御名神亭の業務日誌
≫2005年03月07日
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SS『鬼哭麺』第三話 「老麺太后」前編
『上海食品公司』表向きは高級食材、厨房機器を中心に扱う総合商社。しかし裏では、代替食品(人工イクラや、カニかまぼこ等)開発や、サイバネ料理人の調理器具内臓型サイバーアーム等をも扱っている。『高級中華を安価で提供』を掲げる青雲飯店を裏で支えるといってもよい複合商社である。
アーカムシティーの一角、高層ビルが立ち並ぶ商社地区の中に『上海食品公司アーカム支社』もある。その最上階に位置する社長室に4人の青雲飯店店主が揃い踏みしていた。
「『炒飯六臂』がやられた。しかも屋台相手に営業妨害に腹を立て、『喰わせもん』を挑んで負けたそうだ。」
『喰わせもん』青雲飯店で料理人同士のトラブルがあった場合に使われる解決法。互いに得意料理を“無理にでも相手に食べさせ、味で納得させる”。「勝敗は当人同士のプライド。…というのは昔の話。実の所、現在ではサイバネ料理人の多くは“毒入り料理”で相手を倒す事が多い危険な勝負法。
「おい!喰わせもんは、ジャンの奴の得意とする所だろう?どう言う事なんだよ!」
「落ち着け、チュウ。観衆の見た所では、ジャンの炒飯はまったく喰わせられず、相手の麺を一口喰わせられただけで電撃に撃たれたように崩れたそうだ。…後で調べた所、実際に電子回路や部品が焼き切れていたそうだ…。」
「待て、…麺一口でそんな芸当が出来るのは…。」
「ああ、『百麺手』のビンの言う通り…コン・タオローが帰ってきた…と、見て間違いあるまい。」
「コンの野郎はリュウ!あんたが一年前に殺したはずだろう?」
チュウ・シャオヤンの怒声に首を竦めながらあっさりと答える。
「この私も人間だ。仕損じた…という事だろう。それよりも、プライドを尊ぶ内家料理人のコン・タオローが、何の躊躇も無く、営業妨害もどきの屋台や、相手を殺すほどの電撃を纏わせた紫電麺とは…奴は『麺鬼』と化した…と見てよいだろうよ…。」
「はっ!くだらないねぇ、速度と味はともかく盛り付けは二流だったジャンが負けようがどうでもいいが、外家料理人がなめられたのは、気に入らない!うちに来たら奴を肉麺にしてやるさ!」
クルリと踵を返すと、チュウはそのまま部屋を出て行く。
「兎も角、警戒するに越したことは無い。私も奴らを呼び寄せる事としよう。では、失礼する。」
ビン・ワイソンも立ち去り、上海食品公司の社長兼三号店店長『網絡調理』ン・ウィンシンは隣のリュウ・ホージュンに訊ねる。
「たかが死にぞこないの料理人一人に大げさなこったな。そこまで凄いもんなのか?」
「料理人ではないお前には分からんのも無理は無いが、外家のサイバネ料理人が、“内家のただの生身の料理人に屈した”という事実が許せないのさ。」
「はっ、俺には分からんね。わが社の低コストの代替食品に全自動化された調理器具が有れば素人だって出店できるぜ?」
「…まぁ、期待している。では、俺も失礼する。」
上海食品公司のビルの最上階でこのような密談が行われている事を知らずに、今日もアーカムシティーの繁華街は賑わっていた。
そんな賑わいの中、少々不釣合いな一台の軍用車“ハマー”が止まる。中からこれまた、統一性の無い三人組が出てくる。一人は大男、一人は喪服の少女、そしてもう一人は学生と見て取れる男。
「ようやく着いたぜ。で、本当にこの街に連中がいるんだろうなぁ。」
「それは間違いないと思うわ。リァノーンに噛まれた惣太もここだと言っているし。」
「夢の話だぞ。だとしてもだ、本当に『美食の女王』リァノーンを滅ぼせば、俺はグルメヴァンプ(給食鬼)化せずに元の体に戻れるんだろうなぁ。」
「ええ、まだ完全に給食鬼化していない今のうちなら大丈夫…とは言っても時間に余裕があるわけでもないけど。」
「そうか、…それはいいけど、腹減ったなぁ…。」
「おい惣太、こんな繁華街でヘルゴニアになるなよ!食い散らかして弁償するのは俺たちなんだからなぁ。」
「分かってるさ、フリッツ。…だから、先ずは腹ごしらえしないか?」
「まぁ、しょうがないわね。それに、『美食倶楽部 イノヴェルチ』の情報を得るついでに、『美食(グルメ)ハンター』の仕事もしておきたいし。」
『美食(グルメ)ハンター』美味い店を探し出し、記事をグルメ雑誌等に売り込む者達。自らの舌を絶対とし、短時間での店の梯子をも厭わない強靭な精神と肉体と“胃”を持つものだけに許された職業である。
「分かったよモーラ。で、先ずはどこの店から始める?」
「ここは食の街よ、ハズレは無いと思うけど、…じゃあ、あの店から行きましょうか。」
三人組は手近な店へと消えていく。ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食を求める、あらゆる人種をも受け入れる街…。 (第三話中編に続く)
アーカムシティーの一角、高層ビルが立ち並ぶ商社地区の中に『上海食品公司アーカム支社』もある。その最上階に位置する社長室に4人の青雲飯店店主が揃い踏みしていた。
「『炒飯六臂』がやられた。しかも屋台相手に営業妨害に腹を立て、『喰わせもん』を挑んで負けたそうだ。」
『喰わせもん』青雲飯店で料理人同士のトラブルがあった場合に使われる解決法。互いに得意料理を“無理にでも相手に食べさせ、味で納得させる”。「勝敗は当人同士のプライド。…というのは昔の話。実の所、現在ではサイバネ料理人の多くは“毒入り料理”で相手を倒す事が多い危険な勝負法。
「おい!喰わせもんは、ジャンの奴の得意とする所だろう?どう言う事なんだよ!」
「落ち着け、チュウ。観衆の見た所では、ジャンの炒飯はまったく喰わせられず、相手の麺を一口喰わせられただけで電撃に撃たれたように崩れたそうだ。…後で調べた所、実際に電子回路や部品が焼き切れていたそうだ…。」
「待て、…麺一口でそんな芸当が出来るのは…。」
「ああ、『百麺手』のビンの言う通り…コン・タオローが帰ってきた…と、見て間違いあるまい。」
「コンの野郎はリュウ!あんたが一年前に殺したはずだろう?」
チュウ・シャオヤンの怒声に首を竦めながらあっさりと答える。
「この私も人間だ。仕損じた…という事だろう。それよりも、プライドを尊ぶ内家料理人のコン・タオローが、何の躊躇も無く、営業妨害もどきの屋台や、相手を殺すほどの電撃を纏わせた紫電麺とは…奴は『麺鬼』と化した…と見てよいだろうよ…。」
「はっ!くだらないねぇ、速度と味はともかく盛り付けは二流だったジャンが負けようがどうでもいいが、外家料理人がなめられたのは、気に入らない!うちに来たら奴を肉麺にしてやるさ!」
クルリと踵を返すと、チュウはそのまま部屋を出て行く。
「兎も角、警戒するに越したことは無い。私も奴らを呼び寄せる事としよう。では、失礼する。」
ビン・ワイソンも立ち去り、上海食品公司の社長兼三号店店長『網絡調理』ン・ウィンシンは隣のリュウ・ホージュンに訊ねる。
「たかが死にぞこないの料理人一人に大げさなこったな。そこまで凄いもんなのか?」
「料理人ではないお前には分からんのも無理は無いが、外家のサイバネ料理人が、“内家のただの生身の料理人に屈した”という事実が許せないのさ。」
「はっ、俺には分からんね。わが社の低コストの代替食品に全自動化された調理器具が有れば素人だって出店できるぜ?」
「…まぁ、期待している。では、俺も失礼する。」
上海食品公司のビルの最上階でこのような密談が行われている事を知らずに、今日もアーカムシティーの繁華街は賑わっていた。
そんな賑わいの中、少々不釣合いな一台の軍用車“ハマー”が止まる。中からこれまた、統一性の無い三人組が出てくる。一人は大男、一人は喪服の少女、そしてもう一人は学生と見て取れる男。
「ようやく着いたぜ。で、本当にこの街に連中がいるんだろうなぁ。」
「それは間違いないと思うわ。リァノーンに噛まれた惣太もここだと言っているし。」
「夢の話だぞ。だとしてもだ、本当に『美食の女王』リァノーンを滅ぼせば、俺はグルメヴァンプ(給食鬼)化せずに元の体に戻れるんだろうなぁ。」
「ええ、まだ完全に給食鬼化していない今のうちなら大丈夫…とは言っても時間に余裕があるわけでもないけど。」
「そうか、…それはいいけど、腹減ったなぁ…。」
「おい惣太、こんな繁華街でヘルゴニアになるなよ!食い散らかして弁償するのは俺たちなんだからなぁ。」
「分かってるさ、フリッツ。…だから、先ずは腹ごしらえしないか?」
「まぁ、しょうがないわね。それに、『美食倶楽部 イノヴェルチ』の情報を得るついでに、『美食(グルメ)ハンター』の仕事もしておきたいし。」
『美食(グルメ)ハンター』美味い店を探し出し、記事をグルメ雑誌等に売り込む者達。自らの舌を絶対とし、短時間での店の梯子をも厭わない強靭な精神と肉体と“胃”を持つものだけに許された職業である。
「分かったよモーラ。で、先ずはどこの店から始める?」
「ここは食の街よ、ハズレは無いと思うけど、…じゃあ、あの店から行きましょうか。」
三人組は手近な店へと消えていく。ここはアーカムシティー。『食の大黄金時代にして、大暗黒時代にして、大混乱時代』食を求める、あらゆる人種をも受け入れる街…。 (第三話中編に続く)