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御名神亭の業務日誌

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『楽園の幻』 3

御名神亭の業務日誌

 食堂には既に美音子が席に着いており、給仕をするエリカと奈緒子が控え、中央の上座には舘の主人、水野氏が明るい笑顔で二人を迎えた。

「さぁ、席に着いて下さい。エリカ、お客様にも存分に召し上がっていただきなさい。」
「はい、ご主人様。」

   キチチ…

「……。」

 直樹はまたも違和感を感じていた。

(…あれ、俺はどうしてこの館に厄介になってるんだっけ?)

 だが、そんな疑問もおいしい食事にどうでも良くなってくる。

「うん、うまい。」
「う~ん、おいし~!
 やっぱりエリカさんの料理は最高ぉ~。」

 美音子は絶賛しながら、次の皿へと取りかかっている。
 梓も満足している様だ。

「そうね、おいしい。
 あたし、どうしても料理って苦手で…そうだ!ここにいる間にエリカさんにお料理を習っちゃおうかなぁ。」
「ええ、私で良ければよろしいですよ。
 では早速、今晩の夕食を手伝っていただけます?」
「こちらこそ迷惑でなければお願いします!」

   キリ…

 直樹としては、梓が喜ぶ姿はうれしいが、違和感は消せない…。

「おや?
 如何なさいました、前田くん?」

 突然、水野氏に声をかけられ、自分が空想に浸っていた自分につい笑ってごまかしてしまう。」

「い、いえ、ちょっと考え事をしてしまいまして…たいした事じゃないんで…気にしないで下さい。」
「そうですか…。
 何かあれば、私でも、エリカでも気軽に相談して下さい。」
「ええ…、そうさせていただきます。」

 そうして、更に数日後、一緒に屋敷を散策している梓は明らかに様子が変だった。
「何だか調子が悪そうだな、大丈夫か、梓?」
「…うん、何だかね、気合が入らないって言うか…うまく説明できないんだけど、身体が緩んじゃって…拘束感が無いって言うか…。
 …?! って、あ、あの、変な意味じゃないからね!」
「あははっ、分かってるよ。」
「わ~ら~う~な~!!」
「悪い悪い、やっぱり梓は……ん?何て言うんだっけな?」
「知らないわよ。どうせろくでもない事だから思い出さなくていいですよ~だ。」

   キチチチリ…

 違和感。
 ここ数日、消えない違和感はかなり膨らんでいる。
 が、それを破るメイドの声。

「あぁ、こんな所にいたんですかぁ~。もう夕食の時間なんですから。早く食堂にいらして下さいよ~。」
「え、えぇ、美音子さん、ごめんなさい。すぐに行きますね。」
「お願いします。もう、お給仕する立場になって下さいよ~。」

 ブツブツ文句を言いながら食堂へと向かうメイドの美音子。

「ほんと、美音子さんってメイドさんらしく無いよねぇ~。」
「あ、あぁ…。」

   ギチ…

 その夜、ベットの下にしまいっぱなしで忘れていた、スポーツバッグを引っ張り出した。
 中から自分の競泳水着を取り出す。

   ギチチ…ギャンッ!

 「そうだったな…何で忘れていたんだろう…。
 俺は、昭栄学園男子水泳部キャプテン。前田直樹。
 みんなを助けて帰らないとな。
 さて…、どうやって…あ!梓なら何とかなるかも知れないなぁ。」

 ふとした思い付きだったが、やってみる可能性はあるだろう。
 早速、梓の部屋へ向かう。

梓!
きゃっ!な、直樹!?ちょっと、ノックぐらいしてよね!」

 部屋の中に入った直樹が見たものはメイド服に着替える途中らしい下着姿の梓。
 慌ててワンピースで前を隠す。

「ぎりぎり間に合ったっぽいな!
 梓!お前の水着は何処だ!」
「え!?水着…?」
「あぁ…めんどくさいなぁ…スポーツバックは何処だよ!」
「あ、あの…クローゼットの中…。」
「よし!あの中だな!」

 直樹はクローゼットの中からスポーツバックを取り出すと、無造作に手を突っ込み梓の競泳水着を取り出す。

「これを見て思い出さないか!」
「水着…誰の?」
「お前のだって!
 着れば分かるから!」
「ちょ、ちょっと…分かった、分かったから!着替えるから…その…見ないでくれる?」

 梓がうつむきながらうったえる。直樹は改めて、梓が下着だけだった事に気がつき、後ろを向く。

ご、ごめん!
 …だけど、逃げられると困るから…出来たらこのまま着替えてくれると…も、勿論見たりしないから!」
「…よく分からないけど…直樹がそういうなら…分かった…。」

 同じ部屋で女の子の着替える衣擦れの音が背後から聞こえる背徳感にドキドキしながら、直樹は直立不動で待っていた。

「…ん…。」

 ジジジジ…

 背後で最後のバックファスナーを上げる音が聞こえる。もうすぐ着替え終わるだろう。

「…着替えたわよ…って、あたし何してたんだっけ!?」
「良かった、元に戻ったみたいだな。
 だけど、競泳水着の締め付けで正気に戻るなんて、梓らしいけどな。」
「ちょっとぉ、それって、あたしが河童かなんかとか言いたいわけ?」
「ぷっ…自分で言ってりゃ世話無いよ…あははっ!」
「あははっ!」

 ひとしきり二人で笑い合うと、今後の対策を立てる。

「どうやって、みんなを元に戻すかだけど…。」
「梓と同じ方法が使えないかな?」
「同じ方法って…。
 ええ~!!水着を着せて回るの~!
 って、いったんメイド服を脱がせないといけないんだけど…一人じゃ抵抗されるとつらいけど…直樹も一緒って訳には行かないよねぇ…。」
「うん…流石に…。」
「あ…、美音子なら何とかなるかも…でもなぁ…。」
「今は時間が無いんだ!方法があるなら言ってくれ!」
い!言えないわよそんな事…。
 ともかく、美音子の後は一緒に奈緒子も助けるから、直樹は水野君をお願い!」
「何だか分からないけど分かった。
 …あ~、それと、梓の予備の水着があれば貸して欲しいんだけど…。
なっ!?何に使うつもりよっ!!

 とんでもない事を言う直樹に梓は怒鳴っていた。

「…いや、水野の場合…自分の水着じゃ正気に戻らないだろうから…。」
「…ありえる…。
 うう~、しょうがないとはいえ、あんまりいい気分じゃないんだけどぉ…。」
「無事に帰ったら埋め合わせはするから。」
「…帰ったらデートしてよ!それから…今すぐあの時の続き…。」

 そういって梓は目をつぶる。直樹も気が付いたようでゆっくり梓を抱きしめて…キスをした。

…ん、勇気出た。」

 顔を真っ赤にして梓が笑う。

「…そっか、じゃあ、行こう。あんまり時間が無いかも知れないからね。」

 直樹も顔を真っ赤にしながら照れ隠しに行動しようとする。
 その後、二人は分かれてそれぞれの部屋へ向かう。梓は美音子を探しに、直樹は透の要るであろう、3階の主寝室へ…。

 主寝室にきた直樹は中に入る。

透!正気に戻れ!」
「な、なんだね!前田君。失礼だなぁ。」
「そんな事は良い!とりあえずこれに見覚えは?」
「…海パン…それがどうしたね?」

 透は自分のスパッツタイプの競泳水着にはまったく動じない。
 あまり思い入れは無いようだから仕方ないとはおもうが…直樹は梓の水着を出すのをためらわれたが、仕方ない。

「じゃあ、これはどうだ!

 勢い付けすぎて梓の水着で透の頬を一閃!
 すると、なぜか透の様子が変わった。

「…このシリコンゴムプリントの感触…鼻腔をくすぐる塩素の残り香……。
 …あれ?僕はどうしたんだ?よぉ、直樹。」
「ホントに正気に戻ったよ…良いけどさ…ともかく、ここから逃げるぞ!」
「訳が分からんのだが…その手に持ってる水着くれ!
やらん!

 その時、寝室の扉がノックされ、エリカが入ってくる。

「ご主人様、夜伽に参りました…。
 …ま、まさか元に戻ってしまったの…ご主人様は渡さない!

 ギチチ…ジャキンッ!

 エリカのメイド服の袖がはじけ飛ぶ、現れたのは禍々しい刃。

げっ!なんなんだよ、透!」
僕が知るか!
 …って、思い出した!確か変わり者だの狂人だの言われた人形師がこの辺りに住んでたらしい!」

  ヒュン!  …ガシャーン!

 エリカの振った腕が辺りの家具を切り飛ばす。

うわっ!危ねぇ!つーか、透!そう言う事は早く思い出せ!」
「んな事いったって、もう50年は昔の話だぞ!忘れてたに決まってるだろうが!」
「と、ともかく逃げるぞ!梓たちと合流しよう!」
「それは僕も賛成だ!」

 逃げ出す二人に今度は廊下に立っていた甲冑がのろのろと動き出し襲ってくる。

「おいおい!そんなんまで有りかよ!」
「ともかく、逃げろ!」
「僕は頭脳派なんだよ!」

 二人は2階に下りるとちょうど、右腕に美音子が頬を摺り寄せながらぴったりくっつき、左手で泣き顔の奈緒子の手をしっかり握った梓に出くわした。
 二人とも水着の上にジャージを羽織っている姿から正気に戻っているらしい。

よぉ…色々有ったみたいだな…。」
えぇ、有ったのよ…。
「お姉さまぁ~ん。」
「ぐす…いくら何でも、二人係りだなんて…酷いですぅ…。」
「だから、二人とも助ける為だってばぁ…。」
「その話、詳しく聞かせ…。」
「「聞くな!」」

 直樹と梓は透の発言が終わる前に、きれいにハモって否定した。

「…ちっ、二人でうまくやりやがったな…。」
「何にも無い!」
「…お~い、いい加減にして逃げないとやばいんだけど…。」
「そうだったわね。行きましょう。」

 メンバーは夜の海岸に飛び出した。

「ボートは…有ったわ!
「けど、オールがないぞ。」
「しょうがない、荷物だけ載せて、泳いでいこう!」
「え~、夜の海を泳ぐなんて自殺行為よ~。」
「私…、そんなに泳げません…。」
「僕もそんなに泳げんぞ。」

 それでも、館からはエリカたちが迫ってくる。時間は無い。

「ともかく、泳げなくなっても、ボートに掴まっているだけでも良いから!」

 直樹がそういうと、渋々ながら奈緒子と美音子、それに透も従う。
 夜の海は冷たかったが、必死に泳いで行く。しばらく進むと、霧が出て視界が遮られる。

「ちょ、ちょっとぉ、これじゃあどっちに向かってるのか分からないわよ~。」
「…ともかく進もう。」
「あれ?…何だか…、あっちの方が明るいですよ。」

 言われた先は今向かっている方向とは違う。
 みんな迷っていると、梓が言う。

「駄目元で行ってみましょう?このままでもラチがあかないわ。」
「そうだな…、行ってみるか…。」

 メンバーはボートの向きを変え、奈緒子が明るい方向に向かっていく。
 徐々に明るくなって行く。

「なぁ…、明るく成り過ぎじゃないか。」
「そうよねぇ、今はどう見ても夜中のはずなのに…。」
「行ってみれば分かるさ、霧も随分薄くなってきたみたいだし。」

 霧が晴れると…、そこは最初に来た海岸近く…時間は夕暮れのようだった。

「と、とりあえず…戻ってこれたの…か?」
「みたい…ね。」
「「「や、やったーー!」」」

 ようやく海岸に戻ると、驚いた事に今は合宿最終日…つまり、一日と経っていなかった…。

「あ、あれ?あの洋館…あんなにボロボロだったっけ?」

 美音子が素っ頓狂な声を上げる。みれば遠くからでも分かるぐらいボロボロで…

「ま、とにかく、助かったんだから良いじゃないか。」
「良いのかなぁ…。」

 その後…聞いた話では、あの洋館は確かに人形師が住んでいたらしいが、人形を抱いて死んでいたらしく…子供もいなかった為放置されていたそうだ。

 とにかく、水泳部の合宿は終わり、帰りの電車に乗っている時。梓がポツリと呟く。

「…ねぇ…帰らない主人を待つ、ってどんな気持ちなんだろうね…。」
「…さぁ…、俺にはわからないな…、でも梓が帰ってこなかったら…探すぞ。何時までも。

 そんなセリフを聞き逃さない美音子。

「あ~、前田キャプテンずっる~い!お姉さまは私のモノなんですからね!キャプテンよりあたしが先に見つけるんですからね~。」

 そういって美音子は梓に抱きつく。

「ふん、ガキが何、対抗心出してるんだか…。」
あによ!水着フェチのあんたに言われたか無いわよ!」

 今度は梓から離れて、透と臨戦態勢になる。
 オロオロする奈緒子、頭を抱える、直樹と梓。何時もの光景だった。

「…ありがと…。」

 直樹だけに聞こえるように、でも恥ずかしいから直樹の顔を見ないまま、梓はつぶやいた。

   (『楽園の幻』 了。)

Comment

[527] Re: 『楽園の幻』 3
 はい、終了です。

 …つーか、頭悪すぎ…orz
 いや、ミステリーっぽくしたかったんですが、大原則『読者より作者の方が頭が良くなければいけない(だませない)』がスッポリ抜けていたりして、ミステリーならぬ、ミスばかりな結果に…(呆

 ま、ツッコミ、感想お待ちしてます(苦笑

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水上雷太

Author:水上雷太
『水上雷太』
 「全スポ会会長」
 「御名神亭やとわれ店長」
 「サイト管理人」
 様々な“自称”を使い分ける男。ぶっちゃけ三十路ヲタ(ぷ

 ブログ開設4年目に突入し、何を血迷ったかサイトまで開設する。 どこまで突き進む気だ?

『御剣みこと&ほむら』
 御名神亭の店員。双子の姉妹。
 一見中○生並のコンパクトボディだが18才以上(笑
 一人称が「ボク」と「オレ」だが女の子。
 ほむらはふた○りだが女の子!

『Dr.ノーザンウェスト』
 御名神亭に住み着く、謎の「萌え学」講師。
 某キ○○イ博士に似ているのはただの噂(笑
『ワイルド=エルザ』
 通称「ワルザ」Dr.が某所から設計図を入手して作り上げたモエロイド。
 語尾はお約束の「ロボ。」(笑

 ここは、上記メンバーでお送りするエンターテイメントサイトである。

 リンク&アンリンクはフリーです。ご一報頂けると、リンクを貼り返します(笑





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