『灰藤玄太郎の再会』 「明日」
御名神亭の業務日誌
灰藤玄太郎(はいどう げんたろう)と御木楓(みき かえで)の出会いから十数年…。
時は、照和から平誠へと変わっていた。
人目に付きにくい裏路地に突然現れる店、酒屋兼旅館の『御名神亭』へとやって来た“あたし”は深呼吸を一つして、入り口のドアを開ける。
カランカラン♪
「「「いらっしゃいませ。」」」
時は、照和から平誠へと変わっていた。
人目に付きにくい裏路地に突然現れる店、酒屋兼旅館の『御名神亭』へとやって来た“あたし”は深呼吸を一つして、入り口のドアを開ける。
カランカラン♪
「「「いらっしゃいませ。」」」
入ったと同時に可愛い声が二つと男性の声で挨拶される。
「よ!新装開店おめっとさん!」
あたしは旧知の仲…と、言うより親戚になるんだけど…、の三人に軽く開店祝いの言葉をかける。
「あ~!楓ちゃん!いらっしゃい、元気そうだねぇ!」
「楓姉ちゃん!相変らずの少女趣味だなぁ。」
む!…確かに、長いストレートヘアに麦藁帽子、大柄でグラマラスなボディに白いノースリーブのワンピース姿のあたしは、ガタイに比べて多少不釣合いな格好かも知れないが…、
この娘、御剣ほむらの歯に衣着せなさ過ぎる言動はムッと来た。
あたしは素早くほむらの後ろに回り込むとゲンコツでこめかみを力一杯グリグリする。必殺の“ウメボシ”だ。
「あたしの勝手だろうが!」
「あだっ!あ痛だだだっ!痛いって楓ねえちゃん!
って、見てないで、みこと助けろぉ~!」
「え~、だって言ったのはほむらちゃんだしねぇ。」
くすくす笑いながら双子の片割れの御剣みことは助けない。
まぁ、これでも手加減してるのは分かってるんだろう。
「こらこら、楓。
あんまり、ほむらを苛めないでくれよ。」
カウンターからチョッと間の抜けた声がかかる。
声の主はこの店の新店長にして、うちら親戚一同の頭首、…の息子、御名神雷だ。
「あのねぇ、雷くん。
ちょ~っと、じゃれてるだけなんだから、あんまり心配しないでよ。
…それとも何?“契約済み”の娘だから大切?」
「か、楓!?」
「ね、姉ちゃん!」
「いや…ここはかるく流してくれなきゃ…あたしは別に同意があれば良いと思ってるし。」
雷くんの家、御名神家の特殊能力は『複写』。他人の能力をコピーできる。
でも能力には限定条件があって、コピーする人に直接触れて『読み取り』をしないと力を使えない。しかも、一度に『複写』できるのは一種類の上、コピーした本人より若干能力は劣るし、長くても数日しか使えない。
雷くんも男の人では同じなんだけど、女の子は限定解除の仕方が違った。
相手の女の子と一つになる…つまりエッチしなければいけない。
その代わり、能力は同等、下手するとそれ以上だし、複写の時間劣化も起きない。それで『契約』と呼んでいる。
これで、『名の力』“雷使い”が有るんだから、雷くんは御神の一族でも反則な存在なのだ。
「それにしても、あの鋼刃おじさんがよく許したよねぇ~、二人とも雷くんと契約済みなんでしょ?」
「あ、あたしは…。」
「ボク達はその…雷くんとは…。」
「い、いや、二人とは兄妹みたいに育ってきたし…その…自然に…。」
三人して黙りこくっちゃった…。ちょっとからかい過ぎたか…。
まぁ、そうなんだよね。
実の所、雷くんの『契約』が分かったのは二人とエッチしたからなんで…まぁ、それを受け入れちゃうのがうちの一族のいいかげんな所なんだけど…。
「あーもう!羨ましいなぁ~。
って、そういえば、良いの?この店、こんなに暇で…。」
「これでも、夜はハンターの人達の溜まり場になってるよ。
まぁ、父さんがハンター協会の上層部の方で忙しくなったから店は僕がみてるけど、僕自身忙しくなったら誰か雇わないといけないかなぁ。」
「そっか、相手がハンターだと普通の人雇うのも難しいかもねぇ…。
それで、みことやほむらも借り出されてるんだぁ。」
「そうなんだけど…って!そう言う楓ちゃんの“初めて”はどうなんだよぉ!」
お?みことのやつ、言われっぱなしが悔しくて、反撃してきたかな?
こういう時はやっぱりみことの方が強いな、ほむらはまだゴニョゴニョ言ってるし…。
カランカラン♪
「え~、あたし?
あたしは…やっぱ、玄太郎とになるかなぁ~…。」
「「え!?」」
「玄太郎おじさんと!」
「おっさんと!」
おーおー、きれいにハモちゃって、流石は双子だわ。
さて…何ていってやろうか…。
「あれは…あたし達が出会ったあの日だから…。」
「ちょ、ちょっと!それって何年前!って言うか、何才だったんだよぉ~!」
くくくっ…焦ってる焦ってる…。
「そりゃあ、ねぇ。玄太郎ってばスケベなうえ、ロリコンだから…って、痛たたたっ!!」
痛い痛い痛い!って、この痛みは“ウメボシ”!?…って、事は…。
「お前なぁ…くだらねぇ吹かしこいてんじゃねぇぞ…。
あん時のは、事故だからノーカウントだって。
運動で破れちまう事だってあるらしいし、忘れろって言ってんだろうが!」
「げ、玄太郎!?
痛い!痛いから止めて!止めてったらぁ~。」
「ったくよぉ、変わってねぇなぁ楓。
身体だけじゃなく、ちったぁ女らしくしろ、ってんだ。」
ようやく開放されたあたしは、その場にうずくまってしまった。
「いらっしゃい、玄太郎さん。」
「よう、ボウズ、元気そうだなあ、光輝のダンナは元気か?」
「えぇ、元気ですよ。協会の方で忙しいみたいですけどね。」
「玄太郎おじさんいらっしゃい。」
「おっさん!元気だったか?」
「おう、何とかやってらぁ。
みことにほむらも元気そうだな、鋼刃は…元気に決まってるか。」
「ええまぁ、元気すぎて困ってるぐらいで…あははっ。」
って、こいつら人を置いといてのんきに挨拶してるし…。
「ちょ、ちょっとぉ、玄太郎はあたしんだあ~~!」
「誰がお前のもんだよ…。」
「って、言うか、いつの間に来てたんだよ!」
「お前らが初めてうんぬんって辺りだよ。
人を呼び出しておいて、何とんでもない話をしてるんだよ…。」
「だって~、あの時アソコ触ったし、初潮の時は抱きかかえてドラックストアまで走ってくれたし~、あたしのアソコは玄太郎のもんじゃん。」
「だ~か~ら~、人前でそんな話をすんじゃねぇ!」
「あ痛だっ!痛い痛い痛い~~!」
またしても“ウメボシ”だ~~!って、みんな助けずに笑ってるし~。薄情者~~!
「ったく、話が進まねぇ…。
で、俺を呼び出した理由を言え。」
「痛たた…。
って、玄太郎憶えてないの!?
ん~、っと有った!コレ!ハンター許可証!」
「…そうか、お前さんもハンターになったか…おめでとさん。」
「じゃ、無くて!
別れる時、泣いてるあたしに約束したでしょうが!『ハンターになったらまた一緒だ。』って!」
「…おぃおぃ、まだそんな事憶えてたのかよ…。」
「当たり前!
あたしの大切な約束だったんだから!」
ちょっと、信じられない!って、思ったらボリボリ頭を掻きながら玄太郎は店を出て行こうとする。
「ちょっ!…。」
「ったく、わ~ったよ!
約束だからな…早く来い、お前の両親に挨拶に行くぞ…。」
「うん!
あ、雷くん。そんな訳で、あたしは“契約”パスだから、ゴメンね!」
「あぁ、構わないよ。
父さんも『御木の血が続くならかまわない』って言ってたし。」
「ありがと…じゃあね!」
店を出て行く二人…。後に残される三人。
「ちょっと~、雷くん…。
やっぱり、他の娘たちとも…その…“契約”しちゃうの?」
「雷~…。」
すがるような目で見る姉妹にのんびりと応える雷。
「ん~、先の事は分からないけどねぇ…。
しばらくは二人が居れば良いと思ってるし、ね。…それより二人の方が選べないよなぁ…。」
「雷ぃ~。
まぁ、オレは…。」
「ボクとほむらちゃんは二人で一人だから良いけど、ね?」
「お、おう…。」
「ん。」
なんとなく、ウヤムヤになる三人…そうして、ふと、みことが呟く。
「…あれ?楓ちゃんのご両親って…。」
「…あぁ、多分、雨月製薬の跡地だろうね。
母さんや、鋼刃おじさんの話だと、そこの大木が墓標って事になってるらしいから…。」
「そっか、墓参りって事か…。」
「うん。
でも、二人はこれからまた一緒だし…良いんじゃないかな?」
「そうだね。」
「だな。」
(御名神亭の外…)
「…契約って何だよ?」
「ううん、何でも無いよ。
…げんたろー、早くあたしのバージンも奪っちゃってよ…」
「馬鹿やろう!んな事言ってんじゃねぇ…。」
どんな夜も朝は来る。だから、人は生きてゆける…明日を信じて…。
(『灰藤玄太郎の再会』 「明日」了。)
Comment
[403] 良いわけ?
さて、中間エピソードを書かずして、これを書いてるのもどうよ?って感じなんですが…。
ぶっちゃけ、『中の人』が他の事をやるのに、そっちが詰まってまして…。
複数同時進行が極端に苦手なため、こっちをとりあえずの区切りを付ける必要が出てきてしまいました(汗
今回、ほぼ“楓”視点なんで、『灰藤玄太郎シリーズ』と言うより、楓視点の新シリーズっぽいんですが…(たぶん、この後のエピソードを書くなら、楓視点になるでしょう、…書ければ。)
で、実は、もう一回だけ続きます。次回エピローグをお待ち下さい。
ぶっちゃけ、『中の人』が他の事をやるのに、そっちが詰まってまして…。
複数同時進行が極端に苦手なため、こっちをとりあえずの区切りを付ける必要が出てきてしまいました(汗
今回、ほぼ“楓”視点なんで、『灰藤玄太郎シリーズ』と言うより、楓視点の新シリーズっぽいんですが…(たぶん、この後のエピソードを書くなら、楓視点になるでしょう、…書ければ。)
で、実は、もう一回だけ続きます。次回エピローグをお待ち下さい。
[404] Re: 『灰藤玄太郎の再会』 「明日」
もう次はエピローグですか。
なんかもったいないような気が……。
なんかもったいないような気が……。