SS『鬼哭麺』第三話 「老麺太后」中篇
御名神亭の業務日誌
アーカムシティー。昔は片田舎の小さな町でしかなかったが、『食の冒険家』覇道鋼造により、近郊のインスマウスの漁港の整備、ホテル建設、料理人の優遇政策などで一大美食都市へと変貌していった。
そして現在、覇道財閥は実質この街を支配しているのだが、過激な料理人が跋扈するという現状に頭を痛める結果になってもいる。
「お嬢様、こちらが昨日の料理人同士の諍いによる被害報告でございます。」
「ふう、毎日よくやるわね、まったく。何の為に大十字さんにお爺様の『レモンパイン』の店長をまかせているのか…。」
「失礼ながらお嬢様、大十字様は良くやっているとは思います。『調理指南書(レシピ)』の入手に成功し、修行期間無しにも関わらず、『ブラックリッチ』グループの『メタルバー デストロイ』の出店阻止を何度も成功させています。」
「それはわかっています!しかし、いくらあの生意気なレシピ娘『アル・味フ』が優秀でも、敵は『アンナクロース』まで出て来ているのですよ。」
「確かに大十字様は『魔調理士(コック)』としては未だ未熟。アンナクロースは各店舗に鳥料理、海鮮料理、日本料理等の専門店長を配置しております。大十字様の技術の向上は急務かと…。」
コンコン
話の途中で執務室の扉がノックされる。
「失礼します、お嬢様。ツェ・イーター様がお嬢様に面会を希望されております。」
「…ツェ・イーター氏が?…分かりました稲田、客間にお通ししなさい。すぐに参ります。」
「分かりましたお嬢様。」
扉が閉じられる。
「ツェ・イーター様といえば、大旦那様の旧知のお方でしたね。このアーカムシティーの発展に幾つか関わっているという。」
「ええ、それだけに無碍には扱えないのですけども…。」
「とにかく、客間に参りましょう。」
「そうですね。」
そして、執務室から出て移動する覇道瑠璃とウインフィールド。客間には既に、ツェ・イーターが待っていた。
「やぁやぁ、お嬢様、あいかわらずお美しい。」
「お世辞はいりません。用件は何ですか?」
「はは、これは失礼。実は…以前から依頼されておりました計画とその人員についてまとまりましたので報告に。これで、『レモンパイン』は『ブラックリッチ』に専念できる…かと。」
「それは、大旦那様からの計画ですか?」
「その通り。鋼造氏は今の現状を予見しておりましてな。その為に私にこの計画を託していたのです。」
報告書をめくりながら覇道瑠璃は口を開く。
「分かりました、ツェ・イーターさん。この計画、覇道が責任をもって実行します。ご苦労でした。」
「いえ、では私は失礼します。…おぉ、そうだ、そちらの店長、もしなんでしたら、私の知り合いに師事されては?まぁ、気難しい男ですが腕は一流です。」
「そちらも、分かりました。その時はこちらから連絡を差し上げます。」
恭しく一礼をするとツェは部屋を出て行く。
「ウインフィールド、この計画をなるべく優先して実行して下さい。方法は任せます。」
「畏まりまして御座います。」
一方、アーカムシティーの繁華街の一画、『星雲飯店 アーカム四号店』に一台の屋台がたどたどしいチャルメラの音と共に近づく。
チャラ ラ~~ラ、ラ…チャラ チャララ…ラ~♪
そして、店の入り口近くに止めると、『設営術』で軽やかに開店準備を始める。
開店準備が完了し、いざ開店となる所に鋭い声がかかる。
「其処までだ!コン・タオロー!」
店の入り口から出てきたのは『老麺太后』チュウ・シャオヤンであった。
「ジャンの店を潰したのは貴様だね?アタシはまどろっこしいマネは嫌いでねぇ…今すぐ『喰わせもん』で勝負だ!」
「ふん、手間が省けたな。俺はかまわんぞ。」
「その勝負、待った!」
観衆が集まり、期待が高まる中、唐突に割ってはいる声。それは、先日からこの街に入ってきた『美食(グルメ)ハンター』の三人組であった。
「まぁ、二人とも待ちな。星雲飯店の喰わせもんの噂は知ってるんだが、何でも最近は毒入りって言うじゃないか?」
「だから、私たちが美食(グルメ)ハンターの名において、公平に審判をする、と言うのはどうかしら?」
イキナリ部外者がしゃしゃり出て面白くないチュウは怒鳴り散らす。
「はぁ、グルメハンターだぁ?審判?そんなもの奴のような営業妨害を平気でするような外道が毒入りを食わすだけだ!死にたくなければすっこんでな!」
「ふん、外道で結構だ。観衆も集まった事だし、俺はかまわんぞ?」
「な!」
「O,K,兄さんの方が肝が据わってるな、因みに毒云々は大丈夫だ。コイツが毒入りや不味い料理を口にすると、『ヘルゴニア』になって料理人を半殺しにするだけだ。それに、あんたらの流儀にそって、調理中でも妨害有りでどうだ?」
「フリッツ…嫌な紹介をするなよ…。」
珍妙なやり取りをする三人組だが、観衆が集まる中、後には引けなくなったチュウは舌打ちしながら、
「チッ!しょうがないねぇ、受けてやるよ。ただし、アタシが勝ったら、貴様の首を貰う。」
「良いだろう。だが、俺が勝てば…お前の首などどうでもいい、お前の所有するガイノイドを貰う。」
「やはり“ソレ”が目的か。…まぁ、いい、なら今すぐ勝負だ。」
いつの間にやら、チュウの側にも屋外用の調理器具が並び、大鍋にお湯がグラグラ煮立っていた。
「それでは両者、制限時間は一時間。調理を開始しなさい。」
ゴウゥゥゥゥゥン……ガゴッガッグギャ……
小柄な少女が似つかわしくない巨大なハンマーで銅鑼を打つ…台座ごと吹っ飛んでいったが…ともかく、勝負は始まったのである。 (第三話後編に続く)
そして現在、覇道財閥は実質この街を支配しているのだが、過激な料理人が跋扈するという現状に頭を痛める結果になってもいる。
「お嬢様、こちらが昨日の料理人同士の諍いによる被害報告でございます。」
「ふう、毎日よくやるわね、まったく。何の為に大十字さんにお爺様の『レモンパイン』の店長をまかせているのか…。」
「失礼ながらお嬢様、大十字様は良くやっているとは思います。『調理指南書(レシピ)』の入手に成功し、修行期間無しにも関わらず、『ブラックリッチ』グループの『メタルバー デストロイ』の出店阻止を何度も成功させています。」
「それはわかっています!しかし、いくらあの生意気なレシピ娘『アル・味フ』が優秀でも、敵は『アンナクロース』まで出て来ているのですよ。」
「確かに大十字様は『魔調理士(コック)』としては未だ未熟。アンナクロースは各店舗に鳥料理、海鮮料理、日本料理等の専門店長を配置しております。大十字様の技術の向上は急務かと…。」
コンコン
話の途中で執務室の扉がノックされる。
「失礼します、お嬢様。ツェ・イーター様がお嬢様に面会を希望されております。」
「…ツェ・イーター氏が?…分かりました稲田、客間にお通ししなさい。すぐに参ります。」
「分かりましたお嬢様。」
扉が閉じられる。
「ツェ・イーター様といえば、大旦那様の旧知のお方でしたね。このアーカムシティーの発展に幾つか関わっているという。」
「ええ、それだけに無碍には扱えないのですけども…。」
「とにかく、客間に参りましょう。」
「そうですね。」
そして、執務室から出て移動する覇道瑠璃とウインフィールド。客間には既に、ツェ・イーターが待っていた。
「やぁやぁ、お嬢様、あいかわらずお美しい。」
「お世辞はいりません。用件は何ですか?」
「はは、これは失礼。実は…以前から依頼されておりました計画とその人員についてまとまりましたので報告に。これで、『レモンパイン』は『ブラックリッチ』に専念できる…かと。」
「それは、大旦那様からの計画ですか?」
「その通り。鋼造氏は今の現状を予見しておりましてな。その為に私にこの計画を託していたのです。」
報告書をめくりながら覇道瑠璃は口を開く。
「分かりました、ツェ・イーターさん。この計画、覇道が責任をもって実行します。ご苦労でした。」
「いえ、では私は失礼します。…おぉ、そうだ、そちらの店長、もしなんでしたら、私の知り合いに師事されては?まぁ、気難しい男ですが腕は一流です。」
「そちらも、分かりました。その時はこちらから連絡を差し上げます。」
恭しく一礼をするとツェは部屋を出て行く。
「ウインフィールド、この計画をなるべく優先して実行して下さい。方法は任せます。」
「畏まりまして御座います。」
一方、アーカムシティーの繁華街の一画、『星雲飯店 アーカム四号店』に一台の屋台がたどたどしいチャルメラの音と共に近づく。
チャラ ラ~~ラ、ラ…チャラ チャララ…ラ~♪
そして、店の入り口近くに止めると、『設営術』で軽やかに開店準備を始める。
開店準備が完了し、いざ開店となる所に鋭い声がかかる。
「其処までだ!コン・タオロー!」
店の入り口から出てきたのは『老麺太后』チュウ・シャオヤンであった。
「ジャンの店を潰したのは貴様だね?アタシはまどろっこしいマネは嫌いでねぇ…今すぐ『喰わせもん』で勝負だ!」
「ふん、手間が省けたな。俺はかまわんぞ。」
「その勝負、待った!」
観衆が集まり、期待が高まる中、唐突に割ってはいる声。それは、先日からこの街に入ってきた『美食(グルメ)ハンター』の三人組であった。
「まぁ、二人とも待ちな。星雲飯店の喰わせもんの噂は知ってるんだが、何でも最近は毒入りって言うじゃないか?」
「だから、私たちが美食(グルメ)ハンターの名において、公平に審判をする、と言うのはどうかしら?」
イキナリ部外者がしゃしゃり出て面白くないチュウは怒鳴り散らす。
「はぁ、グルメハンターだぁ?審判?そんなもの奴のような営業妨害を平気でするような外道が毒入りを食わすだけだ!死にたくなければすっこんでな!」
「ふん、外道で結構だ。観衆も集まった事だし、俺はかまわんぞ?」
「な!」
「O,K,兄さんの方が肝が据わってるな、因みに毒云々は大丈夫だ。コイツが毒入りや不味い料理を口にすると、『ヘルゴニア』になって料理人を半殺しにするだけだ。それに、あんたらの流儀にそって、調理中でも妨害有りでどうだ?」
「フリッツ…嫌な紹介をするなよ…。」
珍妙なやり取りをする三人組だが、観衆が集まる中、後には引けなくなったチュウは舌打ちしながら、
「チッ!しょうがないねぇ、受けてやるよ。ただし、アタシが勝ったら、貴様の首を貰う。」
「良いだろう。だが、俺が勝てば…お前の首などどうでもいい、お前の所有するガイノイドを貰う。」
「やはり“ソレ”が目的か。…まぁ、いい、なら今すぐ勝負だ。」
いつの間にやら、チュウの側にも屋外用の調理器具が並び、大鍋にお湯がグラグラ煮立っていた。
「それでは両者、制限時間は一時間。調理を開始しなさい。」
ゴウゥゥゥゥゥン……ガゴッガッグギャ……
小柄な少女が似つかわしくない巨大なハンマーで銅鑼を打つ…台座ごと吹っ飛んでいったが…ともかく、勝負は始まったのである。 (第三話後編に続く)