうとも受け入れる街…。 (第三話 了)
なんとか、第三話終了です…やっぱり長くなったなぁ…バトルシーンって難しいですよ(汗
…いや、その前に何故か(?)タオローが壊れましたが…(滝汗 …まぁ、いいか(いいのか?
では、皆様の感想お待ちしてますm(_ _)m
『老麺太后』チュウ・シャオヤンと『紫電麺』コン・タオローが直接、味勝負をしているのだ。しかも、双方妨害ありのまさにデスマッチである。
「…五手までは待ってやる。来るがいい…。」
「舐めるなぁー!」
早速、チュウの手から弾丸のような速度で菜箸が飛ぶ。
が、しかし、タオローは苦も無くこちらも菜箸で摘み取る。
「ふん、遅いな。」
「くぅぅっ!」
歯軋りするチュウは、今打っていた麺に凝固剤を混入して、引き伸ばし…伸ばした麺を捩ると、まるで鞭のように振り回し、タオローに襲いかかる。
タオローは上体だけでかわすが、その先の湯のたっぷり入った寸胴鍋を吹っ飛ばした。
「あぶねぇ!」
あわや周囲の観客に熱湯が浴びせかけられる寸前、飛び出したフリッツががっちりキャッチ。しっかり手には鍋つかみをはめて。
「ふぅ、あぶねぇなぁ、まったく青雲飯店ってのは物騒だねぇ。おい!観客はこっちでキッチリ守ってやるから調理に専念していいぜ。」
やっている事とはうらはらにフリッツは軽い口調で言う。
「それは、ありがたい。」
タオローは続けざまに来る三、四撃目をかわしながら口元を緩める。
「チッ、余計な真似を…まぁいいさ、これでどうだ!!」
チュウの麺鞭に先ほどの攻撃で包丁、鉄串などが纏わり付いている、そしてついに鞭の先端が音速を超えた。
「死ねぇ!!」
「ふん!これで五手!今度はこちらから行くぞ!」
タオローに向かって飛んでくる鞭を地面を蹴ってよけると手にした包丁で麺鞭を切断、切った先をそのまま掴むとチュウに向け投げ返す。チュウは手元に残った麺鞭で飛んできた先の部分を受け止めるとそのままゴミ箱に捨て、今度こそ普通に麺を打つ。
「ちい、小癪な!なら、直接殺してやるよ!」
チュウは麺をゆで始め、その空いた僅かな時間にタオローに迫る。手に調理器具や包丁が展開したままで。
しかし、タオローも菜箸、包丁で受け止め、反撃で浅い傷をつけながら、調理は進む。
「ならこれで、貴様を刀削麺にしてやる!」
チュウのふくらはぎから中華包丁が展開し、タオローに迫る。チュウ必殺の刀削脚である。これで、刀削麺は勿論、邪魔をする幾多の料理人を血の海に沈めてきたのだ。
だが、タオローは目を見開くと、
「料理人が足を使うとは何事だぁーーーー!!」
「ぐはぁっ!」
タオローが裂帛の気合と共に繰り出した拳がチュウの鳩尾にめり込み、そのまま自分の調理スペースまで吹っ飛ぶ。
「ぐううぅぅ…。」
よろめきながら立ち上がり反撃を考えるも、麺上げの時間でもあるのでそのまま調理を再開する。
「…時間よ、できた方から提出しなさい。」
先に出したのはコン・タオロー。三人は一言も喋らずに熱いうちに平らげる。
「見事な麺だ。風味、喉越し申し分無い。」
「スープも、コクがありながらすっきりしているわね。」
「うん、チャーシューもとろけるようで、メンマはシャキシャキと心地いい。」
「「ごちそうさまでした!」」
「…まいど。」
高評価に面白くないチュウ・シャオヤンがドン!とドンブリを出す。
「さあ、食って見やがれ、この『老麺太后』と呼ばれたアタシのラーメンを!」
白湯仕立てのスープにチャーシュー、メンマ、煮玉子、ネギ等を色鮮やかに乗せた一杯。…だが、二人は口を付けず、只一人、葱太のみが一気に食べる。
「な!何故アタシのを食べない!?」
「…あなたのラーメンは食べるに値しない。」
「最初に俺は言ったよな?毒は無駄だと。ホレ、見るがいい。」
指差す方向には葱太が…筋肉が盛り上がり、口は裂け牙が生えそろう。『ヘルゴニア』へ変身していた。
「ば、馬鹿な!アタシは何も…。」
「あなたの腕に滴る液体は何かしら?即効性のシビレ薬って所かしらね。」
「そ、そんな!エマージェンシーは出ていな…はっ!お前か!」
驚きのチュウを涼しい顔で見ながらタオローは言う。
「お前が仕掛けて来たときに、回路の幾つか…特にセキュリティー廻りは潰しておいた。その上で、常套手段のシビレ薬を少量ずつ液モレをおこすようにしておいたのさ。」
「くそ!卑怯者が!」
どっちが…と観客がツッコミを入れたくなるその時、獣の咆哮が轟いた。
「グウウ…餓ァァァァ!!」
「や、止めろ、ギャアァァァァ!」
チュウに飛び掛るヘルゴニアはサイバーアームすらものともせず引き千切り、噛み付き、砕く。
「あ~あ、だから言ったのによ。この公衆の面前だ、あいつの料理人生命は終わったな。…さて、どうするモーラ?」
「どうすると言ったって、ああなったら、とにかく腹一杯食べるか、満足できる料理を食べるしかないけど…。」
「では、少々手荒にやってもいいか?」
タオローが新たなドンブリを持って横に立っていた。
「ああ、良いぜ。多少の事じゃ死にはしない。」
「ちょっとフリッツ、葱太が聞いたら怒るわよ。でも、どうするの?」
「こうする!」
ヘルゴニアに向かってタオローが跳ぶ、スープを一滴もこぼさずに。
「さぁ、少々きついが俺の『紫電麺』を喰らえ!」
ヘルゴニアが振り向いた時、ドンブリは眼前にあり…そのまま顔を突っ込んだ。
そして、電撃を喰らった様に一瞬、ビクッと痙攣するとそのまま倒れこむ。
「手加減はしておいた。そのうちに気がつくだろう…。」
そのままタオローは店に入り、一体のガイノイドの首を持って、裏口から闇夜の街に消えていった。
「なんつーか、美味かったのか、単なる電撃かわからんな…。」
「まぁ、被害が無くて良かったわ。さあフリッツ、葱太を運んで、撤収しましょう。」
まばらになってゆく人ごみの中、ボロボロのチュウ・シャオヤンは忘れられたままだった…合掌。
さて、一方、タオローは廃墟の中、ルイリーの魂魄を統合していた。やがてPDAが終了のダイアログを表示する。
「…ルイリー…分かるか?俺だコン・タオローだ…。」
タオローは祈るようにガイノイドの、ルイリーの顔を見る。やがてたどたどしく口を開き
「あ…に…さ…ま?…あー、あにさまだぁ。」
満面の笑顔を見せる。タオローは手に力が入り
「痛いよ、あにさま。あー、あにさまへんなお顔してるー。」
ルイリーがまた笑う。タオローは思った
(か、かわええ…。やっぱりルイリーはこのぐらいがいいなぁ…)
普段のタオローがけして見せないぐらい惚けて鼻の下が伸びていた…真性の『シスコン』で『ロリコン』であった。
ここはアーカムシティー、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』どんな性癖の料理人であろうとも受け入れる街…。 (第三話 了)
なんとか、第三話終了です…やっぱり長くなったなぁ…バトルシーンって難しいですよ(汗
…いや、その前に何故か(?)タオローが壊れましたが…(滝汗 …まぁ、いいか(いいのか?
では、皆様の感想お待ちしてますm(_ _)m
SS『鬼哭麺』第三話 「老麺太后」中篇
アーカムシティー。昔は片田舎の小さな町でしかなかったが、『食の冒険家』覇道鋼造により、近郊のインスマウスの漁港の整備、ホテル建設、料理人の優遇政策などで一大美食都市へと変貌していった。
そして現在、覇道財閥は実質この街を支配しているのだが、過激な料理人が跋扈するという現状に頭を痛める結果になってもいる。
「お嬢様、こちらが昨日の料理人同士の諍いによる被害報告でございます。」
「ふう、毎日よくやるわね、まったく。何の為に大十字さんにお爺様の『レモンパイン』の店長をまかせているのか…。」
「失礼ながらお嬢様、大十字様は良くやっているとは思います。『調理指南書(レシピ)』の入手に成功し、修行期間無しにも関わらず、『ブラックリッチ』グループの『メタルバー デストロイ』の出店阻止を何度も成功させています。」
「それはわかっています!しかし、いくらあの生意気なレシピ娘『アル・味フ』が優秀でも、敵は『アンナクロース』まで出て来ているのですよ。」
「確かに大十字様は『魔調理士(コック)』としては未だ未熟。アンナクロースは各店舗に鳥料理、海鮮料理、日本料理等の専門店長を配置しております。大十字様の技術の向上は急務かと…。」
コンコン
話の途中で執務室の扉がノックされる。
「失礼します、お嬢様。ツェ・イーター様がお嬢様に面会を希望されております。」
「…ツェ・イーター氏が?…分かりました稲田、客間にお通ししなさい。すぐに参ります。」
「分かりましたお嬢様。」
扉が閉じられる。
「ツェ・イーター様といえば、大旦那様の旧知のお方でしたね。このアーカムシティーの発展に幾つか関わっているという。」
「ええ、それだけに無碍には扱えないのですけども…。」
「とにかく、客間に参りましょう。」
「そうですね。」
そして、執務室から出て移動する覇道瑠璃とウインフィールド。客間には既に、ツェ・イーターが待っていた。
「やぁやぁ、お嬢様、あいかわらずお美しい。」
「お世辞はいりません。用件は何ですか?」
「はは、これは失礼。実は…以前から依頼されておりました計画とその人員についてまとまりましたので報告に。これで、『レモンパイン』は『ブラックリッチ』に専念できる…かと。」
「それは、大旦那様からの計画ですか?」
「その通り。鋼造氏は今の現状を予見しておりましてな。その為に私にこの計画を託していたのです。」
報告書をめくりながら覇道瑠璃は口を開く。
「分かりました、ツェ・イーターさん。この計画、覇道が責任をもって実行します。ご苦労でした。」
「いえ、では私は失礼します。…おぉ、そうだ、そちらの店長、もしなんでしたら、私の知り合いに師事されては?まぁ、気難しい男ですが腕は一流です。」
「そちらも、分かりました。その時はこちらから連絡を差し上げます。」
恭しく一礼をするとツェは部屋を出て行く。
「ウインフィールド、この計画をなるべく優先して実行して下さい。方法は任せます。」
「畏まりまして御座います。」
一方、アーカムシティーの繁華街の一画、『星雲飯店 アーカム四号店』に一台の屋台がたどたどしいチャルメラの音と共に近づく。
チャラ ラ~~ラ、ラ…チャラ チャララ…ラ~♪
そして、店の入り口近くに止めると、『設営術』で軽やかに開店準備を始める。
開店準備が完了し、いざ開店となる所に鋭い声がかかる。
「其処までだ!コン・タオロー!」
店の入り口から出てきたのは『老麺太后』チュウ・シャオヤンであった。
「ジャンの店を潰したのは貴様だね?アタシはまどろっこしいマネは嫌いでねぇ…今すぐ『喰わせもん』で勝負だ!」
「ふん、手間が省けたな。俺はかまわんぞ。」
「その勝負、待った!」
観衆が集まり、期待が高まる中、唐突に割ってはいる声。それは、先日からこの街に入ってきた『美食(グルメ)ハンター』の三人組であった。
「まぁ、二人とも待ちな。星雲飯店の喰わせもんの噂は知ってるんだが、何でも最近は毒入りって言うじゃないか?」
「だから、私たちが美食(グルメ)ハンターの名において、公平に審判をする、と言うのはどうかしら?」
イキナリ部外者がしゃしゃり出て面白くないチュウは怒鳴り散らす。
「はぁ、グルメハンターだぁ?審判?そんなもの奴のような営業妨害を平気でするような外道が毒入りを食わすだけだ!死にたくなければすっこんでな!」
「ふん、外道で結構だ。観衆も集まった事だし、俺はかまわんぞ?」
「な!」
「O,K,兄さんの方が肝が据わってるな、因みに毒云々は大丈夫だ。コイツが毒入りや不味い料理を口にすると、『ヘルゴニア』になって料理人を半殺しにするだけだ。それに、あんたらの流儀にそって、調理中でも妨害有りでどうだ?」
「フリッツ…嫌な紹介をするなよ…。」
珍妙なやり取りをする三人組だが、観衆が集まる中、後には引けなくなったチュウは舌打ちしながら、
「チッ!しょうがないねぇ、受けてやるよ。ただし、アタシが勝ったら、貴様の首を貰う。」
「良いだろう。だが、俺が勝てば…お前の首などどうでもいい、お前の所有するガイノイドを貰う。」
「やはり“ソレ”が目的か。…まぁ、いい、なら今すぐ勝負だ。」
いつの間にやら、チュウの側にも屋外用の調理器具が並び、大鍋にお湯がグラグラ煮立っていた。
「それでは両者、制限時間は一時間。調理を開始しなさい。」
ゴウゥゥゥゥゥン……ガゴッガッグギャ……
小柄な少女が似つかわしくない巨大なハンマーで銅鑼を打つ…台座ごと吹っ飛んでいったが…ともかく、勝負は始まったのである。 (第三話後編に続く)
そして現在、覇道財閥は実質この街を支配しているのだが、過激な料理人が跋扈するという現状に頭を痛める結果になってもいる。
「お嬢様、こちらが昨日の料理人同士の諍いによる被害報告でございます。」
「ふう、毎日よくやるわね、まったく。何の為に大十字さんにお爺様の『レモンパイン』の店長をまかせているのか…。」
「失礼ながらお嬢様、大十字様は良くやっているとは思います。『調理指南書(レシピ)』の入手に成功し、修行期間無しにも関わらず、『ブラックリッチ』グループの『メタルバー デストロイ』の出店阻止を何度も成功させています。」
「それはわかっています!しかし、いくらあの生意気なレシピ娘『アル・味フ』が優秀でも、敵は『アンナクロース』まで出て来ているのですよ。」
「確かに大十字様は『魔調理士(コック)』としては未だ未熟。アンナクロースは各店舗に鳥料理、海鮮料理、日本料理等の専門店長を配置しております。大十字様の技術の向上は急務かと…。」
コンコン
話の途中で執務室の扉がノックされる。
「失礼します、お嬢様。ツェ・イーター様がお嬢様に面会を希望されております。」
「…ツェ・イーター氏が?…分かりました稲田、客間にお通ししなさい。すぐに参ります。」
「分かりましたお嬢様。」
扉が閉じられる。
「ツェ・イーター様といえば、大旦那様の旧知のお方でしたね。このアーカムシティーの発展に幾つか関わっているという。」
「ええ、それだけに無碍には扱えないのですけども…。」
「とにかく、客間に参りましょう。」
「そうですね。」
そして、執務室から出て移動する覇道瑠璃とウインフィールド。客間には既に、ツェ・イーターが待っていた。
「やぁやぁ、お嬢様、あいかわらずお美しい。」
「お世辞はいりません。用件は何ですか?」
「はは、これは失礼。実は…以前から依頼されておりました計画とその人員についてまとまりましたので報告に。これで、『レモンパイン』は『ブラックリッチ』に専念できる…かと。」
「それは、大旦那様からの計画ですか?」
「その通り。鋼造氏は今の現状を予見しておりましてな。その為に私にこの計画を託していたのです。」
報告書をめくりながら覇道瑠璃は口を開く。
「分かりました、ツェ・イーターさん。この計画、覇道が責任をもって実行します。ご苦労でした。」
「いえ、では私は失礼します。…おぉ、そうだ、そちらの店長、もしなんでしたら、私の知り合いに師事されては?まぁ、気難しい男ですが腕は一流です。」
「そちらも、分かりました。その時はこちらから連絡を差し上げます。」
恭しく一礼をするとツェは部屋を出て行く。
「ウインフィールド、この計画をなるべく優先して実行して下さい。方法は任せます。」
「畏まりまして御座います。」
一方、アーカムシティーの繁華街の一画、『星雲飯店 アーカム四号店』に一台の屋台がたどたどしいチャルメラの音と共に近づく。
チャラ ラ~~ラ、ラ…チャラ チャララ…ラ~♪
そして、店の入り口近くに止めると、『設営術』で軽やかに開店準備を始める。
開店準備が完了し、いざ開店となる所に鋭い声がかかる。
「其処までだ!コン・タオロー!」
店の入り口から出てきたのは『老麺太后』チュウ・シャオヤンであった。
「ジャンの店を潰したのは貴様だね?アタシはまどろっこしいマネは嫌いでねぇ…今すぐ『喰わせもん』で勝負だ!」
「ふん、手間が省けたな。俺はかまわんぞ。」
「その勝負、待った!」
観衆が集まり、期待が高まる中、唐突に割ってはいる声。それは、先日からこの街に入ってきた『美食(グルメ)ハンター』の三人組であった。
「まぁ、二人とも待ちな。星雲飯店の喰わせもんの噂は知ってるんだが、何でも最近は毒入りって言うじゃないか?」
「だから、私たちが美食(グルメ)ハンターの名において、公平に審判をする、と言うのはどうかしら?」
イキナリ部外者がしゃしゃり出て面白くないチュウは怒鳴り散らす。
「はぁ、グルメハンターだぁ?審判?そんなもの奴のような営業妨害を平気でするような外道が毒入りを食わすだけだ!死にたくなければすっこんでな!」
「ふん、外道で結構だ。観衆も集まった事だし、俺はかまわんぞ?」
「な!」
「O,K,兄さんの方が肝が据わってるな、因みに毒云々は大丈夫だ。コイツが毒入りや不味い料理を口にすると、『ヘルゴニア』になって料理人を半殺しにするだけだ。それに、あんたらの流儀にそって、調理中でも妨害有りでどうだ?」
「フリッツ…嫌な紹介をするなよ…。」
珍妙なやり取りをする三人組だが、観衆が集まる中、後には引けなくなったチュウは舌打ちしながら、
「チッ!しょうがないねぇ、受けてやるよ。ただし、アタシが勝ったら、貴様の首を貰う。」
「良いだろう。だが、俺が勝てば…お前の首などどうでもいい、お前の所有するガイノイドを貰う。」
「やはり“ソレ”が目的か。…まぁ、いい、なら今すぐ勝負だ。」
いつの間にやら、チュウの側にも屋外用の調理器具が並び、大鍋にお湯がグラグラ煮立っていた。
「それでは両者、制限時間は一時間。調理を開始しなさい。」
ゴウゥゥゥゥゥン……ガゴッガッグギャ……
小柄な少女が似つかわしくない巨大なハンマーで銅鑼を打つ…台座ごと吹っ飛んでいったが…ともかく、勝負は始まったのである。 (第三話後編に続く)
SS『鬼哭麺』第三話 「老麺太后」前編
『上海食品公司』表向きは高級食材、厨房機器を中心に扱う総合商社。しかし裏では、代替食品(人工イクラや、カニかまぼこ等)開発や、サイバネ料理人の調理器具内臓型サイバーアーム等をも扱っている。『高級中華を安価で提供』を掲げる青雲飯店を裏で支えるといってもよい複合商社である。
アーカムシティーの一角、高層ビルが立ち並ぶ商社地区の中に『上海食品公司アーカム支社』もある。その最上階に位置する社長室に4人の青雲飯店店主が揃い踏みしていた。
「『炒飯六臂』がやられた。しかも屋台相手に営業妨害に腹を立て、『喰わせもん』を挑んで負けたそうだ。」
『喰わせもん』青雲飯店で料理人同士のトラブルがあった場合に使われる解決法。互いに得意料理を“無理にでも相手に食べさせ、味で納得させる”。「勝敗は当人同士のプライド。…というのは昔の話。実の所、現在ではサイバネ料理人の多くは“毒入り料理”で相手を倒す事が多い危険な勝負法。
「おい!喰わせもんは、ジャンの奴の得意とする所だろう?どう言う事なんだよ!」
「落ち着け、チュウ。観衆の見た所では、ジャンの炒飯はまったく喰わせられず、相手の麺を一口喰わせられただけで電撃に撃たれたように崩れたそうだ。…後で調べた所、実際に電子回路や部品が焼き切れていたそうだ…。」
「待て、…麺一口でそんな芸当が出来るのは…。」
「ああ、『百麺手』のビンの言う通り…コン・タオローが帰ってきた…と、見て間違いあるまい。」
「コンの野郎はリュウ!あんたが一年前に殺したはずだろう?」
チュウ・シャオヤンの怒声に首を竦めながらあっさりと答える。
「この私も人間だ。仕損じた…という事だろう。それよりも、プライドを尊ぶ内家料理人のコン・タオローが、何の躊躇も無く、営業妨害もどきの屋台や、相手を殺すほどの電撃を纏わせた紫電麺とは…奴は『麺鬼』と化した…と見てよいだろうよ…。」
「はっ!くだらないねぇ、速度と味はともかく盛り付けは二流だったジャンが負けようがどうでもいいが、外家料理人がなめられたのは、気に入らない!うちに来たら奴を肉麺にしてやるさ!」
クルリと踵を返すと、チュウはそのまま部屋を出て行く。
「兎も角、警戒するに越したことは無い。私も奴らを呼び寄せる事としよう。では、失礼する。」
ビン・ワイソンも立ち去り、上海食品公司の社長兼三号店店長『網絡調理』ン・ウィンシンは隣のリュウ・ホージュンに訊ねる。
「たかが死にぞこないの料理人一人に大げさなこったな。そこまで凄いもんなのか?」
「料理人ではないお前には分からんのも無理は無いが、外家のサイバネ料理人が、“内家のただの生身の料理人に屈した”という事実が許せないのさ。」
「はっ、俺には分からんね。わが社の低コストの代替食品に全自動化された調理器具が有れば素人だって出店できるぜ?」
「…まぁ、期待している。では、俺も失礼する。」
上海食品公司のビルの最上階でこのような密談が行われている事を知らずに、今日もアーカムシティーの繁華街は賑わっていた。
そんな賑わいの中、少々不釣合いな一台の軍用車“ハマー”が止まる。中からこれまた、統一性の無い三人組が出てくる。一人は大男、一人は喪服の少女、そしてもう一人は学生と見て取れる男。
「ようやく着いたぜ。で、本当にこの街に連中がいるんだろうなぁ。」
「それは間違いないと思うわ。リァノーンに噛まれた惣太もここだと言っているし。」
「夢の話だぞ。だとしてもだ、本当に『美食の女王』リァノーンを滅ぼせば、俺はグルメヴァンプ(給食鬼)化せずに元の体に戻れるんだろうなぁ。」
「ええ、まだ完全に給食鬼化していない今のうちなら大丈夫…とは言っても時間に余裕があるわけでもないけど。」
「そうか、…それはいいけど、腹減ったなぁ…。」
「おい惣太、こんな繁華街でヘルゴニアになるなよ!食い散らかして弁償するのは俺たちなんだからなぁ。」
「分かってるさ、フリッツ。…だから、先ずは腹ごしらえしないか?」
「まぁ、しょうがないわね。それに、『美食倶楽部 イノヴェルチ』の情報を得るついでに、『美食(グルメ)ハンター』の仕事もしておきたいし。」
『美食(グルメ)ハンター』美味い店を探し出し、記事をグルメ雑誌等に売り込む者達。自らの舌を絶対とし、短時間での店の梯子をも厭わない強靭な精神と肉体と“胃”を持つものだけに許された職業である。
「分かったよモーラ。で、先ずはどこの店から始める?」
「ここは食の街よ、ハズレは無いと思うけど、…じゃあ、あの店から行きましょうか。」
三人組は手近な店へと消えていく。ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食を求める、あらゆる人種をも受け入れる街…。 (第三話中編に続く)
アーカムシティーの一角、高層ビルが立ち並ぶ商社地区の中に『上海食品公司アーカム支社』もある。その最上階に位置する社長室に4人の青雲飯店店主が揃い踏みしていた。
「『炒飯六臂』がやられた。しかも屋台相手に営業妨害に腹を立て、『喰わせもん』を挑んで負けたそうだ。」
『喰わせもん』青雲飯店で料理人同士のトラブルがあった場合に使われる解決法。互いに得意料理を“無理にでも相手に食べさせ、味で納得させる”。「勝敗は当人同士のプライド。…というのは昔の話。実の所、現在ではサイバネ料理人の多くは“毒入り料理”で相手を倒す事が多い危険な勝負法。
「おい!喰わせもんは、ジャンの奴の得意とする所だろう?どう言う事なんだよ!」
「落ち着け、チュウ。観衆の見た所では、ジャンの炒飯はまったく喰わせられず、相手の麺を一口喰わせられただけで電撃に撃たれたように崩れたそうだ。…後で調べた所、実際に電子回路や部品が焼き切れていたそうだ…。」
「待て、…麺一口でそんな芸当が出来るのは…。」
「ああ、『百麺手』のビンの言う通り…コン・タオローが帰ってきた…と、見て間違いあるまい。」
「コンの野郎はリュウ!あんたが一年前に殺したはずだろう?」
チュウ・シャオヤンの怒声に首を竦めながらあっさりと答える。
「この私も人間だ。仕損じた…という事だろう。それよりも、プライドを尊ぶ内家料理人のコン・タオローが、何の躊躇も無く、営業妨害もどきの屋台や、相手を殺すほどの電撃を纏わせた紫電麺とは…奴は『麺鬼』と化した…と見てよいだろうよ…。」
「はっ!くだらないねぇ、速度と味はともかく盛り付けは二流だったジャンが負けようがどうでもいいが、外家料理人がなめられたのは、気に入らない!うちに来たら奴を肉麺にしてやるさ!」
クルリと踵を返すと、チュウはそのまま部屋を出て行く。
「兎も角、警戒するに越したことは無い。私も奴らを呼び寄せる事としよう。では、失礼する。」
ビン・ワイソンも立ち去り、上海食品公司の社長兼三号店店長『網絡調理』ン・ウィンシンは隣のリュウ・ホージュンに訊ねる。
「たかが死にぞこないの料理人一人に大げさなこったな。そこまで凄いもんなのか?」
「料理人ではないお前には分からんのも無理は無いが、外家のサイバネ料理人が、“内家のただの生身の料理人に屈した”という事実が許せないのさ。」
「はっ、俺には分からんね。わが社の低コストの代替食品に全自動化された調理器具が有れば素人だって出店できるぜ?」
「…まぁ、期待している。では、俺も失礼する。」
上海食品公司のビルの最上階でこのような密談が行われている事を知らずに、今日もアーカムシティーの繁華街は賑わっていた。
そんな賑わいの中、少々不釣合いな一台の軍用車“ハマー”が止まる。中からこれまた、統一性の無い三人組が出てくる。一人は大男、一人は喪服の少女、そしてもう一人は学生と見て取れる男。
「ようやく着いたぜ。で、本当にこの街に連中がいるんだろうなぁ。」
「それは間違いないと思うわ。リァノーンに噛まれた惣太もここだと言っているし。」
「夢の話だぞ。だとしてもだ、本当に『美食の女王』リァノーンを滅ぼせば、俺はグルメヴァンプ(給食鬼)化せずに元の体に戻れるんだろうなぁ。」
「ええ、まだ完全に給食鬼化していない今のうちなら大丈夫…とは言っても時間に余裕があるわけでもないけど。」
「そうか、…それはいいけど、腹減ったなぁ…。」
「おい惣太、こんな繁華街でヘルゴニアになるなよ!食い散らかして弁償するのは俺たちなんだからなぁ。」
「分かってるさ、フリッツ。…だから、先ずは腹ごしらえしないか?」
「まぁ、しょうがないわね。それに、『美食倶楽部 イノヴェルチ』の情報を得るついでに、『美食(グルメ)ハンター』の仕事もしておきたいし。」
『美食(グルメ)ハンター』美味い店を探し出し、記事をグルメ雑誌等に売り込む者達。自らの舌を絶対とし、短時間での店の梯子をも厭わない強靭な精神と肉体と“胃”を持つものだけに許された職業である。
「分かったよモーラ。で、先ずはどこの店から始める?」
「ここは食の街よ、ハズレは無いと思うけど、…じゃあ、あの店から行きましょうか。」
三人組は手近な店へと消えていく。ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食を求める、あらゆる人種をも受け入れる街…。 (第三話中編に続く)
SS『鬼哭麺 外伝』第一話 「天使のパン屋」
「ありがとうございましたー。」
アーカムシティーに朝がくる。繁華街から少し離れた場所に立つ店、『エンジェル ブレッド』の扉が開き、焼きたてのパンの匂いと共に二人の女性客が出てくる。
「ねぇねぇ、小巻ちゃん、今の店員さんってば、面白かったよねぇ~。顔真っ赤にして『あ、あの、お客さん達かわいいから、サ、サービスして置きます』だってぇ~。」
「もう、風子ったら…、店員さん、新人さんっぽいし、からかったら駄目じゃない。」
「だぁって~、でもあれさ、小巻ちゃんに気があるのかもよ~にしし。」
ちょっといやらしい目つきで小巻を見ながら笑う風子をふわりとかわしながら
「馬鹿な事言ってないで、早く帰って朝ご飯にしましょ。」
「そう!それ、な~んで、あのクソ親父、『今日は飯が無いのか。なら仕方ないパンでも食うか。小巻、風子買って来い!』って、いつもなら『日本人の朝飯は米に決まっとる!』って、この街だから手に入るようなものの、何だろねあの態度。」
「まぁ、きょうはさっちゃん寝坊したみたいだし、きっと昨日のお客さんが帰るまで起きてて、片付けまでやってたからだろうけど…。」
「そういえば、なんか変わった人だったよねぇ、誰?」
「さぁ…、さっちゃんから聞いた話だと、昔、半年ぐらい父さんの下で修行をしに青雲飯店からきた…名前は…コン・タオローさんだったかな。」
「ってなんで、中華料理の人が寿司職人の所に修行にくるのよ?」
「出稽古ってやつじゃない?久しぶりに会ったらしくて父さん強引に家に連れて来たみたい。」
ふぅん、とあまり興味なさそうに聞きながら思い出したように
「で、さっちゃんは?」
「さぁ、…多分、クソ親父と“儀式中”…。」
小巻は憮然と言いながら顔が曇っていく。
“儀式”二人の父、渡部一斉が女の陰部に愛用の包丁の峯を擦り付ける一種のまじない。当然二人の娘にとって嫌悪の対象ではある。
「あのクソ親父はぁ!ったく、いくら腕が良いたって、なんであんなのおいとくかなぁ『寿司 安藤』は!オマケに、若頭のジェイはいけ好かないし、オカマの新沼やウドの大木のビック・サム、って絶対潰れてもおかしくないんだけどなぁ…。」
グウゥゥ…
力んだ風子のお腹が盛大に鳴り響く。
「ぷっ!くくく…、さぁ、ともかく、帰って、朝ご飯にしよう?」
「そうだね、私お腹ぺこぺこだよぉ。」
家路に急ぐ二人。そう、朝は必ずやってくるのだと信じて…。
さて、二人が出て行った『エンジェル ブレッド』でも一騒動起きていた。
「ちょっとヴィム!さっきの接客はなによ!ちょっとかわいいからって鼻の下伸ばしてみっともない!」
怒るアンリに、何故怒っているかわからない。と、いった感じでヴィムが答える。
「いや、昨日ペーターがやっていたのを真似たんだが…。」
「ペーター!!あんた何やってるのよ!仮にも店長なんでしょうが!!」
ついに店の奥に向かって怒鳴るアンリ。奥から焼きたてのパンを持ってきながら、当のペーターは悪びれもせず。
「なんだぁ、ヴィムが客を口説いただぁ、やるじゃないか。今度来たら紹介しろよ。」
カランカラン♪
今一度、怒鳴るところだったアンリを止めたのは扉に取り付けたベルが軽やかに鳴ったからであった。
「いらっしゃいま…あぁっ!あんたは…!」
「そうか…お前さん、店を出したと聞いていたがここだったか。」
「ええ、そうなんです。あの時はお世話になりました。」
「いや、俺は何もしていないさ。お前さんの努力あってのものだ。」
「いやそんな…。あっ、そうだ、こいつはうちの最新作なんです。試して下さい。」
「そうか、…では、貰うとするか。」
男は焼きたてのパンの香りを楽しみながら、一切れを口に入れる。
「うむ、厳選した小麦の風味を生かした味だ。腕を上げたな。」
そうして、男はペーターと言葉を交わしながら、幾つかのパンを買い求め店を出て行く。
数々の疑問に対し最初に質問をしたのはアンリだった。
「さっきの男は誰よ?随分親しいみたいだったけど。」
「あぁ、あれは…青雲飯店で一、二を争う腕を持つと言われたコン・タオローさんだよ。昔、俺が修行時代にダチが辞めちまった、って落ち込んでスランプだった時に、偶然知り合ってな。小麦の目利きや、アドバイスを色々してくれたんだ。ま、もっとも今は屋台を引いているって言ってたが。」
「は、屋台って、青雲飯店といえば有名店だ。そんな人物が何故?」
「復讐…。だとよ。くくっ、こいつはこれから面白くなりそうだぜ。」
復讐と言う物騒な言葉とは思えぬ軽い口調でペーターは言う。二人は複雑な表情で見守るしかなかった。
ここは、アーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』。愛憎渦巻くこの街に、人は今日も生きていく。 (外伝第一話 了。)
あ゛~、妄想が止まらない~(ぉ いっそ、今月は鬼哭麺月間にしてやろうか~(ぉぃぉぃ
アーカムシティーに朝がくる。繁華街から少し離れた場所に立つ店、『エンジェル ブレッド』の扉が開き、焼きたてのパンの匂いと共に二人の女性客が出てくる。
「ねぇねぇ、小巻ちゃん、今の店員さんってば、面白かったよねぇ~。顔真っ赤にして『あ、あの、お客さん達かわいいから、サ、サービスして置きます』だってぇ~。」
「もう、風子ったら…、店員さん、新人さんっぽいし、からかったら駄目じゃない。」
「だぁって~、でもあれさ、小巻ちゃんに気があるのかもよ~にしし。」
ちょっといやらしい目つきで小巻を見ながら笑う風子をふわりとかわしながら
「馬鹿な事言ってないで、早く帰って朝ご飯にしましょ。」
「そう!それ、な~んで、あのクソ親父、『今日は飯が無いのか。なら仕方ないパンでも食うか。小巻、風子買って来い!』って、いつもなら『日本人の朝飯は米に決まっとる!』って、この街だから手に入るようなものの、何だろねあの態度。」
「まぁ、きょうはさっちゃん寝坊したみたいだし、きっと昨日のお客さんが帰るまで起きてて、片付けまでやってたからだろうけど…。」
「そういえば、なんか変わった人だったよねぇ、誰?」
「さぁ…、さっちゃんから聞いた話だと、昔、半年ぐらい父さんの下で修行をしに青雲飯店からきた…名前は…コン・タオローさんだったかな。」
「ってなんで、中華料理の人が寿司職人の所に修行にくるのよ?」
「出稽古ってやつじゃない?久しぶりに会ったらしくて父さん強引に家に連れて来たみたい。」
ふぅん、とあまり興味なさそうに聞きながら思い出したように
「で、さっちゃんは?」
「さぁ、…多分、クソ親父と“儀式中”…。」
小巻は憮然と言いながら顔が曇っていく。
“儀式”二人の父、渡部一斉が女の陰部に愛用の包丁の峯を擦り付ける一種のまじない。当然二人の娘にとって嫌悪の対象ではある。
「あのクソ親父はぁ!ったく、いくら腕が良いたって、なんであんなのおいとくかなぁ『寿司 安藤』は!オマケに、若頭のジェイはいけ好かないし、オカマの新沼やウドの大木のビック・サム、って絶対潰れてもおかしくないんだけどなぁ…。」
グウゥゥ…
力んだ風子のお腹が盛大に鳴り響く。
「ぷっ!くくく…、さぁ、ともかく、帰って、朝ご飯にしよう?」
「そうだね、私お腹ぺこぺこだよぉ。」
家路に急ぐ二人。そう、朝は必ずやってくるのだと信じて…。
さて、二人が出て行った『エンジェル ブレッド』でも一騒動起きていた。
「ちょっとヴィム!さっきの接客はなによ!ちょっとかわいいからって鼻の下伸ばしてみっともない!」
怒るアンリに、何故怒っているかわからない。と、いった感じでヴィムが答える。
「いや、昨日ペーターがやっていたのを真似たんだが…。」
「ペーター!!あんた何やってるのよ!仮にも店長なんでしょうが!!」
ついに店の奥に向かって怒鳴るアンリ。奥から焼きたてのパンを持ってきながら、当のペーターは悪びれもせず。
「なんだぁ、ヴィムが客を口説いただぁ、やるじゃないか。今度来たら紹介しろよ。」
カランカラン♪
今一度、怒鳴るところだったアンリを止めたのは扉に取り付けたベルが軽やかに鳴ったからであった。
「いらっしゃいま…あぁっ!あんたは…!」
「そうか…お前さん、店を出したと聞いていたがここだったか。」
「ええ、そうなんです。あの時はお世話になりました。」
「いや、俺は何もしていないさ。お前さんの努力あってのものだ。」
「いやそんな…。あっ、そうだ、こいつはうちの最新作なんです。試して下さい。」
「そうか、…では、貰うとするか。」
男は焼きたてのパンの香りを楽しみながら、一切れを口に入れる。
「うむ、厳選した小麦の風味を生かした味だ。腕を上げたな。」
そうして、男はペーターと言葉を交わしながら、幾つかのパンを買い求め店を出て行く。
数々の疑問に対し最初に質問をしたのはアンリだった。
「さっきの男は誰よ?随分親しいみたいだったけど。」
「あぁ、あれは…青雲飯店で一、二を争う腕を持つと言われたコン・タオローさんだよ。昔、俺が修行時代にダチが辞めちまった、って落ち込んでスランプだった時に、偶然知り合ってな。小麦の目利きや、アドバイスを色々してくれたんだ。ま、もっとも今は屋台を引いているって言ってたが。」
「は、屋台って、青雲飯店といえば有名店だ。そんな人物が何故?」
「復讐…。だとよ。くくっ、こいつはこれから面白くなりそうだぜ。」
復讐と言う物騒な言葉とは思えぬ軽い口調でペーターは言う。二人は複雑な表情で見守るしかなかった。
ここは、アーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』。愛憎渦巻くこの街に、人は今日も生きていく。 (外伝第一話 了。)
あ゛~、妄想が止まらない~(ぉ いっそ、今月は鬼哭麺月間にしてやろうか~(ぉぃぉぃ
SS『鬼哭麺』 第二話「茶道甘史」
アーカムシティーの中心地、アーカム中央駅近くの裏路地を入った先にその店、和風漫画喫茶「茶道甘史」はある。人の入らぬ裏通りにある漫画喫茶とは不可解だが、一歩店内に入るとさらに不可解だった。
店内は怪しげな和風に整えられ、中には畳敷きのBOX席まである。その店の店主、ツェ・イーターはアーカムシティーの不動産業や食材の卸などに裏から手を出せる稀有な存在でもある。それ故この店自体はツェの交渉場所であり、趣味で経営していると言ってもよかった。
(カランカラン)
入り口につけられたベルがけだるそうに鳴ると、ツェはカウンターの椅子から立ち上がる事もせずに客に声をかける。
「いらっしゃい、…おや、タオロー君かね。」
「奥のBOX席は空いているか?」
「ああ、空いているが…、なんだい稼いでいるんだろう?ホテルにでも泊まったらどうだい。そこのルイリーの為にも。」
タオローは鋭い眼差しでツェを睨みながら、
「ふん、確かに売り上げは良いがな…貴様から仕入れる食材、随分ピンハネしているようだな!」
「い、いや、しかし、青雲飯店に知られないように、食材の調達、仕込み厨房の用意、屋台の保管等と、骨が折れるのだぞ?」
「確かにそれは感謝しているが…やり過ぎは貴様の命を縮めるぞ。」
タオローの気迫にツェは思わず身震いする。この男は本気で自分を殺しかねない。
「わ、わかった、確かに幾らか手間代を入れていたのは認める。これからは減らす…。」
ギンッとタオローの目に鋭さが増す。
「い、いや、取らない、手間代は取らない。これで良いだろう?」
「…ふん、初めからそうしていればいいのだ。」
「…儲けにならんなぁ…。ああ、そうだ、ルイリーの魂魄転写は上手くいっただろう?」
「あぁ…、確かに貴様が言った事は本当らしい。だが、本当にルイリーが“戴天流調理法”秘伝のスープのレシピを知っているのか?」
「そう言っていたよ、かの『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュンはな。君がマカオの新支店立ち上げに派遣され、途中で資金を現地の悪徳業者に持ち逃げされ…、まぁ、これは裏で青雲飯店、つまりホージュンが糸を引いておった訳だが。
そして、君はホージュンに殺され…表向きは、責任を感じて自殺と言う事になっておったかな。
…そして、兄を失い、悲しみに暮れたルイリーはホージュンにスープのレシピ問われても、一切喋ろうとしなかったばかりに、陵辱の果てに惨殺され、その魂は全て魂魄転写で量子化、挙句五分割され、五人の店主に送られた…と、言う訳だ。」
ツェは大仰なポーズで説明する。
「良く知っているな貴様…。まさか貴様も片棒を担いでいたわけか?」
「わ、私は、脅されてだなぁ…しょうがなく…だからこそ、瀕死の君を助けるよう手配したり、そこのガイノイドに魂魄の統合プログラムを入れて…しかも、持ち運びに便利な幼生型…いや、君の趣味に合わせたのだよ?何たって君は『シスコン』で『ロリコン』だからな…ぁあっ!」
タオローは無言で懐から愛用の和包丁を取り出すとツェの喉もとに突きつける。
「……。」
「冗談だ!冗談!もう言わないからソレをしまってくれたまえ!」
「ふん、くだらぬ事は言わない方が身の為だぞ…。」
ようやく身の危険が去ったツェは大きな溜息をつきながら、
「それで、タオロー君…奥で休むのはいいが、私も商売でね。何か注文を…二人分。」
「ふん、ならウーロン茶を二つだ。」
「やれやれ、君も大概せこ…いやいや、堅実だなぁ…。」
奥のBOX席に消えていく二人(?)を見ながらツェは思いを廻らす。これで又、商売の種は蒔かれた。後はどんな実をつけるか楽しみだと…。
ここは、アーカムシティー、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』。様々な想いを包み今日も夜が更けていく…。 (第二話了。)
ヤバイ…書いてる内に脳内設定が広がってしまった…(汗 この話、長丁場になりそうだ…。
店内は怪しげな和風に整えられ、中には畳敷きのBOX席まである。その店の店主、ツェ・イーターはアーカムシティーの不動産業や食材の卸などに裏から手を出せる稀有な存在でもある。それ故この店自体はツェの交渉場所であり、趣味で経営していると言ってもよかった。
(カランカラン)
入り口につけられたベルがけだるそうに鳴ると、ツェはカウンターの椅子から立ち上がる事もせずに客に声をかける。
「いらっしゃい、…おや、タオロー君かね。」
「奥のBOX席は空いているか?」
「ああ、空いているが…、なんだい稼いでいるんだろう?ホテルにでも泊まったらどうだい。そこのルイリーの為にも。」
タオローは鋭い眼差しでツェを睨みながら、
「ふん、確かに売り上げは良いがな…貴様から仕入れる食材、随分ピンハネしているようだな!」
「い、いや、しかし、青雲飯店に知られないように、食材の調達、仕込み厨房の用意、屋台の保管等と、骨が折れるのだぞ?」
「確かにそれは感謝しているが…やり過ぎは貴様の命を縮めるぞ。」
タオローの気迫にツェは思わず身震いする。この男は本気で自分を殺しかねない。
「わ、わかった、確かに幾らか手間代を入れていたのは認める。これからは減らす…。」
ギンッとタオローの目に鋭さが増す。
「い、いや、取らない、手間代は取らない。これで良いだろう?」
「…ふん、初めからそうしていればいいのだ。」
「…儲けにならんなぁ…。ああ、そうだ、ルイリーの魂魄転写は上手くいっただろう?」
「あぁ…、確かに貴様が言った事は本当らしい。だが、本当にルイリーが“戴天流調理法”秘伝のスープのレシピを知っているのか?」
「そう言っていたよ、かの『鬼眼冷麺』リュウ・ホージュンはな。君がマカオの新支店立ち上げに派遣され、途中で資金を現地の悪徳業者に持ち逃げされ…、まぁ、これは裏で青雲飯店、つまりホージュンが糸を引いておった訳だが。
そして、君はホージュンに殺され…表向きは、責任を感じて自殺と言う事になっておったかな。
…そして、兄を失い、悲しみに暮れたルイリーはホージュンにスープのレシピ問われても、一切喋ろうとしなかったばかりに、陵辱の果てに惨殺され、その魂は全て魂魄転写で量子化、挙句五分割され、五人の店主に送られた…と、言う訳だ。」
ツェは大仰なポーズで説明する。
「良く知っているな貴様…。まさか貴様も片棒を担いでいたわけか?」
「わ、私は、脅されてだなぁ…しょうがなく…だからこそ、瀕死の君を助けるよう手配したり、そこのガイノイドに魂魄の統合プログラムを入れて…しかも、持ち運びに便利な幼生型…いや、君の趣味に合わせたのだよ?何たって君は『シスコン』で『ロリコン』だからな…ぁあっ!」
タオローは無言で懐から愛用の和包丁を取り出すとツェの喉もとに突きつける。
「……。」
「冗談だ!冗談!もう言わないからソレをしまってくれたまえ!」
「ふん、くだらぬ事は言わない方が身の為だぞ…。」
ようやく身の危険が去ったツェは大きな溜息をつきながら、
「それで、タオロー君…奥で休むのはいいが、私も商売でね。何か注文を…二人分。」
「ふん、ならウーロン茶を二つだ。」
「やれやれ、君も大概せこ…いやいや、堅実だなぁ…。」
奥のBOX席に消えていく二人(?)を見ながらツェは思いを廻らす。これで又、商売の種は蒔かれた。後はどんな実をつけるか楽しみだと…。
ここは、アーカムシティー、『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』。様々な想いを包み今日も夜が更けていく…。 (第二話了。)
ヤバイ…書いてる内に脳内設定が広がってしまった…(汗 この話、長丁場になりそうだ…。
SS:『鬼哭麺』第一話 「紫電麺」後編
ビュッ!ビュッ!
タオローの持つ麺かごが一振り、それだけで湯切りは終わっていた。
「お待ち…。」
「むっ!早いな…、手を抜いて無いだろうな。」
「客を待たせないのも料理人の腕だ。それよりも、麺が伸びる前に食ってみろ小僧。」
「あ、あぁ…。」
小僧、小僧と呼ばれるのは癪だが実際、腹が減っていたツヴァイは割り箸を取る。すでにアインは箸をつけていた。
(…スープはコクがあるのにすっきりしてなかなかね、それよりこの麺。喉越し、歯ごたえ、小麦の風味豊かな、素材に負けない腕があってこその逸品ね。何より、痺れるような快感、これがマスターの言っていた内家の技なのね。)
アインは事前に彼女の師、サイス・マスターに店主が一時期、青雲飯店に名を馳せていたコン・タオローであると聞いていた。だがそれを知らない、いや、それ以前に、インフェルノ・バーガーで働く前の記憶を持たないツヴァイは(記憶喪失で開店前の店先に倒れていたと言うが…)、麺を啜るのに全力になっていた。
そして、あっというまに平らげると…。
「う、う、美味いぞーーーー!!このスープのコクと味わいはどうだ!これは鶏がら、鶏がらに煮干しだな?しかし臭みが一切無い!…そうか!野菜とともにハーブを入れたな? 何より麺!麺の美味さが素晴らしい!小麦の美味さを最大限生かした熟成麺!しかも細い縮れ麺がスープによく絡む!しかもだ!後味が今も痺れるように残っている!」
どんぶりから、スープの洪水が溢れ出し、麺がツヴァイを拘束すr…なんて事は無かったが…、
がしっ!
「に、兄さん!美味かった。美味かったよ。前言撤回だ。兄さんは最高だよ!」
「まいど…。兄さんの食いっぷりもなかなかだ、料理人冥利に尽きるってもんだ。」
「店主、あなたなら“あの”店を潰すのに四週間とかからないでしょうね。」
「どうも、…やはりあの男、サイスとか言ったか、の弟子達だったか。まぁ聞いてはいたが良い舌も持っているようだな。」
「ありがとう、でも本当に“気”を練りこんで、麺に極々微弱な電流を帯電させるなんて技があるのも驚きだけど。」
「中華料理は、いや…内家の技は深遠だ。ククッ。」
「ふふっ。」
二人は珍しく微笑んでいた。何かを捨てた暗い微笑みではあったが…。
三週間後、『青雲飯店 アーカム五号店』は閉店した。うわさでは給仕用ガイノイド一体が見付からなかったらしい。
余談だが、ツヴァイはその月の給料日前、塩ごはんの生活が続いたと言う…合掌。
手には麺かご、仇は五店。我はこの一杯に賭ける修羅となる!
今日も、夜のアーカムシティーにチャルメラが力なく響く。 ぱ~ぷ~
タオローの持つ麺かごが一振り、それだけで湯切りは終わっていた。
「お待ち…。」
「むっ!早いな…、手を抜いて無いだろうな。」
「客を待たせないのも料理人の腕だ。それよりも、麺が伸びる前に食ってみろ小僧。」
「あ、あぁ…。」
小僧、小僧と呼ばれるのは癪だが実際、腹が減っていたツヴァイは割り箸を取る。すでにアインは箸をつけていた。
(…スープはコクがあるのにすっきりしてなかなかね、それよりこの麺。喉越し、歯ごたえ、小麦の風味豊かな、素材に負けない腕があってこその逸品ね。何より、痺れるような快感、これがマスターの言っていた内家の技なのね。)
アインは事前に彼女の師、サイス・マスターに店主が一時期、青雲飯店に名を馳せていたコン・タオローであると聞いていた。だがそれを知らない、いや、それ以前に、インフェルノ・バーガーで働く前の記憶を持たないツヴァイは(記憶喪失で開店前の店先に倒れていたと言うが…)、麺を啜るのに全力になっていた。
そして、あっというまに平らげると…。
「う、う、美味いぞーーーー!!このスープのコクと味わいはどうだ!これは鶏がら、鶏がらに煮干しだな?しかし臭みが一切無い!…そうか!野菜とともにハーブを入れたな? 何より麺!麺の美味さが素晴らしい!小麦の美味さを最大限生かした熟成麺!しかも細い縮れ麺がスープによく絡む!しかもだ!後味が今も痺れるように残っている!」
どんぶりから、スープの洪水が溢れ出し、麺がツヴァイを拘束すr…なんて事は無かったが…、
がしっ!
「に、兄さん!美味かった。美味かったよ。前言撤回だ。兄さんは最高だよ!」
「まいど…。兄さんの食いっぷりもなかなかだ、料理人冥利に尽きるってもんだ。」
「店主、あなたなら“あの”店を潰すのに四週間とかからないでしょうね。」
「どうも、…やはりあの男、サイスとか言ったか、の弟子達だったか。まぁ聞いてはいたが良い舌も持っているようだな。」
「ありがとう、でも本当に“気”を練りこんで、麺に極々微弱な電流を帯電させるなんて技があるのも驚きだけど。」
「中華料理は、いや…内家の技は深遠だ。ククッ。」
「ふふっ。」
二人は珍しく微笑んでいた。何かを捨てた暗い微笑みではあったが…。
三週間後、『青雲飯店 アーカム五号店』は閉店した。うわさでは給仕用ガイノイド一体が見付からなかったらしい。
余談だが、ツヴァイはその月の給料日前、塩ごはんの生活が続いたと言う…合掌。
手には麺かご、仇は五店。我はこの一杯に賭ける修羅となる!
今日も、夜のアーカムシティーにチャルメラが力なく響く。 ぱ~ぷ~
SS:『鬼哭麺』第一話 「紫電麺」前編
ザーー
アーカムシティーに雨が降る。
ザーー パ~プ~ ザーー
雨音に混じって似つかわしく無い音が混じっていた。やがてそれが安っぽいチャルメラを無感情に吹く少女と、ラーメン屋台を引く長身痩躯の男と分かる。
しかし、一瞥すると誰もがまた足早に家路へと急ぐ。ただ一人を除いて。
「ほぅ…。良い腕の料理人が珍しい…。」
彼はサイス・マスターと呼ばれていた。今、若者に人気のハンバーガーショップ『インフェルノバーガー アーカム店』の店長である。
彼の疑問はもっともだった。このアーカムシティーは今、
『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』
なのである。本当に腕の良い料理人ならば、高給で有名店に雇われ、屋台を引く事などありえないのである。
やがて、屋台は一軒の高級中華料理店の前で止まる。店の名は『青雲飯店 アーカム5号店』
雨はいつの間にかあがっていた。
「ここで勝負するのか。ふむ、面白い。…何?」
サイスが驚いたのは男の準備の早さだった。まるで軽業を見ているようだ。
「これは…中華の特級料理人の、しかも内家の料理人のみが持つ技『設営術』。中華はサイバネ外家料理人が跋扈する時代になっていると言うのに、これは期待が持てるな…。」
こうして、サイスは今晩の夕食をラーメンと決め、準備の整った屋台の暖簾をくぐる。暖簾にはこう染め抜いてあった。『紫電ラーメン』と…。
数日後、
「お先です!」
「失礼します…。」
ここは『インフェルノバーガー』の更衣室。今バイトの終わった二人が着替えをしている。そして少年がカーテンの向こうで着替えている少女に言う。
「なぁ、アイン。これから予定が無ければ飯でも食っていかないか?新人の俺に色々と専属で教えてくれた“ファントム”殿にお礼を兼ねてさ、バイト代も入ったし奢るぜ?」
「…そうね、行ってみたい屋台もあるから、ツヴァイがそれで良ければいいわよ。」
「はぁ?屋台?…まぁ、アインが行きたいならいいけど屋台でいいのか?たいした事無いと思うぜ。」
「行けば分かるわ。」
「ま、いいか。それじゃ行こうぜ、」
「ええ。」
ファントム。 それはインフェルノバーガーにおいて最高の売り上げを誇る者に授けられる称号。たとえバーガー単品の客でも巧みな“話術”と“スマイル”でスーパーセットに変える技を持つ。
アインと呼ばれる少女は店長サイス・マスター自ら教えた最高傑作にして、ファントムバーガーの名をアーカムシティーに轟かせた秘密でもある。
「あれか?しかしいい根性してるよな、あの屋台。天下の青雲飯店のまん前で営業かよ。よく店主が文句を言わないもんだ。」
「それだけ自信があるのでしょう?でも、その自信もいつまで持つかしら…。ツヴァイ、行きましょう。」
「あぁ、待ってくれよアイン。」
「…いらっしゃい…。」
(うわっ!辛気臭っ!大丈夫か?ここ。)
そう、ツヴァイが思っていると、早速アインは注文をしていた。
「…ニンニクラーメン、チャーシュー抜き。」
「まいど。で、そこの兄さんは何にする?」
「あ、あぁ、…って、何だよ!この値段は!唯のラーメンで二千円!?アインのニンニクラーメンが二千五百円!?」
「いやなら帰りな坊主、だが彼女は食べる気だぞ。…そうだな、俺のラーメン、不味かったら金はいらねぇ、ただにしてやるってのはどうだい?」
「よし!確かに聞いたぞ。じゃあ、俺はチャーシュー麺大盛り、三千二百円なり、だ!!」
「まいど…。」ニヤリ
(よし!美味くても不味いって言って、アインの分までただにしてやる。)
ツヴァイは気付かなかった、その店主が一時期、青雲飯店にその人有りと言われた『紫電麺』コン・タオローである事に…。
(後編に続く)
…あれ?続いちゃったよ(汗 ま、まぁ、あれですよ昔ニトロ掲示板上で書いたアレの完全版になれば…いいなぁ…。
アーカムシティーに雨が降る。
ザーー パ~プ~ ザーー
雨音に混じって似つかわしく無い音が混じっていた。やがてそれが安っぽいチャルメラを無感情に吹く少女と、ラーメン屋台を引く長身痩躯の男と分かる。
しかし、一瞥すると誰もがまた足早に家路へと急ぐ。ただ一人を除いて。
「ほぅ…。良い腕の料理人が珍しい…。」
彼はサイス・マスターと呼ばれていた。今、若者に人気のハンバーガーショップ『インフェルノバーガー アーカム店』の店長である。
彼の疑問はもっともだった。このアーカムシティーは今、
『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代。』
なのである。本当に腕の良い料理人ならば、高給で有名店に雇われ、屋台を引く事などありえないのである。
やがて、屋台は一軒の高級中華料理店の前で止まる。店の名は『青雲飯店 アーカム5号店』
雨はいつの間にかあがっていた。
「ここで勝負するのか。ふむ、面白い。…何?」
サイスが驚いたのは男の準備の早さだった。まるで軽業を見ているようだ。
「これは…中華の特級料理人の、しかも内家の料理人のみが持つ技『設営術』。中華はサイバネ外家料理人が跋扈する時代になっていると言うのに、これは期待が持てるな…。」
こうして、サイスは今晩の夕食をラーメンと決め、準備の整った屋台の暖簾をくぐる。暖簾にはこう染め抜いてあった。『紫電ラーメン』と…。
数日後、
「お先です!」
「失礼します…。」
ここは『インフェルノバーガー』の更衣室。今バイトの終わった二人が着替えをしている。そして少年がカーテンの向こうで着替えている少女に言う。
「なぁ、アイン。これから予定が無ければ飯でも食っていかないか?新人の俺に色々と専属で教えてくれた“ファントム”殿にお礼を兼ねてさ、バイト代も入ったし奢るぜ?」
「…そうね、行ってみたい屋台もあるから、ツヴァイがそれで良ければいいわよ。」
「はぁ?屋台?…まぁ、アインが行きたいならいいけど屋台でいいのか?たいした事無いと思うぜ。」
「行けば分かるわ。」
「ま、いいか。それじゃ行こうぜ、」
「ええ。」
ファントム。 それはインフェルノバーガーにおいて最高の売り上げを誇る者に授けられる称号。たとえバーガー単品の客でも巧みな“話術”と“スマイル”でスーパーセットに変える技を持つ。
アインと呼ばれる少女は店長サイス・マスター自ら教えた最高傑作にして、ファントムバーガーの名をアーカムシティーに轟かせた秘密でもある。
「あれか?しかしいい根性してるよな、あの屋台。天下の青雲飯店のまん前で営業かよ。よく店主が文句を言わないもんだ。」
「それだけ自信があるのでしょう?でも、その自信もいつまで持つかしら…。ツヴァイ、行きましょう。」
「あぁ、待ってくれよアイン。」
「…いらっしゃい…。」
(うわっ!辛気臭っ!大丈夫か?ここ。)
そう、ツヴァイが思っていると、早速アインは注文をしていた。
「…ニンニクラーメン、チャーシュー抜き。」
「まいど。で、そこの兄さんは何にする?」
「あ、あぁ、…って、何だよ!この値段は!唯のラーメンで二千円!?アインのニンニクラーメンが二千五百円!?」
「いやなら帰りな坊主、だが彼女は食べる気だぞ。…そうだな、俺のラーメン、不味かったら金はいらねぇ、ただにしてやるってのはどうだい?」
「よし!確かに聞いたぞ。じゃあ、俺はチャーシュー麺大盛り、三千二百円なり、だ!!」
「まいど…。」ニヤリ
(よし!美味くても不味いって言って、アインの分までただにしてやる。)
ツヴァイは気付かなかった、その店主が一時期、青雲飯店にその人有りと言われた『紫電麺』コン・タオローである事に…。
(後編に続く)
…あれ?続いちゃったよ(汗 ま、まぁ、あれですよ昔ニトロ掲示板上で書いたアレの完全版になれば…いいなぁ…。