ガガガガガッ！
　　　ドガーーンッ！
　　　ドンッ！ドンッ！

　雨月製薬第八研究所。山中の静かな研究所は今…戦場となっていた。

「うははははっ！ぬるい！ぬるいぞっ！」
「ったく、これが『一人師団』…か。
　…とんでもねぇな…。」

　ジープを運転している俺の隣で喜色鬼面といった表情で重火器をぶっ放し、監視塔を破壊していく男『御剣鋼刃』。
　…なるほど、一人師団とはよく言ったもんだ。雨月の私設軍にまったくひけを取らないどころか、ほとんど反撃をゆるさねぇ…俺はいらねぇんじゃあ…っと！

　　　ガゥンッ！

　視界の隅にサブマシンガンを構えた奴を見つけた俺は、反射的にパイソンを抜き、狙いもそこそこに撃っていた。

「ふぅ…。」
「やるな、玄太郎殿！」
「あんた程じゃねぇよ！
　これで監視塔はほとんど潰したろ！」
「ではこの先を右に曲がった先の搬入口から突入するぞ！」
「はいよ！」

　俺がハンドルを切ったその先には…ロケット弾が迫って来た。

「やべぇっ！」
「何のっ！」

　　　がすっ！…ドゴォーンッ！

　流石の俺も目を疑った。
　鋼刃は飛んでくるロケット弾を…裏拳で叩き落していた。
　ともかく、無事に搬入口から突入に成功したものの…。

「おいおいおい！何だよさっきの非常識なのはよ！」
「む？あれか？
　何、御神の者は各家の秀でる分野の他に、各個人の持つ能力がある。
　主にその名にまつわる能力でな。わしは不器用ゆえ、硬化と鋭角化のみだがな。」
「マジかよ…いよいよ何でもありになってきたな、あんたの所は…。」

　流石に呆れた。
　ほとんど、いや思いっきり人外の民の範疇だろ…。
　しかも、鋼刃の能力とやらも不器用とか言っていたが、十分戦闘力の底上げになる…。
　と、そこまで考えて、ふと疑問を口にする。

「なぁ、それだけの能力があって、何であんたらは支配側にならないんだ？
　その気になれば十分可能なんだろ？」
「…仮にだ、一握りの一族が多くの力なき民を支配した時…一時は完全に見える体制も布けようが、暫くすれば力無き民は集団で反乱を起こすだろう。…それが世の理だ。
　それにな、われらの“力”は“世界の歪み”を正すために“世界”から“与えられる力”と伝えられている。」
「“世界”ねぇ…。」

　なんだか知らねぇが、話がでかくなってきた…。唯の人間にゃ分不相応な話だ。
　今は目の前の事を片付けねぇとな…。

「でけぇ話はとりあえず置いといて…、楓嬢ちゃんの居る場所は何処だ？」
「おそらく、研究所の最奥…地下の研究室だろう。」
「ふむ…、あそこか…。」

　俺は、頭の中に見取り図を思い浮かべ、ルートを確認する。

「時に、玄太郎殿は刀を扱えるか？」
「ん？…昔、剣道初段だったが…。」
「…そうか、では脇差しの方が良いかのう。」

　そう言って渡された脇差しをベルトに挿した。
　あまり考えたくは無いが、研究所内では銃器が使えない可能性もある。俺の手持ちのナイフだけよりはマシだろう。
　俺は、相棒のパイソンと短機関銃スコーピオンとナイフ、そして脇差し。
　あまり重装備では機動力が落ちるとの判断だ。
　だが、隣の鋼刃は日本刀の二本差しに全身持てるだけの重火器…相変わらずのワンマンアーミーぶりだ…。
　まぁ、スタイルの違いとして置こう…。　

「さて、そんじゃあ、行きますか？」
「うむ、わしが先行する、後衛を頼むぞ。」
「O～K～だ。」

　鬼が出るか、蛇が出るか…。
　だが、その時の俺は想像以上のモノが出てくるとまでは考え付かなかった。

　　　　（『灰藤玄太郎の事件簿』　３了。　　４へ続く。）