『灰藤玄太郎の事件簿』 5
御名神亭の業務日誌
ギィンンッ!……。
「ぐうぅぅ…。」
「ふ、ふっふっふっ…まさかそんな手を使うとは…な…。」
「ぐうぅぅ…。」
「ふ、ふっふっふっ…まさかそんな手を使うとは…な…。」
まさに一瞬、針陽の放つ突きが心臓に滑り込む前に、鋼刃は振り上げる右手はそのまま、刀から左手を離し左腕を心臓の前に出し盾とする。
更に、左腕に突き刺さる刃の『貫通』が、心臓に再び狙いを付ける前に、右手一本での“裏切り上げ”と同時に針陽の手から刀を奪う。
…左腕に突き刺したまま…。
「ふ…渾身の突きだったのだ。
それでもまだ届かない領域なのか…。」
「技量ではない…。」
鋼刃は、左腕に刺さったままの愛刀『鋼虎』を抜きながら話す。
「…ぐぅっ!…
…お前が御神を壊すと言った時、わしが真っ先に思い浮かべたのは、沙夜と二人の娘…命(みこと)と炎(ほむら)の顔だ。
一族を守る建前はあるが、やはり家族を守りたいというのは本音だった…。
だが、お前とわしの違いは『守りたい者がある』それだけなのだ…。」
鋼刃の話を途絶えかける意識で聞く針陽の顔から憎しみの色が消えていく。
「くくっ!力と…は、…あらゆる物を断絶した先に…あると思っていたが…俺が間違っていたの…か…。」
「針陽…。」
鋼刃は実の弟をその手にかけた事を、今更ながらに実感しつつ、命の尽きる弟を前に、立ち尽くすしかなかった。
「…ごめんなさい…。」
その時、いつの間にか、この場には似つかわしくない、白いワンピースに長い髪の少女が倒れる針陽を抱いていた。
「ま、愛様…。」
鋼刃が思わず声を漏らす。
「そ…うか、お前が『愛(まな)』か…。」
「…ごめんね。
…わたしのせいだよね…針陽に声をかけようとしてたんだけど…どうしても届かなかった…。」
「…そうか…お前を見ようと…信じようとしなかったのは俺の方だったのだな…。
…もう俺は…兄貴…すまんが、俺の後始末…付けてくれるか…出来の悪い弟ですまなかった…。」
消え入りそうな声で呟く針陽に鋼刃はうなずく。
「…承知した。
実の弟の頼み、断るはずも無い。」
「…よか…った…。」
沈黙…。
響く音は愛のすすり泣く声のみ。
「愛様…。
弟は、道を踏み外したとはいえ、最後は、御剣の者として立派に戦いました。
…それは、戦ったわしが確信しております。」
愛はそっと針陽の亡骸を下ろすと、鋼刃の前に歩いてくる。
「鋼刃もごめんね。
本当は…兄弟で戦いたく…なかったよね?」
目の前まで来た小さな少女に合わせるように、鋼刃は屈み込むと諭すように言った。
「確かに…出来る事なら戦いたくは無かった。
だが、誰かがやらねば成らん事なら、わしがやるべき事だったのです。
ですから、愛様はあまり気に病まないで下さい。」
「ごめんなさい…でも、まだ楓ちゃんが危ないの…わたしはもうここに留まれない…。」
「心配は要りません、愛様。
楓嬢ちゃんの方には、頼りになる男が向かっています。」
「…うん、おねがいね…。」
そう言うと、愛…『御神愛(みかみ まな)』と呼ばれる少女は風に溶けるように消えていった。
一人残る鋼刃はドスンと座り込むと、彼にしては珍しい独り言を呟く。
「さて…参ったな…、想像以上に体力を消耗してしもうた…。
思うように動けぬでは玄太郎殿の応援も儘ならん…やはり針陽よ、お前は強くなったよ…。」
時間は少しだけ戻る。
ガガガガガッ!
ガガガガガガッ!
「ったく、鋼刃が居なくなった途端にこれかよ…。」
今、俺は研究所の廊下で足止めをくらっていた。
鋼刃と謎の男を抜けた後にも雨月の私設軍は残っていたらしい。
「…敵さんの数は…5~6人…武装は…サブマシンガンか…。
…ちぃ、どうする…。
ん?連中の真上のダクト…こっちのやつに繋がっている…。」
俺はスコーピオンで牽制して、素早く手近な部屋へ入り換気ダクトを突き破って進入…よし!上手く奴等の真上に来れた!
ガガガッ!
スコーピオンでダクトの蓋ごとぶち抜き、直後、廊下へ落下。
目論見どおり敵さんのど真ん中だ。突然の出来事に混乱している。
その上、同士討ちを恐れてサブマシンガンを撃てないでいる、チャンス!
「でりゃあぁぁっ!」
とりあえず手近な奴に右手のパイソンの銃底で強打。
左手のスコーピオンを反対方向に撃ちながら牽制、反動で捻りを加えたキックを見舞う。
「く、くっそぉー!」
正気に戻った敵が近づく、その後ろにサブマシンガンを構えた奴を見つけた!
「ちぃっ!」
殴りかかる敵を避け、顔面めがけて、右腕でカウンター…は、避けられた。
が、敵の耳元で横に構えたパイソンを発砲。
後ろの敵に命中、同時に反動が手前の敵の頭部を横殴りにする。音と打撃のダブル攻撃だ。
とりあえず、一段落…か。
「ふぅ…見よう見まねの『銃の型』ってな。
ま、一人二人は逃げてったようだが、上手くいった…痛ぅ~。イキナリ使うと身体の負担がでけぇ…。」
身体のアチコチが悲鳴を上げていた…俺も若くねぇなぁ…。
ともかく、先を急がなけりゃいかんと、次の廊下を曲がると…信じられねぇ物が俺を撃ってきた。
ズガガガガガッガガガガッ!
咄嗟に隠れるが、あれは…。
「おいおい、今度はマンガやアニメの世界かぁ?
つーか、製薬会社が何、あんなもんを持ってやがる!」
冗談見たいなソレは…ずんぐりした本体に短いキャタピラ付きの四足…センサーと連動したガトリングガンを持つ無人攻撃兵器…確か米軍が開発中とか何とかゴシップ紙にあったが…。
「しまったな…鋼刃なら何とかなりそうだが…俺の手持ちは…。」
ナイフ、脇差しは論外、スコーピオンは…あの装甲じゃ無理か。
「…やはり、コイツを使うか。だが、効果を聞いてなかったな…。」
俺は、パイソンの弾丸を鋼刃に渡された“魔弾”を装填する。
ジャコッ!
その時、ふと、鋼刃の言葉を思い出す。
(…各個人の持つ能力がある。主にその名にまつわる能力で…。)
何となく思いつく節があった俺はコートの内ポケットのサングラスをかけると、
「よし。」
ガゥン!ガゥンッ!
廊下へ飛び出し、続けざまに二発。
飛び出した弾丸は瞬間、光球へ変わり空中に停滞…光の帯を放って無人の兵器に飛び込んで行く。
ズガガ…ジュウゥゥ…ドカーーンッ!
爆発、炎上、次の瞬間ガラクタが一つあるだけになっていた…。
「レーザー光線かよ…なるほど“光輝”…ね…。」
正直、呆れた。ここまで来ると何でもありだ。
…だが使えるものは何でも使ってやるさ。さぁ、楓嬢ちゃんを早く助けてやらねぇとな。
その後も幾つかの障害はあったが、“銃の型”と“魔弾”を駆使して進む、スコーピオンのマガジンは使い果たしたので捨てた。
そうして、最後の扉のを開けたおれの見たものは…。
(『灰藤玄太郎の事件簿』 5了。 6へ続く。)
Comment
[387] なぜかこんな時間に
更新してます(ぉ
ええ、実は今日はバイトが休みなのですが、一日中、このシリーズ打ってました(爆
ま、途中寝てたり、書けなくて悶絶したりしてましたが(笑
んで、書き上げたら無性にアップしたくなったのでネカフェへGO!(馬鹿
さて、ご質問の鋼刃さんのビジュアルイメージですが…筋骨隆々で羽織袴(作中では羽織は着てない様ですが)、髪型もロングのオールバックと言う、いかにも『強面の道場主』といった感じです。あ、髭は無いみたいです(ぉ
そんなこんなで、御剣兄弟の話は終わり…続いてようやく玄太郎さん登場。
あれ?初期のプロットと違って『銃の型』使ってますよ?見て、聞いただけで使いこなすとは…やるなぁ(爆
あ、ツッコまれる前に言っとくと、『銃の型』の元ネタは「ナムコクロスカプコン」の主人公「有栖零児(ありすれいじ)」の技の一つにして、間違い無く「リベリオン」の『ガン=カタ』こそ大元のネタです(笑
そんなわけで、最終回の6へ続きます(笑
ええ、実は今日はバイトが休みなのですが、一日中、このシリーズ打ってました(爆
ま、途中寝てたり、書けなくて悶絶したりしてましたが(笑
んで、書き上げたら無性にアップしたくなったのでネカフェへGO!(馬鹿
さて、ご質問の鋼刃さんのビジュアルイメージですが…筋骨隆々で羽織袴(作中では羽織は着てない様ですが)、髪型もロングのオールバックと言う、いかにも『強面の道場主』といった感じです。あ、髭は無いみたいです(ぉ
そんなこんなで、御剣兄弟の話は終わり…続いてようやく玄太郎さん登場。
あれ?初期のプロットと違って『銃の型』使ってますよ?見て、聞いただけで使いこなすとは…やるなぁ(爆
あ、ツッコまれる前に言っとくと、『銃の型』の元ネタは「ナムコクロスカプコン」の主人公「有栖零児(ありすれいじ)」の技の一つにして、間違い無く「リベリオン」の『ガン=カタ』こそ大元のネタです(笑
そんなわけで、最終回の6へ続きます(笑